第6話 作者もよく寝てた/欲望の対処/全身ガードetc……

 冬の近づきは、夜を早く呼び込む。

 授業が終わって1時間もすれば、もう外は真っ暗になる。部活などの帰りの時間となれば言うまでもない。


「久しぶりに顔出したけど、なんだかんだで楽しいね」

「だな。また定期的に行こうか」


 今日は同じ部の友人に誘われたので、ミヤビと一瞬に映研の活動に参加した。見る映画が気になってた作品だったのもあり、楽しい時間を過ごせた。


「う〜っ、寒い……」

「手、握るか?」

「おねがーい」


 ボクはミヤビの手を握る。

 小さな手は確かに冷えている。マフラーや厚めのタイツで防寒しているが、手袋だけは忘れてきたそうで。握る方の手はボクも手袋を外したので、彼女の溜め込んだ冷たい感触が十分に伝わってくる。


「こりゃ冷えるよな……」

「急に寒くなったしね〜。取りに戻れたら良かったんだけど」

「折角だから、ラーメンでも食べて帰るか?」

「おっ、いいねぇ。少しは温まりそう」


 すぐに来るバスがなかったので、冷えた夜の道を2人で歩き、飲食店の集まるエリアまで向かう。

 アニメ1本が見終わる位の時間をかけて、目的まで辿り着く。

 照明の下に、数人の影が佇んでいた。それなりに人気のある店なので、時間によっては並ぶ事もあるのだ。

 ボクとミヤビは、その最後尾に並ぶ。

 ……とその時。


「……あれ?」

「……あっ‼︎」


 前に並んでいた人と目が合うと、お互い驚きの反応が生まれた。

 それもそうだ。店前で待機する列、ボクとミヤビの一つ前にいたのは──────


「及川先輩、何でここに?」


 上着の上からでも分かるガタイ、この気温にも関わらず首周りの防寒を一切してない代謝の良さ。それはまさに、陸上部の部長だった及川先輩だった。


「俺もこの店時々行くんだよ」

「美味しいですもんね」

「今まで何してたんですか?」

「放課後に講習があってさ。もう一次試験まで2ヶ月位しかないからな」


 そうか。今年も残すところ後少し。年が明ければ、まもなく共通テストが待ち構えている。我が校も道内では結構上位の高校なので、3年生は放課後に講習を受ける機会があったりする。


