同人ゲーム評

『DemonsRoots』~同人ゲームの事前期待を上げた作品~

 同人ゲーム評一作目は、僕の最も好きなゲームのひとつ『DemonsRoots』だ。


 作者:深爪貴族(紅唯まと)


 深爪貴族は、紅唯まと先生の個人サークル。紅唯まと先生は、2013年から2017年あたりの『comicアンスリウム』『comic快楽天』などにも作品を載せており、単行本も茜新社から販売しているエロ漫画家・イラストレーターだ。

 つまり、エロを生業をしている方である。


 エロ漫画においては、男性が管理される話が多い。


 そんな人が、2016年12月22日に発売した同人エロゲが『King Exit』である。ゲームとしては、処女作にあたる作品だが、プレイ時間は初見で約15から20時間程度が想定される作品だ。DLSiteの作品群の基準で言えば、中長編程度である。

 商業の健全なRPGだと短編扱いかもしれないが、同人エロRPGで短編と言えば1時間から3時間くらいでプレイが終わるようなものがほとんどだからね。


 本作はシナリオ重視派のエロRPG好きに、非常に受けた。エロ漫画家・イラストレーターなだけあってイラストの質が非常に高いうえに、ダークかつ深みのある世界観が興味をそそる。

 しかも、実際プレイしてみるとストーリーが超面白いときた。キャラも、どいつもこいつも魅力がありすぎる。

 監獄からの脱出を目指すシナリオなので、シーンは凌辱がほとんど。とはいえ、ハードすぎるシーンや特殊性癖すぎるシーンは少ない。男性が管理される漫画を描いてる人なのに、そういうシーンが少ない。

 あるけどね。なんなら、漫画キャラがゲスト出演するけどね。


 そして、2021年11月19日……King Exitから約5年後に満を持して発売されたのが、今回メインで語る『DemonsRoots』である。


 発売直後に購入してプレイし、パッケージ版が出たときにはパッケージ版も購入して再度プレイし、ニ周目の強化ラスボスや追加イベント、裏ボスなどの攻略も楽しんだ。


 そう、本作はゲームとして超面白いのだ。


 ここから、各要素を語ろう。僕は正直全部素晴らしいと思っているが、全要素を挙げていると1万文字くらいになりそうなので、特に素晴らしいと感じた3点を語ることにする。


【ゲーム性】


 使われたツールは、RPGツクール。戦闘システムも、ツクールによくある「HP」「MP」「TP」という3つのリソースを使うタイプだ。そこから、大幅な変更は見られない。

 じゃあ何がそんなにゲームとして面白いのか。


 まず、バランス調整だ。本作の戦闘バランスは、かなりちょうどいい。雑魚戦は深く考えずとも、とりあえず強い攻撃または弱点攻撃をしておけば苦労しない。なんなら、攻撃だけしてもいい。

 後半の雑魚敵は攻撃だけだと火力不足で苦戦する場合もあるが、負けることはない。


 一方ボス戦は、しっかり考えないと難しい。逆に言えば、しっかり考えて戦略を組み立てさえすれば、負けイベにも勝てる。超獣というシステムメッセージでも設定上でも絶対に喧嘩を売ってはいけない相手にすら、勝てる。

 低レベルクリアもしやすいが、通常プレイでもハラハラしつつ負けイベだろうと諦めず食らいつける楽しさが味わえるのだ。


 さらに、マップ探索の面白さもかなり味わい深い。

 本作のマップには、隠し要素がたくさんある。隠し通路だけでなく、情報を買ってから探索しないと手に入らない秘宝アイテムというものがあり、それらの隠しアイテムを集める楽しさがある。

