第三十六話

蒼月は最速で向かって来た人を各個撃破していく選択をした。

空中歩行エアウォークを使用して、最短距離で次の戦闘エリアへ向かっている最中だ。


見つかれば狙撃手や長距離攻撃を持つ超能力者に狙われる可能性はあるが、今の自分には危険察知デンジャービジョンがある。

模倣コピー能力しか無い自分が勝つためには多少はリスクを孕むしかない。


空中歩行エアウォークで移動をしている間に秋の夕暮れの様にパッと日が沈む。

日が暮れたおかげで蒼月は全く狙われることなく、建物付近に到着する。


「いや、城かよ!」

蒼月はバトルロイヤル中だと言うのに思わずツッコミを入れてしまう。


「平屋のデカい建物だと勝手に思ってたわ」

建造物が想定していた最悪のパターンである。

だが蒼月は月明かりが照らす日本風な城をぼーっと眺めてしまう。

それくらい美しいのだ。


空中浮遊リビテーション模倣コピーしました。

無機質なシステム音声の後に危険察知デンジャービジョンが反応する。

蒼月は眺めていた城から目線を外し、咄嗟に戦闘に備える。


「おいおい、カモがネギ背負ってきたぞ!」

危険察知デンジャービジョンが反応した方から声が聞こえるが、蒼月は一瞬だけ空中歩行エアウォークを解いて自由落下する。

直後、ダンダンと破裂音が辺りに響きわたる。


「ちっ、避けたか。だが!」

男は追撃をしようと地面の方へ落ちていく蒼月に視線を移し、ハンドガンを構えると蒼月は自由落下の状態で手で銃の形を作っていた。


BANGバンッ

蒼月が銃を撃つ真似をすると男性プレイヤーを中心に扇形に50以上の光弾が現れて男性プレイヤーを襲う。


「そんな馬鹿なぁぁぁぁぁ!?」

男性は光弾を受け、なす術なく消滅し、回復の丸薬や持っていた弾丸をドロップする。

蒼月は先程模倣コピーした空中浮遊リビテーションを発動して、回復の丸薬だけを確保する。


「もう少し光弾の数減らしてもいけそうだけど、これくらいは作った方が確実に倒せるな」

空中浮遊リビテーションで少し移動してみるが、思っていたより速度が出ない。


空中歩行エアウォークは空中を歩くってことで俺自身のAGIが関係してたっぽいけど、空中浮遊リビテーションは移動速度遅いなぁ。これは能力のレベルが上がったら速度上がる系かなぁ」

だが、空中浮遊リビテーションも悪いことばかりではない。

空中歩行エアウォークはあくまで空中を歩いているだけなので、挙動が読まれやすい。

だが、空中浮遊リビテーションは空中を自由自在に動けるので、挙動が読みにくい。


「上手いこと切り替えて使って狙撃とかで狙ってくるプレイヤーに挙動を読ませないようにするか」

蒼月は空から月に照らされる城へ視線を移す。

月明かりのおかげで、城がどこにあるかは見えるが地上の様子は全くわからない。


「完全に夜だな。街灯も無いとまぁこんなもんだよな。それにしてもまさか500人から減るごとに暗くなるとは予想してなかったなぁ」

あのアナウンスの後にマップを見て、すぐにみんな移動を始めんだと思う。

移動すればその分敵と遭遇可能性も増える。


「あと270人。空中浮遊リビテーションで空に浮いて敵が減るのを待つもの有りだよな」

勝つ為ならそれは正解かもしれないが、蒼月はそれで楽しいとは思わない。

せっかくのゲームなのだから、自分が楽しいと思えるように行動したい。

蒼月は城の天守閣へと向けて歩を進めていた。


天守閣に降りると同時に危険察知デンジャービジョンが発動する。

蒼月が室内の中程へ移動すると危険察知デンジャービジョンの反応はなくなる。


「なるほどね。天守閣に誰もいないのはどっかから天守閣を狙ってるやつがいるってことか。何人かここでやられてんだろうな。俺も危険察知デンジャービジョンがなければ、こうなってた訳だ」