「何の講習だったんですか?」

「あぁ、それはだな──────」


 こんな感じで、ラーメンを待ちながら会話が始まった。



≪≫



•作者もよく寝てた


満「まぁ、そんな感じで国公立の二次試験対策ばっかよ」

彰征「共テは大丈夫なんです?」

満「一応、教科書の範囲は全て終わってるから、もう授業は一次試験形式の問題演習しかやってないんだ。だから取り敢えず年末年始までは二次に備えて赤本解いたりしてる」

彰征「成る程……」

満「まぁ授業途中で寝るんだけど‼︎」

彰征「おい‼︎」

雅「カフェイン取ってみたらどうですか?」

満「生憎だが、俺はカフェイン無効化の力を得てしまってな……」

雅「慣れたんですね……」



•欲望の対処


満「睡眠欲と食欲と性欲、全てを抑えなくっちゃあならないってのが受験生のつらいところだな」

雅「せめて性欲は抑えて下さいね」

彰征「いや睡眠欲も抑えなきゃダメだろ⁉︎」

満「ふむ、なら食欲は問題ない、と」

彰征「えっ、まぁ……休み時間に早弁したり軽食つまんだりすれば良いでしょ」

雅「でもしょーくん、授業中にこっそりガム噛んで空腹紛らしてたよね」

彰征「クソッ、クラスが違うのに何故知ってる……⁉︎」

雅「いやアタシに言ったでしょ前に」

満「なーんだ……」ポン

彰征「どうして悪友を見つけたような目で肩を叩くんですか?」



•全身ガード


雅「うぅ〜っ……寒い……‼︎」

彰征「大丈夫か? 歩いてきたのがまずかったかな」

満「もう少し並ぶからなぁ……前の人達を1人ずつだるま落としみたいにハンマーで吹っ飛ばせれば良いんだが」

彰征「店内より先にパトカーに入りそうなんですがそれは」

満「畜生ッ……‼︎ 折角鍛えたこのフィジカルがこんな所でさえ役に立たないとは……‼︎」

雅「役立ってるじゃないですか……大した防寒せずに平気そうなのに……」

彰征「そうですよ。見て下さい、いよいよミヤビなんてフードまで被りはじめて不審者ですよ」

満「自分の彼女を不審者呼ばわりする人はそうそう見ないな……」



•脱線


満「それに、俺は暑い寒いは気にしないというか、我慢しがちなだけだと思うぞ」

雅「我慢できるのも才のゔっ……のうちですよ」

彰征「ミヤビ大丈夫か……?」

雅「うん。もうすぐ入れるだろうし……」

彰征「キツくなったら温かい物でも買ってきてやるから」

雅「ありがとう」

満「……えーっと、そうだな、2人はもうストーブはつけ始めたか?」

雅「当たり前じゃないですか……」

彰征「日によって変わるけど、つける事の方が増えたかなぁ」

満「だろう? 俺はまだだ」

雅「あぁ……先輩が凄いドヤ顔してる……」

彰征「おい、先輩真顔だけど」

雅「じゃあ幻でも見てブルルル……のかも……」

彰征「ミヤビイィィー‼︎ 本当に大丈夫かー‼︎」

満「あぁクソ話が進まない‼︎」



•耐性


彰征「で、何でしたっけ? 先輩がストーブ列車乗ってきたって話だったか?」

雅「ほぼ合ってないよ。しょーくん話聞いてたの?」

彰征「うわぁ急にマジなトーンになるな‼︎」

満「っほん……それで、俺はまだ暖房をつけてない訳なんだが、俺って暖房をケチりたいタイプでな。去年も流石に暖房つけたるぞ‼︎ってスイッチ押したら室内温度が一桁になってた」

雅「ヒェッ」

彰征「よくそこまで耐えますね……」

満「似たような事は他にもしてる。例えば、

紅白で北島三郎見ようとしてテレビつけたらゆく年くる年になってたり」

雅「困った、どこが似てるんだろう……」

彰征「そもそもサブちゃんが紅白出てたのいつの話だよ」



•ご注文は?


雅「はぁ〜、やっと中に入れた〜……」

満「あったかいねぇ」

彰征「何頼むかな〜……先輩どうします?」

満「硬め普通多めで」

彰征「家系ラーメンじゃないんだけど」

雅「敢えてスープだけ普通にしてるのが、よく行ってる人感ある……」

彰征「ちゃんと答えて下さいよ」

満「スマンスマン、味噌バターコーンラーメンの麺大盛り煮卵トッピングだ」

彰征「うわぁ盛り盛り‼︎」



•急転


彰征「ボクは大盛りにしない代わりに焼飯頼むかな。ミヤビ、少し食べるか?」

雅「えっ、いいの? ありがと」

満「焼飯って店の火力じゃないと出せない味があるよな」

雅「分かります。家で作ると物足りないですよね」

満「あの火力があれば憎んでいる奴らを消し炭に出来るんだけどな」

雅「話が直角に曲がってきたんだけど」

彰征「いくらなんでも人を消し炭にするのはキツいでしょ」



•作者も嫌い


彰征「あんま良くないですよ、そういう事を言うのは」

満「悪いな。でも、彰征にだって憎んでいるものくらいいるだろ?」

彰征「まぁ……いるにはいるけど……」

雅「いるんだ……」

満「だよな。因みにどんなのだ?」

彰征「その作品に愛もないのにイナゴの如く飛びついて成人向けの絵を書く人」

雅「えらく具体的だね⁉︎」

満「成る程成る程。因みに俺はSNSで無断転載の画像や動画でインフルエンサーぶってる人」

雅「2人共画面の向こうを憎んでむなしくならないんですか……」



•外食


雅「あっ、親に晩ご飯いらないって連絡しないと」

彰征「それは忘れたら大変だな」

雅「既に遅い気もするけど……」

満「彰征はもうしたのか?」

彰征「あーいや、ウチは飲食店なんで、晩飯はそれの余りというか、客に出すのに使った食材で作ったの出される事多いんで……メニューと同じものになる日も珍しくないから、向こうはボクが外食しようがあまり影響ないんです」

雅「アタシは一人っ子だから、家で食べるかどうかで大きく変わるからね〜」

満「俺は下がいるのもあるから、一応連絡はするけど、連絡が遅くなっても『あらそう』の一言で済まされる」

雅「それは良いですね」

満「まぁ、『飯食って帰るから遅くなる』って連絡して、なか卯で勉強しながら食ってたらいつの間にか寝落ちして、結局午前3時近くに帰ってきた事あるんだが、その時は流石に怒られたね」

彰征「残当」

雅「というか、なか卯は勉強なんかしながら食うものでもないでしょ」



•挨拶の語尾


雅「あっ、来たよ」

彰征「よーし、食うか‼︎」

満「いただきマストドン」

彰征「うわ謎の挨拶始めたぞこの人」

満「ははっ、他にもパターンあるぞ。おやすミスキー、いってライン、こんばんワッツアップ」

雅「最後の『わ』と『は』が違いますよね?」

彰征「食事終わっても『ごちそうさマストドン』なんですか?」

満「いや、『ごちそうさマッキントッシュ』だ」

彰征「何でだよ‼︎」

雅「そもそもSNSどころかアプリですらない……」



•志望校はよく考えて決めましょう


雅「はぁ〜あったかい……」

満「うめぇ……うめ……梅……梅沢富美男……」

彰征「えっ何その……」

雅「食事の時そういう事言わないと気が済まないんですか……」

満「悪い悪い。ラーメンの話にするよ」

彰征「そう言えば先輩のはどんな感じの味なんです?」

満「一口やるよ。食ってみた方が早い」

彰征「どうも……あっ、スープも濃厚で良いですね。美味しい」

満「いや〜ラーメンは良いな。毎日食べていられる位」

雅「そんなに好きなんですね」

満「今から志望校を久留米大に変更しようかな……」

彰征「ラーメンで決まる進路嫌すぎる‼︎」

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