 しかも秘宝アイテムは、超強い。情報を買うのは結構苦労するのだが、苦労に見合うアイテムになっているのが本当に優秀だ。

 商業の大作RPGでも、苦労と報酬が見合わないことは結構あるが、本作にはそれが一切ない。


【音楽】


 大半はフリーBGMなのだが、使い方が素晴らしい。各場面に合っていて、言われなければ、または知っている曲がこなければフリーだと気づかないほどだろう。


 そして、戦闘曲などにはShade氏作曲のオリジナル楽曲が使われている。


 Shade氏は、元アリスソフトの作曲家だ。『鬼畜王ランス』『戦国ランス』『ママトト』『夜が来る!』など、名作の名BGMを多く手掛けている。


 本作には彼のオリジナル楽曲が7曲使われているが、どの楽曲も非常に素晴らしい。ひたすらかっこよく盛り上がったり、切ないながらも盛り上がったり。使う場面も素晴らしく、演出効果に一役も二役も買っている。


 正直、音楽だけでも聴いてみてほしいくらいだ。


【シナリオ】


 本作で一番語られているのは、恐らくシナリオだろう。

 以下、あらすじ。


 人類が暮らす”大陸”。人類の生活圏を一歩出れば、超獣というどデカい化け物に殺されるし、たまに超獣のほうから人間を襲いに来ることもある厳しい世界。

 この世界には、1000年に一度、魔王が生まれる。魔王は配下の魔族を生み出し、人類に戦いを挑んでいた。

 魔王が人類に敗れてから1000年。その配下の魔族たちは居場所を失い、草一本も育たない暗黒世界で、人知れず絶滅を迎えようとしていた。

 生き延びるため、人類に宣戦布告する魔族。その中心には、人間の少女の姿をした魔族”デスポリュカ”の姿があった。彼女は残虐行為を否定し、大陸の国を一つ一つ取りながら「世界征服」をすることを誓う。

 しかし、夢と希望と絶望を抱えて乗り込んだ大陸は、奴隷がひしめく悲劇の大地だった。


 なんと、人類の3割・4割程度が奴隷化している世界。絶対王政の帝国が大陸の実質的支配を握り、帝国が奴隷制度を推進している世界。


 まさに、「ひどい世界だろ!ここは!」だ。


 そんな中で、魔族たちは人類への恨みをグッと飲み込み、人間社会に詳しいデスポリュカに従い、世界征服を進める。戦いはするし、悪逆非道の限りを尽くしていた王を洗脳し操りはするが、一般人の洗脳は虐殺などは行わず。


 そして、奴隷と手を取り合い戦っていくストーリー。


 虐げられた者が、超巨大な権力に反逆する話なんだが、そこに重厚な人間ドラマが組み合わさっており、非常に面白い。メインキャラみんなにバックボーンがあり、切なく熱いドラマが展開される。

 このドラマ性が非常に心地良い。押し付けがましくなく、かと言って薄味でもない。泣けるのではなく、思わず涙が溢れてしまうようなシナリオだ。


 涙は、色々な感情により呼び起こされる。切ない、悲しい、辛い、熱い、嬉しいなど。それら全てがここにあり、あらゆる意味で泣いてしまうドラマなのだ。



【本作は同人ゲーム史に名を刻む作品か】


 文句なく、同人ゲーム史に一つの歴史を刻む作品だと思う。というのも、本作が出た後、シナリオ重視同人エロRPGが増えたのだ。あくまでも僕の観測上だが、毎日DLSiteの新作ゲーム欄を眺めているので不正確ということはないはずだ。


 シナリオ重視エロRPGは、同人ゲームにおいて昔から一定の需要があった。そもそも商業エロゲ自体が、シナリオを最大の売りにする作品が多い傾向があり、商業から流れてきたエロゲユーザーからすればシナリオが微妙な作品は物足りないのかもしれない。


 とはいえ、同人エロゲユーザーが全員商業ユーザーというわけではないし、商業がシナリオ重視になるのが気に食わなくて同人に流れてきた人もいる。むしろ、そういう人のほうが多いと思う。


 そのため、シナリオ重視エロRPGは全体の数からすれば少数派だ。


 エロRPGで最も主流なのは、女性主人公の段階エロジャンルや女性主人公の凌辱ジャンル。女性主人公凌辱・セクハラが特に多く、段階エロはそこにある一つの要素という感じ。

