シュガーと恋の喫茶店

藍瀬 七

シュガーと恋の喫茶店

 今の世の中は、見た目や体型に重きを置いたご時世だ。そんな生きづらい世の中に一人の少女がメディアに現れる。まるで砂糖のように甘い顔立ちの歌手がいた。名前はシュガーという。歌も踊りもルックスも抜群の14歳だ。歌手以外にも、トークやバラエティ、CMに抜擢されていたりとマルチに活動しているタレントのような存在だった。性格も明るく、はきはき喋る、たまに見せるボケっぷりが視聴者の見どころとなっている。

 そんなシュガーだが、イムスタで自撮りをして投稿することにも飽き始めて、Yautuberとして配信を始めたのだった。売れっ子の歌手のため、所属会社の許可が下りるのに厳しい制約を受けてのことだったが……。

 実はシュガーには好きな相手がいた。その相手というのは、ある喫茶店のバイトをしている男だった。男は天沢江一(あまさわこういち)という。調べたところ、イムスタもやっており、喫茶店のコーヒーのアピール、お店の雰囲気作り、コーヒー豆のこだわりなどを載せてあったのだが、さすがにバイト募集は載っていなかった。

「こうなったら、通って顔を覚えてもらうしかないもんね!」

 拳を握り気合を入れるシュガーは、恋愛にはとても積極的だ。

「この甘くて可愛らしい顔で、スタイル抜群の美女に落ちない男なんていないもんね。」

 そう張り切っていた。売れっ子歌手だけあってスケジュールがハードなため、週に一回ほど喫茶店に通うことが精一杯だった。喫茶店で天沢の姿を見ると、とても胸が高鳴る。

「いらっしゃいませ、ご注文は何に致しますか?」

 と聞かれる度に顔がにやけてしまう。天沢もスラッとしたイケメンであった。

「今日はこのいちごパフェと、カフェモカお願いしますぅ」

 とびきりのスマイルを見せて、目立つようにお辞儀をした。注文している間に、取って置いた席に座る。天沢をニコニコしながら待つ。

「(これで落ちない男なんて、いないんだからっ!)」

 天沢の様子を見守るシュガーだったが、至って落ち着いた対応をする様子に見えた。

「(こうやって毎週ここに来れば、私を好きになってくれるよね……?すっごく楽しみ♪何てったって、私は国民的美少女歌手シュガーだもの)」

 そんなことを考えながら待っていたら、偶然にも天沢がいちごパフェとカフェモカを運んできたのだ。シュガーは幸運な出来事にとても胸がキュンとしてしまった。

「お待たせいたしました。ご注文は以上でしょうか?」

「はいっ!ありがとうございます」

 満面の笑みを向けた先、天沢の表情は少し微笑んでいたように見えた。その表情を頭に焼き付けながら食事をした。

 それから数週間も経たないうちに、またシュガーの人気はうなぎ上りになる。テレビでもよく出る歌手ナンバーワンになる勢いだった。それを見た喫茶店の店長は

「あれ?この子ウチによく来てる子じゃないか?」

 と、ぽつりと呟いた。黙っている天沢に対して店長は

「あの子いい子なんだけど、あんまり目立つと店の雰囲気が変わっちまうなぁ」

 やれやれといった様子で頭をかく店長だったが、天沢は手を組んで考えてから

「シュガーさん、出禁にするんですか?」

 と問いかけた。仕方ないといった様子で店長は頷いたのだった。店長は自分の親から継いで経営しているこの喫茶店を大切に守りたかったのだ。


 それからというものシュガーは落ち込んでいた。好きな人に会えない苦しさでとても胸が張り裂けそうな気持ちになった。そして、すこし病み始める。テレビの主演から遠のく。唯一歌うということだけが残る。歌だけで食べていくようになり贅沢な生活が変わり始める。副業を始めるも上手くいかない。親の支援を受けながら生活することとなった。歌よ届け、天沢さんに届け、どんな状況になっても……。


 天沢はシュガーという人気歌手にあまり関心がなかった。ただ喫茶店によく来ることには気が付いていた。出禁というきっかけがあってから、急に寂しくなる気持ちを感じたこともあったが、それ以上の気持ちはなかった。あるときニュースで、人気歌手シュガー入院という文字を目にして、とても心配になった。そういえば以前、小銭と一緒に紛れていた紙があったことを思い出した。そこにはシュガーのlimeIDが書かれてあったのだ。有名人と関わりを持つことは危険だと感じたが、何よりシュガーの体調が心配だったため連絡をとることを決めた。


 それから二人は再開した。緩やかではあったが、シュガーの症状は良くなっていった。世間ではシュガーが入院という扱いになっているため、ゆっくり過ごしていたところだったが、天沢との再会をきっかけに、二人は少しずつ仲良くなっていったのだった。心が回復して落ち着いた頃、シュガーは天沢に自分の気持ちを告白した。天沢はシュガーを見ているうちに少しずつだが惹かれ始めていることに気が付いていた。何より支えになりたいと思い、交際をスタートした。


 入院から2年後、再びシュガーは歌手としての活動を再開した。あの喫茶店に行くことはもうないけれど、私の歌が届くといいなという強い想いで歌を歌うのだった。そして天沢はというと、喫茶店の次期店長候補という所まで成長した。それはあの喫茶店が、シュガーの影響で有名になったという事がきっかけだった。店長も一時期はお店の方針についてとても悩んでいたが、お店に足を運ぶお客さんの気持ちを考え、お店の拡大を目指した。もしかしたら、今後新しく店舗が増えるかもしれない。シュガーの歌声はどこまでも響き続ける。どこまでも影響力を増していく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

シュガーと恋の喫茶店 藍瀬 七 @metalchoco23

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