平民出身の母を持つ王太子ラグナと、母方の従兄弟ウルス、幼馴染の娘フェリア。生まれにかかわりなく、仲良く育った三人の間にはしかし、成長するにつれ少しずつ距離が、そしていつしか亀裂が生まれてしまいます。
身分制度など存在しなければ、或いは国の行く末など無視してしまえれば――普通の甘酸っぱい恋をして、時には喧嘩して、当たり前に泣いたり笑ったりできたはずの彼ら。しかし三人はそんなしがらみを捨てられぬが故に、けれど情など不要と割り切ることもできないがために、とある事件を皮切りに悲劇の一途を辿ってしまうのです。
愛しているから、失いたくない。手に入れたい。
胸の内にそんな血を流す慟哭を抱えた彼らが、最後に選んだ道とは。
読者の胸を抉りながらも強く引き込んで離してくれない、残酷で上質な物語をお楽しみください。
小国カラントの王太子ラグナは、平民出身ながら聡明な母を持ち、
幼少時代からしばしば、母の故郷に程近い屋敷で過ごしてきた。
その鉱山の町には従兄のウルス、幼馴染みの少女フェリアがいて、
3人は身分など関わりのない「子供の世界」で共に学び、遊んだ。
やがて17歳になる頃、ラグナたちの関係は変わろうとしていた。
そして、鉱山の事故が起こった夜を境にラグナの想いは強まり、
時を経て再び鉱山の町を訪れるや、事態は「決壊」してしまう。
また時を同じくして、南方では大国が不穏な動きを見せて──。
巧みな筆致が、王太子として世に生を受けた若者の姿を描き出す。
身分と恋と友情の間でねじれる心は、その卑怯な打算に至るまで、
残酷なほど克明に物語られて痛々しく、それゆえに酷く美しい。
彼は所詮、王国という名の盤上で翻弄される駒に過ぎないのか。
いずれ「陛下」と呼ばれる日。
彼が民にとって善き王たらんことを願わずにいられない。