 もちろん、段階エロが主軸の作品もかなり多い。人気作には、段階エロがだいたい備わっている。


 なお、同年発売のタイトルで僕がシナリオ重視派におすすめできると感じたRPGは次の作品だ。


『SEQUEL kludge』

『少女異聞録~白鷺白百合の華麗なる日々~』

『サムライヴァンダリズム』


 2021年はシナリオがいいゲームがRPG・ほかジャンル問わず、結構多かった。本作が受け入れられる下地は、前作が好評だったこと以外にもしっかりとあったと言える。


 2022年は一転、エロ特化かつ遊べるゲームが多かった。RPGは戦闘エロに重きを置いた作品が充実しており、それ以外の影が若干薄い。


 2023年はゲーム性重視の傾向があった。そのなかで、シナリオがいいと評価を受けた作品が何作かあるという印象。少なくとも、2022年よりはシナリオ重視派には豊作の年だったと言える。

 例:『ヤリステメスブター ボクだけの謎ルール!女トレーナーに勝つとエッチあたりまえ』

 こんなタイトルだけど、傑作RPGパロディの傑作同人RPGなんだよ……。シナリオもかなり熱く、のめり込んだ。いや、本当にタイトルひどいな。人に勧められないタイトルしてる。


 こう思うと、『DemonsRoots』以降、シナリオ重視派にとっては不作の年が多いのかもしれない。2024年は11月1日に超ビッグタイトルが控えているが、それを抜けば『SEQUEL thirst』くらいじゃなかろうか。


 同人は、ユーザーの好みの移り変わりだけでなく作者の趣味も反映される。発売したゲームの傾向がそのまま市場の傾向に当てはまるとは言えないところがあるものの、重厚なシナリオとボリュームにより評価を受けるビッグタイトルは『DemonsRoots』以降、ちょっと少なくなっている。


 これには、本作大好き人間としての主観たっぷりのひとつの説を唱えたい。


 本作が超面白すぎる故に、ユーザーの期待値は確実に上がったという説だ。


 初見でのクリア時間は35時間から50時間が相場。美麗なイラストに巧みな演出、豊かなゲーム性にボリューム。

 シナリオを売りにするのなら、このくらいはあってほしい。その事前期待を、本作が引き上げた。


 僕も、そういうタイプだ。


 何より、値段が2000円程度だというのが大きい。この値段でこの大ボリューム、しかも超面白いときたら事前期待も上がるというものだ。同人ゲームの価格帯は年々高くなってきており、2000円程度なら長編は現在は難しい。

 長編なら3000円はすることが多くなっている。


 事前期待は、商品やサービスの価格帯にも依存している。


 たとえば安いホテルに泊まるとき、あまり多くは期待しないはずだ。「安いから」という予防線を己に張りながらホテルにチェックインして、「思ったよりいいじゃん」という感想を抱いたことがないだろうか。


 逆に、高級ホテルに泊まるときは期待してしまう。過去に格安ビジホで「思ったよりいいじゃん」と思った経験がある人ほど、期待は大きくなる。あの値段であのサービスだったから、高級ホテルはさぞサービスがいいんだろう、と。

 ウェルカムドリンクくらい付いてくるかなとか、寝具はさぞいいものなんだろうとか、ホテルマンのホスピタリティが高いだろうとか。


 同人ゲームにおける3000円は、安いビジネスホテルではなく中級のシティホテル並の事前期待があると僕は思っている。

 商業のフルプライスが高級ホテルだとしたら、ちょうどそんな感じだろう。


 2000円という「普通のビジホ」くらいの事前期待になりそうな価格帯で、高級ホテル並またはそれ以上のクオリティを出されたとなれば、事前期待は上がる。

 3000円近い作品への事前期待は、最早高級ホテル並だと言えるのではなかろうか。

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クソ真面目に語る同人ゲーム評 鴻上ヒロ @asamesikaijumedamayaki

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