第16話
「ということがありまして……」
「ふぅん。で、小豆に助けてもらったと――」
今僕は、ベットの上に座り風呂上りで美顔ローラーをコロコロと動かしている二心の前で正座している。なぜなら夜遅くに二心の部屋に呼び出され、今日あったことの報告をさせられていたからだ。そして計画が失敗して姫川さんに助けてもらったという説明が一通り終わったところで、不機嫌そうにする二心はスマホの画面を僕に見せてくる。
「うまくいかなかった割には、楽しそうね」
それは姫川さんと撮った写真だった。彼女が二心に送ったのだろう。
「そ、それは、頼まれたから仕方なく……」
「ふぅん。それにしては、笑顔でノリノリに見えるけど。えらく密着してるし。女装したらなんでもしていいと思ってるんじゃない? キモいんですけど。通報していい?」
「ち、違うから! 離れてって言っても、姫川さんの方がやめてくれなかったんだよ」
「ほんとかしら? あの子、男子が苦手なはずなんだけど」
「そうなの? 雨宮さんと同じだ……」
「雨宮さんって、誰?」
「あ、ごめん。僕が今日会いにいった人のことだよ」
「その人も男子が苦手なの? でも、サブのこと話し易いって言ってたのよね?」
「そう。男子が苦手だけど、なぜか僕だと話し易いって言ってくれたんだ」
「で、調子に乗って友達になろうって言ったら断られたんだ。ウケる」
「ウケないで」
「サブはほんとに、やることなすこと考えが甘いのよ。危機管理能力が低すぎるわ。今日だって休憩時間に会えそうにないと思ったなら、なにもせずにそのまま帰ってくればよかったのに。自分で騒ぎ起こしといて、もしその『西園寺』って人が助けてくれなかったら、どうしてたつもりなのかしら。警備員に連行されて親とか先生を呼ばれてた可能性もあるでしょ? そのあとだってそうよ。すぐに帰ればいいのに、だらだら彼女と話してたみたいだし。私が小豆に頼んでなかったら正体がばれてたかも――」
「正体ばれそうになったのは、同じ時間に二心がSNSあげまくってたからで……」
「なに?! 私のせい?!」
「い、いえ、違います。すべて僕が悪いんです……」
「ったく。そう思ってるなら……そうね。次は謝礼の話をしましょうか」
「……はい?」
「ないの? メイク教えてあげたり、小豆にヘルプお願いしてあげたりしたことに対する感謝の気持ちは?!」
「あ、あるよ! すごく感謝してるから。でもそれって……お金?」
「お金はあんたより持ってるわよ。そうじゃなくて、ちょっとお願いがあるんだけど」
「お願い? また嫌な予感しかしない」
「実はダブルブッキングしちゃってね。この私としたことが」
「ちょ、ちょっと待ってよ。まさか僕が二心になってどちらかに行けってこと?」
「まあ、簡単に言えばそうね」
「それはさすがに無理でしょ! 仕事だよね?!」
「仕事というか……。仕事と学校で予定が重なっちゃって。どちらかをサブにお願いしたいのよ。今回はこれが謝礼ってことにしてあげるから。大サービスよ」
「……断ったらどうなるの?」
「そうねぇ。この前撮影した女装変態弟写メをSNSにアップするくらいだけど……。そっちがいい?」
「んなわけないでしょ!」
「どちらも簡単なことだから、そんなに心配しなくても大丈夫よ。さぁ、選んで」
「いや、内容聞かないと選べないよ」
「なによ。男ならなにも聞かずに『俺に任せろ!』くらい言えないのかしら」
「さっき、危機管理能力が低いって言われたばかりだけど?!」
「ったく。細かいこと気にする男ね! それじゃ仕方ないから教えてあげるわ。まず仕事の方だけど、これはスタジオに行って、向こうが準備した衣装着て写真撮ってもらうだけの仕事よ。簡単でしょ?」
「簡単なわけないでしょ。で、学校の方は?」
「そっちはもっと簡単よ。毎年うちの高校とあんたの高校で文化部交流祭があるのは知ってるでしょ?」
「そう言えば、そんなのあったね。毎年一回やってるお祭りで、同じ部が対決したり、合同で発表会したりとかするんだっけ? 僕は部活やってないから関係ないけど……。確か今年は来週の日曜だよね」
「そのお祭りイベントに生徒会からお願いされて参加することになってたんだけど、仕事が入っちゃったのよ。生徒会には理由説明して断ろうとしたんだけど、なんとかならないかってしつこくお願いされててね。お母様に相談したら『三郎に行かせたらいいんじゃない?』って言われたわ。だからお母様公認よ」
「母さん、めちゃくちゃ言ってるな……。で、二心は具体的になにするの?」
「確か手芸部が作った衣装着て、演劇部が作ったランウェイ歩くんだったかしら。二時間くらいで終わるらしいし、打ち上げも出なくていいって言われてるし、問題ないでしょ」
「いやいやいやいや。問題だらけだよ! それって僕が二心の格好して天河学院に行くってことでしょ? 絶対嫌だから! 万が一、参加してる二心の友達とかに話かけられたらどうするんだよ! うまく対応できないよ!」
「それも大丈夫。小豆がいるし」
「姫川さんも? どうして彼女がいるの?」
「あの子も同じ高校だからよ。小豆もモデル役で参加するの。ちゃんとフォローするようお願いしとくから」
「いや、それでも……」
「だったら仕事の方に行く? 無理でしょ? もう、観念しなさい! たまにはさ、こういうことでもして心をリフレッシュしなさいよ……」
「いつもそれ言うけど、全然リフレッシュできてないから」
結果、強引に押し切られた僕は、文化部交流祭に参加することになるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます