第3話 ババ抜き/カードさばき/第一ラウンドetc……

 敗者同好会に参加してから1週間が経った。

 行くも行かぬも自由なので、用事がない日にだけ顔を出している。同様に、大抵のメンツが来たり来なかったりを繰り返しているので、行く度にいる人や数がバラバラだ。

 今日はボクもミヤビも予定はないので、揃って小会議室に向かう事にした。


「失礼しまーす……」


 遠慮がちにドアを引き、顔を覗かせる。


「あっ、矢野っちと奥平っちじゃん」


 来ていたのは4人だった。

 そのうちの1人、失恋ギャルの平田先輩が反応した。他には、坂先輩と、斎藤と日比野の2年2人だ。


「……って」


 ふとボクは、斎藤の手元に視線を吸い寄せられた。

 その滑らかな手つき……ではなく、彼が持っている物を見て、思わず溜息混じりに声が出る。


「トランプやってんのかよ……」

「いいじゃないか。ここでやってはまずい理由もなかろう」

「そもそもここ誰も使ってないからって勝手に占拠してるだけでは?」

「まぁそれより、お2人も参加しないか?」

「……何をするんだ」


 プラスチック製のカードで器用にリフルシャッフルをしながら、ドヤ顔を向けてくる斎藤に対し、呆れ気味の表情を残しながらも質問を投げ掛ける。

 別に高校でトランプをやるのは禁止などされてはいないが……それでも遊んでばかりのこの集まりに、少し思う所がない訳でもない。


「まぁ定番だがババ抜きなんてどうだ?」

「ババ抜きか……ミヤビはどうする?」

「アタシはやりたい‼︎」

「じゃあやるか〜」


 ……まぁ思う所はあっても、ボクも実際トランプしたいわ。



≪≫



•ババ抜き


彰征「でもババ抜きって意外とやらないよな」

雅「そうかな?定番すぎて逆にやらないとか?」

瀬那「まぁうちらの年齢になれば大富豪の方が多いよね」

十優「後はラミーとかよくやりますよねぇ〜」

雅「えっ日比野ちゃんの世界の高校生そんなんなの?」

彰征「ナチュラルに異世界人扱いするな」



•カードさばき


彰征「……にしても、斎藤カード配るのめちゃくちゃ上手だな」

雅「だよね。器用に指動かして、滑らかにカード滑らせてるし、しかもカードが止まる場所も安定してる」

瀬那「斎藤っち、本当に上手なんだよねぇ。ここに来た時から既に上手かった記憶」

礼央「ハハっ、ポーカーのディーラーのバイトで鍛えたからな」

彰征「えっ本当なのか⁉︎」

礼央「嘘だけど」

彰征「嘘かーい」

雅「いやうちの高校は原則バイト禁止なの忘れたの⁉︎」



•第一ラウンド


十優「中々合いませんねぇ〜……」

礼央「まぁ、6人いるからな」

彰征 (最初そこそこ捨ててスタートできた分、今はボクがリードしてる。何とかしてこのまま……‼︎ だけど……)

坂「あっ、漸く捨てられた」

彰征 (相手は坂先輩。この人あまり表情に出ないから、しれっとジョーカー持ってたり、しれっと上がりそうで怖いんだよな……)

瀬那「矢野っち考えるね〜」

彰征「よし、これだ‼︎」

彰征 (何とか持ってるのと同じ数来てくれ‼︎)

彰征「………………」

礼央「あの顔ジョーカーじゃね?」



•この場合確率100%


彰征「そーれミヤビ」

瀬那「あー1枚だけ目立つように持ってる」

十優「あれやるの時々いますよねぇ〜」

彰征「これも作戦のうちだからな」

雅「……しょーくん」

彰征「何だい?」

雅「そこから1枚選ぶから、それ以外のカードからババじゃないのを1枚教えて」

彰征「モンティ・ホール問題をババ抜きの作戦に悪用する人初めて見たよ」

坂「そもそも教えるなら1枚選ぶ必要がない……」



•罰ゲーム


瀬那「あっ揃った」

礼央「って事は⁉︎」

瀬那「もうないよー」

坂「クソ、あがられたか……」

瀬那「そんでー、最下位の罰ゲームだけどさ」

彰征「うわ1位になるや否やさも前から決めてたかのように罰ゲーム持ち出してきたぞ」

礼央「暇ならトライアルでも行ってお菓子買ってきて下さいよ」

瀬那「じゃあ最下位はお菓子買ってくるって事で」

礼央「ははっダルすぎ」

坂「平田が行けば良いじゃないか……」

瀬那「だってぇ、下々の戦いを傍観するのって楽しいじゃん?」

彰征「これ大富豪じゃないですからね?順位で身分生まれませんよ?」



•左右


十優「いやぁ〜上がれて良かったぁ〜……」

瀬那「さぁどうなる⁉︎ 斎藤っちと矢野っちの最下位争いだ‼︎」

坂「2枚対1枚だから、ここで揃うかどうか……」

礼央「こんな筈ではなかったんだがな……」

彰征「御託ごたくはいい、左右どっちかを選ぶんだ‼︎」

礼央「右投げ左打ちが好きなんで右を選ばせてもらおう」

雅「そんな理由で左右選ぶ人初めて見た」

彰征「ミヤビ、まず右投げ左打ちでどうして右選ぶ事になるのかツッコんで」



•ドベの役目


彰征「だぁ〜っくそぉ‼︎ ジョーカー引いて欲しかったのに‼︎」

十優「彼氏さんがドベ決定ですねぇ〜」

礼央「ふっ……知らんがために我信ず -アンセルムス-」

彰征「絶対その言葉ババ抜きに関係ないだろ‼︎」

雅「勝利宣言のつもりなんだよ」

彰征「勝負にも関係ねぇ‼︎」

瀬那「んじゃ、矢野っち罰ゲームとしてお菓子買ってきて〜」

彰征「本当にやるんだな……ミヤビも来てくれないか……?」

雅「えっ面倒だし嫌だ」

彰征「ぬ〜ん…………」



•お菓子


雅「トッポ買ってきてよ。1袋あげるからさ」

彰征「買ってきたらポッキーゲームやらないか」

雅「嫌だ。そもそもトッポでやったらポッキーゲームじゃないでしょ」

彰征「ぬ〜〜ん………………」

坂「申し訳ないね矢野くん……僕にはコアラのマーチ買ってきてくれれば。味は任せるよ……」

彰征「あっ、はい。分かりました」

瀬那「ウチは折角だからカントリーマァムにしよっかな」

彰征「嵩張かさばるものを……」

礼央「ポテトチップスで。あっ、デカいサイズの方ね」

彰征「何でカントリーマァムを超えてくかな……」

十優「とゆにはゴディバをお願いします〜」

彰征「高すぎるよ‼︎」

雅「そもそも売ってないでしょ」



•住所


彰征「それじゃ、15分程度で帰ってくるんで」

皆「はーい」

瀬那「……さてと、矢野っちが今いないし、奥平っちの事を色々訊いてみたいな〜」

雅「答えられる範囲なら……」

瀬那「じゃあ、矢野っちとの馴れ初め教えて‼︎」

礼央「確かに気になるな。2年の春に知り合ったけど、その頃から矢野くんに彼女がいるのは知ってたし」

雅「え〜いきなり……まぁいいですけど……」

瀬那「わーい」

雅「……元々、漫画研究部と映画研究部に入ってるんですけど、そこで初めて知り合って。帰りが同じ方向だったんで、部活の後は一緒に帰る事が多かったんです」

十優「お2人ってどの辺に住んでるんですかぁ〜?」

雅「私は幕別駅の近くで、しょーくんは池田駅の近く」

瀬那「はえ〜遠いねぇ」

坂「俺は中札内なんだけど……」

瀬那「えっ」

十優「とゆも清水町なんで、同じくらい遠いですねぇ〜」

瀬那「えっ待って、今日来てる中で帯広市内に住んでるのウチだけ⁉︎」

礼央「あれっ俺の存在は?」

※詳しくは地図をご確認下さい



•もうそろそろ1年