蒼月の視線の先には回復アイテムやら弾丸が散乱していた。


「さて、俺はここから下に降りて行って、プレイヤーを探すか」

蒼月は天守閣から階段を降りて、下の階へ移動する。


炎操作パイロキネシス模倣コピーしました。

下の階へ移動する階段の途中で超能力を模倣コピーしたが、危険察知デンジャービジョンに反応は無い。


「誰か戦ってるのか」

屈みながら下の階の様子を確認すると、熱気がこちらまで伝わってくる。

城自体は破壊不可なのか、炎で攻撃をしているにも関わらず、全く燃え上がる気配はない。


「炎の男、戦い方上手いな」

蒼月の視線の先には袈裟を着た男が片手で炎を操作し、回避出来る場所を制限しつつ、サブマシンガンで攻撃する様子が映る。


「いや、けどあっちの軍服の男もかなり上手く立ち回ってるな」

袈裟の男と戦っているのは軍服姿の男。

袈裟を着た男が炎を操作している側の手を銃で狙い、炎の軌道を逸らして移動場所を確保しながら戦っている。


二人とも戦いに集中していてまだ蒼月には気付いていない。

こんな絶好の機会を逃す訳がない。


蒼月はキョロキョロとあたりに武器になるものが落ちていないかを確認すると壁に刺さっていた槍を発見する。

念動力サイコキネシスで槍をフワフワと浮かせて、袈裟の男に穂先を向ける。


袈裟の男は蒼月に背を向けて戦っているので、蒼月に気付くことはほぼないだろうが、軍服の男は浮いている槍に気付く。

視線を動かし階段に隠れている蒼月にも気がついたようだ。

その隙を袈裟の男は見逃さない。


「どこを見ている!」

袈裟の男が炎で攻撃しようとした瞬間。

槍が背後から刺さる。


「な・・・、なん・・・だと・・・。」

袈裟の男がゆっくりと後ろを振り向くが、何が起こったのかを理解する間もなく風刃に切り裂かれて消滅する。

そのまま風刃は奥にいた軍服の男の頬を掠りダメージを与えるが、銃撃で蒼月を牽制しながら逃げる。

蒼月は男を深追いをせずに高い、AGIを利用して射線からズレる。


「まぁ、そりゃ逃げるわな」

だが、炎操作パイロキネシスの超能力者を倒せたことはでかいだろう。

銃撃よりも超能力の方が正直厄介だ。

銃撃は蒼月のAGIの高さだと割と簡単に敵の位置が分かれば射線からズレるだけで躱すことができる。

だが、超能力だとそうは行かない。

どんな能力を使うのか、範囲などを考えながら戦う必要があるのでだいぶ厄介なのだ。


「建物内でチマチマ戦ってるのはなんか面白くないな」

バトルロイヤルなので当たり前だが、そこまで敵と遭遇することはない。

みな負けたくないのだ。

わざわざ目立つようなことをして倒されるくらいなら、身を潜めて生き残る方が確実である。

蒼月もそんなこと理解しているのだが、ゲームだからと遊びたくなってしまう。


「よし!いっちょやるか!」

来た道を戻り天守閣の方へ移動する。

光操作フォトンキネシスを使い辺りの光を操作して、一箇所に溜め込む。


「夜はちょっと溜める速度も遅くなるんだな」

ゲームの仕様に関心しながらも光を溜め込み終わる。


「いっけぇぇぇぇ!」

蒼月は光操作フォトンキネシスで溜め込んだ光を天高く放つと、眩い光が一瞬だけ闇を晴らす。

さらに光操作フォトンキネシスで光を操作し、天守閣から下に向けて無差別に光弾を放つ。


これだけ派手に光操作フォトンキネシス使えば、漁夫を狙ってみんなここに集まってくるだろ!どうせなら派手に暴れようぜ!

蒼月が高笑いをしていると、危険察知デンジャービジョンが反応する。


「きたきた!」

蒼月は現れる敵プレイヤー達を前に嬉しそうに天守閣から空中歩行エアウォークを使って飛び出して破裂炎球ブラストボールを発現させる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Abyss Gate Online 〜銃と超能力の世界で最強を目指す〜 ニートうさ@らびっといあー小説部 @scrabbitear

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