第2話
終業後、クラトは帰途についた。
コートを羽織り、自宅の賃貸アパートまでの寒い冬の夜の道を行く。
工場を離れて、上流層向けの高層マンションがぽつぽつ建つ地域を通る。
外灯が並んでいるので暗くはない。
各マンションの広い敷地は頑丈な塀に囲まれて、内側には『マイマイン』が1、2機構えている。
機体に備わった情報認識機能によって、許可なく入った者は即座に排除される。
この辺りは今の時間はいつも静かだ。
だが、ふいに道の先から、女の声が聞こえてきた。
「やめて、やめて下さい!」
揉め事は関わりたくないが、強盗か強姦なら一応警察に連絡しておこう。
状況を確認しに声のした方を塀の陰から見る。
声の主は、長い髪をした、長袖のセーターとパンツの格好の少女だった。
年頃はクラトと同じくらいだろう。
酔っぱらったチンピラ風の若い男がその少女に絡んでいた。
男が少女を追い回し、少女は逃げる。
すると、あろうことか2人は高層マンションの敷地に入ってしまった。
マイマインが不法侵入を感知して、警告音を出し、少女と男の方に向かって脚を動かし始める。
(まずい、踏みつぶされる)
クラトは焦った。
男は酔っているせいか、それを無視して少女にまだ絡もうとする。
マイマインは少女の数メートル先まで来ていた。
「早くそこから出ろ!」
叫びながらクラトは敷地の前まで走った。
途中、マイマインの目が光り出す。
「きゃあ!」
少女はかがみこんだ。
その途端、男が悲鳴を上げて、地面に倒れて目を抑えて仰向けになってもがいた。
「ぎゃあああ!目があ!」
『マイマイン』の持つ、高出力赤外線レーザーを直に食らったのだ。
クラトの作っている部位になる。
機体の目の部分から、眼球にピンポイントでレーザーを当てて、網膜を損傷させる。
かがんでいた少女が立ち上がり、逃げようとした。
倒れる男にマイマインが迫り、踏みつぶそうとしていた。
「ダメ!」
それに気づいた少女が、喚く男の足をマイマインから目を背けながら引っ張り始めた。
しかし、力がないのか動かない。
「くそ!」
そこで、走っていたクラトが少女の横について男の足を持った。
「あ」少女がクラトの方を見る。
「いくぞ!」
「は、はい、すみません!」
クラトと少女は男を思い切り引きずり、マンションの敷地から出した。
しばらくして、マイマインは静止する。
クラトは息切れを起こしながら、路上で背をかがめた。
「あの……」少女が傍らに寄る。
少女も息を切らせながら、頭を下げ、手を重ねてクラトに謝った。
「すごく迷惑をかけてしまいました、本当に、ごめんなさい」
「あ、ああ。それより、早く離れよう。不法侵入扱いにされてものすごく面倒なことになる。警察沙汰はごめんだ」
「え、ええ。でも、あの人は?」
少女は、路上の隅で倒れている男の方に目をやった。
「君の彼氏か?」
「いいえ、全然知らない人です。歩いていたら声をかけられて……」
「だったらほっといていい。A・Gは敷地の外にいれば狙わない」
「は、はい」
「じゃあ、俺は行く」
クラトはその場を離れた。
その後ろを少女がついてくる。
クラトが振り向いて聞いた。
「どうした?」
少女は話しづらそうに答えた。
「ご迷惑をおかけした上に、こんなことを頼むのは、恐縮なんですが、あなたの家に泊めて頂いてもいいでしょうか。その、私、帰る場所がなくて……」
そういって深く頭を下げた。
「帰る場所がないって、家出してるのか?」
「家出というか、実は、私、ホームレスなんです。お金もなくて」
「なんだって?」
見かけではそう見えない。
そこで、少女のお腹が大きく、ぐうと鳴って、恥ずかしそうに顔を下に向けた。
何か食べさせた方がよさそうだ。
「知らない男の家で不安じゃないか?」
「外で過ごすのよりはいいです」
「一部屋しかないし、狭いけど」
「構いません。お部屋の隅を使わせて頂くだけでも。なるべく迷惑にならないようにしますから」
暗くなっているし、寒い。
仕方ないか。
「分かった、泊めてくよ」
「ありがとうございます!」
終末兵装ライドステラ 砂擦要 @sunazuri
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