雅「真面目なのに面白いし、顔も良い方だと思ったんで、気付けば好きになってました。まぁ知り合って早いうちから両想いだったと思うんですよね」

瀬那「あらあら自信あるのね。本人には聞いたの?」

雅「聞いてはいないんですけど……デートに誘う時とか、もう見てすぐに分かるレベルで顔赤くなってて……分かりやすいんですよ本当に」

瀬那「まぁ可愛いじゃない」

礼央「付き合ったのはいつ頃? 1年の時だよね?」

雅「去年の2学期終わりらへんかなぁ。何度かデートも行って、両想いなのが完全に分かった頃に、彼から『付き合わない?』って」

瀬那「うわぁー‼︎ なんか良いわねー‼︎」

坂「何かおばさんみたい……」

瀬那「だって尊いじゃん⁉︎ ニヤけちゃうじゃん⁉︎ 若いって良いわね〜ってならない⁉︎」

礼央「すげぇ坂先輩がシバかれてない」

十優「まず先輩も18歳の若者なのをツッコむべきではぁ〜?」



•お願い


瀬那「でもそっか〜矢野っちは照れ顔が分かりやすいのか〜」

礼央「まぁ俺は知ってましたけどね」

瀬那「えっそこマウント取る所?」

十優「顔赤くなるのがどの位なのか見てみたいですねぇ〜」

瀬那「あっ分かる〜。奥平っち見せてよ」

雅「見せてって……」

瀬那「簡単よ、彼氏を照れさせるんだよ」

坂「また悪ノリを……」

礼央「だけど面白そうだ。恋人としての関係性もちょっと分かってきそうだし」

十優「見たいか見たくないかで言うなら、とゆは見たいかなぁ〜」

雅「えぇ〜……やらなきゃいけないんですか……?」

瀬那「出来る範囲でいいから‼︎」

礼央「先っちょだけでいいから‼︎」

雅「先っちょ関係ないでしょ」



•作戦考え中


雅「まぁそこまで言うなら、しょーくん帰ってくるタイミングでやりますよ……」

瀬那「やったー‼︎」

礼央「お礼にこのびっくりドンキー100円引きクーポンをあげよう」

雅「嬉しいような嬉しくないような物をありがとう」

十優「それで彼女は何やるつもりなんですかぁ〜」

雅「しょーくんはギャップに弱いから……やるなら普段のアタシとはちょっと違う感じで迫れば簡単にいけるかも」

礼央「ニーブラしてから耳元で囁きとか?」

瀬那「三段跳びして抱きつくとか?」

雅「アタシの事なんだと思ってんですか」

坂「平田のは矢野くんへの負担がキツいでしょ……」



•足止め


十優「ゴクゴク……まぁ全部彼女さんに任せて良いんじゃないですかぁ〜?この中なら彼氏さんの事は圧倒的に一番分かってるんだしぃ〜」

礼央「日比野くん今普通な顔して他人のコップの中身飲んだよね?」

瀬那「取り敢えず矢野っちが帰ってくる前に考えないとね」

雅「さっき店出たって連絡あったんで、そうかからないで戻ってきますよ」

十優「じゃあ急いで考えなきゃ……」

瀬那「最悪足止めするから」

雅「そこまでやるもの……⁉︎」

瀬那「シャツとスカートだけなら脱ぐ覚悟できてるよ」

雅「何する気ですか」

礼央「野球拳だろ」

雅「しょーくんまで脱がすの⁉︎」

十優「彼女さん、ツッコミしてると帰ってきちゃいますよぉ〜」

雅「あぁそうだね……でもしっかり考えた所であまり変わらないような気がするから……少し雑だけど、さっき2人が言ってた変なアイデア使わせて貰います」

礼央「三段跳びでニーブラするのかい?」

雅「アタシって本当にしょーくん照れさせれば良いんだよね……?」



•彼女の本気


彰征「ただいま帰りましたー……」

雅「しょーくん」

彰征「おぉどうしたミヤビ。そんなかしこまって」

雅「はい、取り敢えずお菓子そこに置いて」

彰征「えっ、はい」

雅「そこに立って」

彰征「あの、何を……」

雅「じゃあしっかり支えてっ、ねっ‼︎」

彰征「はえってうぉっ⁉︎」

十優「ジャンプで抱きついた⁉︎」

坂「よく支えられるな……」

雅「……大好きだよっ」ボソッ

彰征「〜〜っ‼︎」

瀬那「おぉ〜ちゃんと赤くなった‼︎」

礼央「ダイナミックハグからの耳元で囁き……見事だ……‼︎」

彰征「あ、あのっ、何でこんな事をっ⁉︎」

雅「えへへっ、ドキッとした?」

彰征「〜〜〜〜っ‼︎」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る