12月24日 星屑

 このイレアで過ごすのも今日が最後です。思い残すことはありませんか? もう一度温泉で全回復したい? 仕方ないですね、帰りに少しだけ寄っていきましょう。


 さて、今日は特別な日です。朝昼晩も春夏秋冬も固定されたこの世界ですが……そう、こちらのものではなく、あなたのお手持ちのその手帳のカレンダーで十二月二十四日の夜になると、ちょっと特別なことが起きるらしいのです。


 これはごく最近、とある編者が碑文を解読して得られた情報ですから、私も実物は見たことがありません。ゆえに半信半疑ではありますが、夜まで焚き火をしてあたたまりながら待ちましょう。


 もちろん貴重な遺跡ですから、地面で直火は厳禁です。焚き火は探索者の使う携帯用の焚き火台と、特殊な固形燃料を使います。普通の岩石に見えますが、沼メノウの火打石でカチンと火花を落とせば、次第に赤く半透明に光りだし、炎と変わらぬ熱を発します。炭を買うよりは高価ですが、多少の雨では消えませんし、煙も煤も出ませんから、非常に便利です。


 さあ、祝祭の夜が始まるまで、焚き火で色々と焼いて食べましょう。樹上集落で保存食を色々と仕入れてあります。燻製肉とか、干した果物や芋とかそういうのばかりですが、外で炙って食べると格別に美味しいですよ。肉はスープにしてもいいですね。余分に買っておいたお酒も少し飲んでしまいましょうか。体があたたまりますよ。


 ──ほら、起きてください。こんな寒い夜に外で寝ない。さすがに凍死してしまったら温泉でも回復できませんよ。


 あなたがほろ酔いでうたた寝している間に、ほら、始まりそうですよ。


 見上げてください。夜空の星がだんだんと輝きを強くしているのがわかりますか? いまにもこぼれ落ちてきそうな満天の星空から……ほら! 見ましたか? 流れましたよ!


 ひとつ、またひとつと流星が降ってきます。少しずつ勢いを増して、雨のように降り注ぐ星が……見てください、地面にまで落ちてきていますよ。


 どうやら隕石とは違うもののようで、地面にクレーターができたりはしませんが、頭にぶつかると少々痛いので、フードをかぶっておきましょう。


 コロコロと降り注いでいるのは、小さな水晶のかけらのようなものです。手のひらであたためても溶けないので、氷ではなさそうですね。ひとつひとつが淡く澄んだ銀色の光を発しています。


 この星屑を最後のお土産にして、イレアの観光を終わりにしましょう。

 よい祝祭を!




 え? 温泉はどうするんだって、ちゃんと覚えてますよ。

 紅葉酒をもうひと瓶買いたいから、星屑は最後から二番目のお土産になる?

 あなたね、もう少し情緒ってものを──



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イレアの土産物カタログ(アドベントカレンダー2024) 綿野 明 @aki_wata

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