第7話 本分/説明しよう/彼女が見てるetc……

 冬が完全に到来した。

 廊下は寒く、教室移動の際には上着や毛布を羽織る人も珍しくない。

 窓の外には、銀世界が広がっている。昼休みの時間にそちらを見ると、時たまグラウンドで暴れ回ってる生徒らを見られるのだが、なんとまぁ元気のいいこと。あそこまで雪にまみれるのを厭わないとは……

 そして雪が積もる頃になれば、いよいよ受験が近づく。

 もう12月。ボクやミヤビはもう1年後だが、先輩達は来月には共通テストだ。

 気付けば敗者同好会に加わって数ヶ月。あっという間に、先輩との別れの季節も近づいてきた。

 とは言え、2年生の斎藤や日比野だっているし、小会議室にはミヤビ共々向かうのだけれど。まぁ、集まりが悪いのは仕方ない。学生の本分は勉強なのだ。


「よう、お2人さん」

「いやなんかめっちゃ遊んでるしー⁉︎」


 おい、これなんなん。

 普通に男子4人が来てるんだけど。しかも思いっきりトランプで何かやってんだけど。

 ボクとミヤビが部屋に入ると、テンション高いままに全員がこちらに視線を寄越していた。座っている位置がドアに一番近い赤木先輩が手招きする。


「矢野も『一番低い数字出した人が性癖開示するゲーム』やろうよ」

「一番低い数字出した人が性癖開示するゲーム⁉︎」


 なんなん………………



≪≫


•本分


雅「ちゃんと勉強もしてるんですか……?」

満「まぁ授業頑張ったし」

彰征「先輩よく寝てるって言ってましたよね」

赤木「まぁ共テ5割取ってればいいかなって」

彰征「本当に取れるんですか……?」

坂「ごめん……怠惰な受験生でごめん……」

彰征「うわぁ謝罪もそれはそれで反応に困る」

礼央「………………」ドヤァ

彰征「お前はうっぜー顔でこっち見んな‼︎確かにお前成績良いけどさ‼︎」

雅「しょーくん、ツッコミ疲れないの……?」



•説明しよう


満「根の詰め過ぎは良くないからな。これは部活でも勉強でも同じだ。オンオフを意識するのが大切さ」

赤木「という訳で矢野もやろうか」

彰征「うーん、正当化の言葉にしか聞こえないが……仕方ない……」

雅「しょーくんチョロいなぁ」

彰征「それで、どんなゲームなんです?」

満「それぞれが同じスーツのカード13枚を持つ。そして一斉に一枚ずつ出して、その時一番低かった数字の人が自分の性癖を吐くってゲームだ」

彰征「うわぁ名前聞いただけでもアレだったが、ルール聞くと更に酷く感じる」

礼央「因みに一番低い数字の人が複数いたら、その全員が性癖を暴露する」

彰征「つまりA出すと必ず性癖言わんといけねぇって事かよ‼︎」

礼央「まぁ13回やる訳だから、全員合わせて最低13個、それぞれ複数個は性癖言わないといけないな」

彰征「クソッ‼︎乗るんじゃなかった‼︎」

雅「そもそも何で性癖言わないといけないゲームに参加しようとしたの……」



•彼女が見てる


礼央「トランプ1つしかないから、参加上限は4人なんだ。俺が抜けるよ」

彰征「そうか。ならミヤビとどこか行って時間潰しててきなよ」

雅「えっ何でアタシも?」

彰征「いや、だって……彼女の前で性癖吐くとか恥ずかしいに決まってんだろ」

雅「えーっ、聞きたいから見てるよ」

彰征「やだーッ‼︎」

赤木「いいじゃないか、羞恥プレイなんてそうそうやる機会ないぞ」

彰征「やりたくねぇよ‼︎」



•性癖強者


礼央「さて始まりました、一番低い数字出した人が性癖開示するゲーム2回戦。矢野彰征参加により交代しました、斎藤礼央がお送りします」

彰征「実況始めんな」

礼央「さて解説は奥平雅さんです。最初に一言をお願いします」

彰征「ミヤビ巻き込むな‼︎」

雅「えーと、さっきもやってた3人は性癖の残弾があるのか気になります……」

満「フッ、性癖の10個や20個なくて何が男だ」

赤木「おいらの辞典に『在庫切れ』の言葉はねぇんだ」

彰征「何で強敵感出してんの……」



・1回目


彰征 (最初は真ん中らへんの数字で取り敢えず回避するか……)

礼央「決まりましたか?では、オープン‼︎」

彰征「8‼︎」

満「J‼︎」

赤木「5‼︎」

坂「……‼︎」

礼央「おーっと、ここは坂先輩が4で最小ですね。じゃあ性癖をどうぞ‼︎」

坂「うぅ……マスク付けてる女子が、少しマスク引っ張って隙間からお菓子を口に入れる瞬間…………」

雅「えっこんな具体的なの……⁉︎」

彰征 (うわぁ絶対やりたくねぇー‼︎)



