いたちごっこ
キリン
英雄と王様のいたちごっこ
むかーしむかし、あるところに……とっても栄えた王国がありました。
その国の発展は神様によるものだったらしく、その子孫を名乗る王様と貴族たちは、絶大な権力を持っていました。
そんな彼らは新月の日、必ずいけにえを捧げていました。
捧げられるのは若い娘です。たくさんの宝物と食べ物を積んだ荷車に乗せられて、けらけらと笑う護衛に連れられて、神様がいるとされている洞穴に放り込まれるのです。
いけにえだから、帰ってきてはいけません。放り込む直前では、息の根をしっかりと止め、その上で贈り物と一緒に放り込みます。
いけにえは、貧しい人たちから選ばれます。
抵抗すればその場で殺されます。助けを乞うても殺されます。いけにえの父親は最後まで農具を振り回し、最終的に殺されます。いけにえの母親は、自分の娘にしがみ付いたまま、最終的に殺されます。
そんな清い儀式が何度も行われているうちに、村の中から若い娘はいなくなってしまいました。
次に貴族からいけにえが選ばれました。権力は王様の一言で消え失せます、同じく殺される父親母親、なす統べなく落とされるいけにえの死体、それを彩る宝物の数々。
そんな吐き気を催す儀式が何度も行われているうちに、貴族の殆どがいなくなってしまいました。
王様は自分の娘はいけにえとして相応しくないと、生き残った民に言いました。王様は殺されかけました、王様を殺そうとした人が死にました。王国には空き家が増えました。
王様は我が身惜しさに娘を差し出すことにしました。民は納得しました、王国の人間全員が、例外なく罰を受けることになりました。
そんな所に英雄は現れました。
彼は見事、殺されるはずだったいけにえの娘を救い出しました。加えてその男は、神様を殺しました。民を苦しめていた、虚偽と狂気の色欲に塗れたそれの首を、大勢の民の前で踏みつけにしました。
神様なんて初めからいませんでした。王様は王様ではなくなり、英雄によって殺されたのです。かくして英雄は新しい王様になりました。
でも忘れてはいけません。遠い昔、古い神様を殺し、民から大いなる賞賛を受けた英雄が、たった今殺されてしまったという事を。
そしてこの新しい英雄が、新しい神様になってしまうという事実を。
神様はいません。でも、英雄なんてもっといません。
いたちごっこ キリン @nyu_kirin
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。いたちごっこの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます