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 一昨日、私はルーナの車に乗って、丘の上に来た。ルーカスのお母さんの訃報を朝に受け取ってからすぐに来たのだけれど、着いた時にはもう夕方近かった。

 通夜は昨日の晩に済ませて、市内の斎場でお葬式を執り行った後、遺体は火葬した。骨は私が預かっている。出来ればルーカスのお墓の隣に埋めてあげたいが、それがかなうかどうかは分からない。

 もしかしたら、これから書くことは、こういう誰かの死を報告する文章においては、とても的外れなことなのかもしれない。こういう場合には、お母さんの死因が何だったとか、死に顔がどんなだったとか、そういうことを人は普通、書くのかもしれない。けれど、私はここにはそういうことは書かない。ある人が死んだというそのことについて語ることは、本質的に物事を少しも良くしたりなどしないからだ。

 今日の夕方のことを話す。

 火葬が終わって骨壺を受け取ってから、私はルーナに頼んであの丘の麓まで車を走らせてもらった。何もない大きな平野の町ケイアスと、うっすら橙色の輝きを帯びた青空をフロントガラスの外に眺めながら、ルーナは私に何も聞かなかった。それが私にはとてもありがたかった。

 ルーナが麓の森の木下道に車を横づけにすると、私はお礼を言って車を出た。ルーナも一緒に車を出て、君が帰って来るまでここで待ってるから、と言い、木々にさえぎられて互いのことが見えなくなるまで、手を振り続けてくれた。

 並木道を抜けると、なだらかな丘の斜面に出た。夏草の上に午後の陽射しが輝かしかった。生ぬるい風が丘の上から吹いてきて、頬をうった。一人で歩くと、頂上への道はひどく長く感じられ、気怠さに包まれて私は歩いた。口の中でなつかしい歌をつぶやきながら。《だあれが風を見たでしょう/僕もあなたも見やしない/けれど木の葉を顫(ふる)わせて/風は通り抜けてゆく……》

 丘の上に着くと、私はまず目の前の一本の木立を見上げた。葉叢は西日をはらんでいた。ルーカスと最後にこの木を見たときに見つけた赤い実は見当たらなかった。それから、私はポケットの中を探った。そして指先に硬い感触をみとめると、それをポケットの底から引っ張り出した。一粒の黄土色の乾いた種。八年前の八月三日、ルーカスと一緒に見つけた赤い実の種。私はしばらくしゃがみこみ、地面をいじって土の柔らかいところを探した。

 地面をまさぐっていると、黒色のしなびた果実が落ちていた。乾いてしなびていて、蟻も寄りついていない。先の方が齧り取られていて、拾い上げて鼻の先に持っていくと、つんと腐ったにおいがした。私はそれを再び地面の上に置くと、その隣に指で小さな穴を掘って、掌の中の種をそっとその穴の底に置き、上から土を柔らかくかぶせた。

 私は立ち上がって、木立に寄りかかった。幹のごつごつした硬い質感を服の上から感じた。風が木の葉を揺らすのを聞いて、見上げると、木の葉の重なりの隙間から美しい青空がのぞいた。ふと、いつか見た景色と目の前の景色が重なって、すると、途端に後悔が胸に押し寄せてきて、後から後から湧いてくる涙を押しとどめようもなかった。

 葉と葉の擦れる音が、いつからか、あなたを呼ぶ声に変っていた。




                                Lost of love,

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