•2回目


使用済み

彰征:8

満:J

赤木:5

坂:4


彰征 (いやでも何回かは覚悟しないといけないんだよな……まだ思いつかないのに……)

赤木 (矢野に言わせてみたい……だが、まだ低い数は出さない筈……)

満 (2回戦……誰かに読まれてる可能性もあるが、スタンスは変えずに行く‼︎)

坂 (僕より低い数出してくれますように……)

礼央「では、オープン‼︎」

彰征「7‼︎」

満「3‼︎」

赤木「10‼︎」

坂「……3」

礼央「おぉ‼︎ここで一番下が被った‼︎」

坂「またかよ……」

満「はい‼︎アイシャドウ厚く塗ってるのに運動する時は全力な人‼︎」

雅「凄くノリノリ……」

坂「い……いつもストレートの人がかきあげて髪を結んだ時の後れ毛……」

彰征 (坂先輩の声が弱々しい……)



•3回目


使用済み

彰征:7、8

満:3、J

赤木:5、10

坂:3、4


彰征 (攻め時をミスるとキツいが……ここは覚悟を決めてく‼︎)

坂 (もう嫌だ……‼︎)

礼央「さぁ、3回目、オープン‼︎」

彰征「3‼︎」

満「2‼︎」

赤木「J‼︎」

坂「Q……‼︎」

礼央「おっと、矢野くん3で回避‼︎」

彰征「あぶねー‼︎めっちゃあぶねー‼︎」

雅「……聞けるかと思ったんだけどな」ボソッ

礼央「おっと、奥平くんが何か面白い事言ってるぞ‼︎」

雅「ちょっ、言わないで‼︎」

彰征 (えっ、ミヤビこっち向いて焦ってんだけど⁉︎何呟いたの⁉︎)



•4回目


使用済み

彰征:3、7、8

満:2、3、J

赤木:5、10、J

坂:3、4、Q


彰征 (よし今回も少し狙っていく……‼︎ここも成功すればデカい……‼︎)

赤木 (今のは少し当てが外れたが……矢野は次も来ると見た‼︎)

礼央「さぁ、まだ2人しか言ってないぞ‼︎じゃあ4回目オープン‼︎」

彰征「4‼︎」

満「Q‼︎」

赤木「4‼︎」

坂「9……‼︎」

彰征「ああぁぁー‼︎‼︎」

礼央「おっとここで矢野くんと赤木先輩が‼︎奥平くんも少し笑っている‼︎」

彰征「ミヤビ⁉︎」

雅「ささ、しょーくん、どうぞ」

彰征 (クソ……ここでミヤビから離れた女子像を語ると絶対怖くなる……‼︎なら……)

雅 (何て言うかな〜)

彰征「俺の……胸位の背丈の子……」

満「つまんねぇな〜もっと具体的にすればいいのに」

赤木「乳首弄りして欲しいの?」

彰征「あー酷い言われよう‼︎」

雅「しょーくん……もしかしてロリっ子が好み……?」

彰征「み、ミヤビー‼︎それは誤解だー‼︎」

坂 (自分をロリ扱いするんだ……)



•5回目


使用済み

彰征:3、4、7、8

満:2、3、J、Q

赤木:4、5、10、J

坂:3、4、9、Q


彰征 (もうやだ……言いたくない……)

赤木 (皆満遍まんべんなく出している……運要素がかなり強いな……)

礼央「オープン‼︎」

彰征「10‼︎」

満「6‼︎」

赤木「8‼︎」

坂「7……‼︎」

礼央「おー固まった‼︎」

坂「耐えた……危なかった……‼︎」

満「はい‼︎明日花キララ‼︎」

赤木「遂に固有名詞出してきたな」

彰征「小賢こざかしい……」

満「なら彰征も好きなAV女優言えばいいじゃん。雅がどう思うかは知らないが」

彰征「ぐっ……」

礼央「矢野くん、僕も知りたい‼︎」

彰征「お前は黙ってろ‼︎」



•6回目


使用済み

彰征:3、4、7、8、10

満:2、3、6、J、Q

赤木:4、5、8、10、J

坂:3、4、7、9、Q


彰征 (まだ誰も1を出してこない……1が被ると、誰かが1を使ってくれる回数が減るから、なるべく避けていきたいが……)

満 (ちょっと一番下になるのが多いな……気付かれてるか?)

礼央「さぁ、オープン‼︎」

彰征「5‼︎」

満「8‼︎」

赤木「6‼︎」

坂「K……‼︎」

彰征「マジかよ⁉︎5で一番低いの⁉︎」

坂「失敗した……Kを無駄撃ちした……」

礼央「ささ、矢野くん」

彰征「ぐっ……寒い日に萌え袖で手繋ぎを求めてくる子……」

礼央「した事ある?」

雅「いや……多分アタシにやってほしいんだね……」



男4人の性癖カミングアウトパラダイスはまだまだ続く……

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ランチプレート上の変わり者共 〜こいつら、この同好会、なんとかしてくれ‼︎〜 トレケーズキ【書き溜め中】 @traKtrek82628azuki

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