クソ真面目に語る同人ゲーム評

鴻上ヒロ

コラム

【主観的】同人エロゲの歴史【特異点】

 ここでは、同人の定義を「初公開時に商業ルートに乗っておらず企業発ではないもの」としている。それを踏まえて、語っていきたい。


 1980年代、コンピューター環境が整ってきた。自作ゲームが、ちらほらと見られるように。1982年には『ナイトライフ』というエロゲが登場し、エロゲの時代が始まったとされているが、実は定かではない。


 MS-DOSおよびPC-98の普及により、エロゲの商用販売が活発化。当時の市場規模は、かなり小さい。大人気シリーズ『ランス』の初作、初代ランスの初回出荷数はなんと600ほどだそうだ。


 同時に、アニメ・マンガブーム到来。同人活動・オタク文化も活発化してくる。この頃から同人エロゲは存在しただろうが、定かではないうえに、エロゲ市場自体が非常に小さいため、商業と同人の境目はかなり薄かったはずだ。


 エロゲ最大の問題点は、PCの価格。当時のPCは、馬鹿みたいに高い。個人で趣味で所有するなんてのは、まあ……ねぇ。


 1990年代初頭、オタクが危険分子として認知されてしまう。宮崎事件、コミケ幕張追放などの各事件とメディアの恣意的報道が原因だ。

 「沙織事件」後はエロゲも迫害の的となり、18禁という概念が誕生し根付き、表現の幅を大きく後退させる。


 一方、エロゲが広く世間に認識されることで、市民権を拡大させることにもなった。世間一般には冷ややかに見られながら、オタク共には市民権を得る。

 なんとまあ皮肉めいた話だなと思う。


 同時期、グラフィック性能と記録メディアの発展が著しかった。何より、PCの価格が比較的落ち着いてきたことで、ゲーム制作およびプレイのハードルが下がっていた。

 ここで、個人制作のゲームもちらほらと登場。エロに限らず。東方などもこうして90年代に生まれた同人ゲームである。


 そんな折、『ジーコサッカー』の改造ROMが出回る。

 これが、広く流通した同人エロゲとしては記録上はおそらく初……なのではないか。ジーコサッカーの中身を『SM調教師瞳』という同人エロゲに書き換え、流通させていたという実は結構悪質な事件だ。


 なお、本作は非常にどぎついエログロ作品なので、苦手な方は検索すらおすすめしない。

 どうしても知りたいという方は、お笑いコンビ・カミナリさんの動画をおすすめする。


 余談だが、ネットの掲示板では同人エロゲの話をするときにジーコと呼ぶようになった。ジーコが同人エロゲを指す隠語になり、作者を監督、作品を「◯◯選手」と呼ぶというミームが生まれた。

 あの作品の作者は、色々な意味で罪深いのかもしれない。


 90年代中期から2000年代初期、家庭用PCが普及。コンピューター初心者でも扱いやすいGUIが普及し、CPUの性能が向上。GPUなどを使いグラフィックの処理性能も向上と、PCゲーム業界には嬉しい進化があった。


 商業エロゲも、この頃には一大コンテンツに成長。それに付随するように、同人エロゲも販路を広げていく。


 DLSiteにて購入できる最古のエロ同人ゲームは、1996年発売。PC-98用なので、購入できるもののMS-DOS環境が必須なので、まあ遊べない。


 同人エロゲにとって追い風になったのは、ネット環境の普及。ゲーム作成ノウハウの取得、発表方法、販売、あらゆるハードルが低くなった。PCの価格もさらに落ち着いてきて、一家に一台とまではいかずともそれに近い時代が訪れようとしていた。


 2000年代中期。PCは最早使えて当たり前、一家に一台の時代になっていた。なんなら、学生が講義や論文作成などで使うためノートPCを買うということも一般的に。

 同時に、世間や表現規制との戦いはより激化。従来自由な表現がしたい人の逃げ場のように機能していた同人にすら、プレッシャーがかかる。


 一方、東方Projectやコミケ、メディアなどにより同人というジャンルが世間一般に広く周知されるようになった。

 商業作品とぶつからない、商業よりは自由がまだ許されている市場としての価値が高まってくる。主に同人誌の市場が大きくなっていた。


 さらに、DLSiteをはじめとする各同人ソフトのネット販売の販路が確立。即売会での頒布が比較的難しいゲームジャンルにとって、DLSiteなどのネット販売プラットフォームはとても強い追い風になった。


 結果、エロ同人ゲームの市場が大きくなる。


 一方で、この頃から商業エロゲが衰退してきていた。「遊べるエロゲ」が激減し、アドベンチャーとは名ばかりの「ほぼビジュアルノベル」形式の作品が市場の大部分を占めていた。

 エロゲを健全化しコンシューマで販売するというのも結構出てきたが、エロゲのシナリオなどエロ以外に注目が集まることにより、商業エロゲはより一層難しい時代になったように個人的には思う。


 この頃、同人エロゲにはある種のテンプレがあった。


 「オリジナル作品」「ツクール製」「バトルファック」である。RPGツクールを使って作られた、キャラクター・シナリオ共に完全オリジナル作品。そのうえ、バトルシステムも従来のコマンド選択RPGをエロに特化させたバトルファックが登場。

 これにより、「ゲーム性」と「エロ」の親和性が高まり、「ゲーム」と「エロ」の切り離しが進みつつあった商業エロゲのユーザーが同人市場に流入してくる。


 ゲームジャンルもアドベンチャー、ビジュアルノベルだけでなく、シューティングにパズルにRPGにシミュレーションと多様化。

 『月姫』時代にはなかった同人エロゲのジャンルがどんどんと生まれてきた。


 2011年以降、同人エロゲに度々特異点が発生するようになる。


 KooooN Soft制作『SHINOBI GIRL-EROTIC SIDE SCROLLING ACTION GAME-』の登場により、ヌルヌル動くアクションエロゲというジャンルが登場した。


 このKooooN Softは、エロフラッシュを以前から作成していたところだ。『Angel Girl X』により、横スクエロアクションというジャンルを確立。

 それが『SHINOBI GIRL』により、洗練された形で送り出された。


 これ以降、横スクエロアクションゲームは鉄板になった。


 一方、RPGをにも『魔法少女テト』という作品が生まれる。とんこつ氏制作のゲームで、ツールは『WOLF RPGエディター』通称ウディタである。


 ウディタは、完全個人制作の無料ツール。RPGをツクールとは似て非なるものであり、無料で使えるツールなのに高水準の作品をとんこつ氏は作り上げた。

 

 これらの画期的なエロゲが生まれ、2011年は同人エロゲ市場における特異点のひとつになったように思う。


 その後しばらく、ウディタ制作のゲームの人気作が結構続く。たとえばPCを窓から制作の『迷宮のマリオネット』は、ウディタでアクションエロゲを作った意欲作。

 しかも、エロとゲーム性の融合がかなり高いレベルで行われており、値段も控えめ。独自性が強い同人エロゲの波も、強まってきていた。


 次なる特異点が、2015年10月27日に登場。


 FreakilyCharming制作 『Teaching Feeling-傷肌少女との生活-』


 DLSiteで最も売れた同人エロゲだ。ジャンルは奴隷純愛シミュレーション。在米日本人のRay-Kbysが主催する個人サークルで、原画・シナリオ・スクリプトまでの一切を彼が一人で作っている。とんでもないね。


 奴隷の少女のヒロインとの生活をし、好感度によりシーンが解放される生活シミュレーターエロゲの代表作であり草分け的作品のひとつでもある。


 これ以降、生活シミュエロゲが激増。


 この生活シミュエロゲブームは、なんと2020年くらいまで続いた。今はすっかり定番ジャンルとして定着しきっている。


 2019年には、いぬすく氏制作の『妹!せいかつ~モノクローム~』が発売。モノクロでありながら、綺麗なイラストと万人受けする絵柄が特徴。『Teaching Feeling』と比べられがちで、奴隷生活と妹生活として並んで呼ばれることもある名作だ。


 生活シミュレーションにお触りゲームの要素をたっぷり盛り込んでいるのが、特徴。


 これも爆発的に売れて、しばらくお触りゲームが乱造されることになる。


 お触りゲームも、今は定番ジャンルのひとつだ。


 また、RPGにおいては「シナリオおよびゲーム性重視」の作品が売れるようになった。


 RPGにシナリオを求めるのは、エロも非エロも変わらないんだろう。


 元々アドベンチャーだった、とろとろレジスタンス制作の『もんむす・くえすと』がRPGとして登場。『もんむす・くえすと!ぱらどっくすRPG前章」が、2015年に登場。

 元々人気のあったシリーズが、RPGになったということで話題になり、同人エロゲのレジェンド作品の一つとなった。続編の中章が2017年6月23日に発売。


 そして、終章が2024年11月1日に発売を予定している。


 この発売をもって、同人エロゲの一つの時代が終わるとしている人もいる。


 さらに、イニミニマニモ?による『BLACKSOULS-黒の童話と五魔姫』が2017年7月30日に発売。続編もあわせて、超人気作になる。

 本作は、イラストがかなり独特だ。少なくとも下手ではないが、万人受けはしない。実用的かと問われれば、僕は首を傾げるような絵柄をしている。

 それでも滅茶苦茶売れたのは、ゲーム性の高さとシナリオの重厚さ。ダークソウルなどを起源とするようなシステムをRPGで再現したことの、面白さなどが挙げられるだろう。


 そして、紅唯まと先生の個人サークル深爪貴族による『KingExit』および続編の『DemonsRoots』の存在もRPGでは大きい。

 いずれも、シナリオとゲーム部分の面白さの評価が高い作品だ。

 なお、『DemonsRoots』は、僕が最も好きなゲームのひとつである。


 このように見てみると、同人エロゲは各ジャンルに特異点が発生し、そのジャンルに求められることがある程度画一化しているように思える。


 RPGでは『もんむす・くえすと!ぱらどっくすRPGシリーズ』が特異点となり、シナリオ及びゲーム性重視のユーザーと制作者が増えた。


 『魔法少女テト』という特異点では、女性主人公のRPGというのが爆発的に増加したように思うし、今でも男性主人公より女性主人公のほうが圧倒的に多いほど影響があるように思える。


 シミュレーションでは『Teaching Feeling』で「生活」が重視され、『妹!せいかつ』により、お触りも重視されるようになった。


 アクションでは、ヌルヌル動く2Dまたはドット絵。


 特異点的作品が生まれると、そのフォロワーゲームが大量に出るのが同人エロゲということなんだろう。しかも特異点的作品により、そのジャンルの面白さがユーザーに植え付けられるため需要も伸びる。


 そのなかで、各サークルが個性を出していく。

 それを繰り返して、同人エロゲ市場は拡大し多様化してきたように思う。


 さて、次の特異点は現れるのだろうか。

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