異世界徴税官(かんたん版 ラノベ的 サクッと読みたい人向け)

アタオカしき(埃積もる積読の上に筆あり)

第1話 返納祭開幕

「諸君。御天道様に日々の感謝を捧げるこの日が、ついにイシュにも訪れた」


千人を超える人々が、街の塀の外に広がる大農地に整然と並んでいた。彼らが見上げるのは、太陽と、長方形のやぐらに立つ日焼けした白い肌の男。その声は風のように列の間を通り抜ける。


「空は青々と澄み渡り―――」


しかし、空は煙のように曇り始めた。

男は一瞬それを見上げたが、すぐに視線を戻し、続ける。


「―――白再の主が我々を見守ってくださっている」

列に並ぶ者たちの中に、金属の義手を持つ男がいた。あくびを噛みしめ、片方の手で頭を掻きながらだらしなく立っている。


「今日の徴税は、法と尊き太陽の下でイシュの国王陛下に認められた正当なものである」


義手の男の隣には、赤いくせ毛の男が直立しているが、顔は山羊やぎのようにだらしない。


「様々な困難が月光のように降り注ぐだろう」


義手の男の左側には、決意に満ちた若い女性がいた。琥珀色の髪を風になびかせ、力強い目で前を見据えている。

整列している千人以上の彼らは、流浪の民であり、各国に認められた徴税官だった。彼らは今日、税としてまりょくを集めるためにここに来ている。彼らは腰に取り付けた道具まどうぐを使い、強者からは適度に、弱者からは命を奪わぬ範囲でそれを徴収する。


「だが、決して屈してはならない。背を向けることも許されない」


その瞬間、やぐらの上空に巨大な力まりょくの気配が現れた。壮年の男が怒鳴る。


「邪魔をさせるな!」


空から細い光の柱が前触れとしてやぐらを貫き、義手の男はそのやぐら跳び乗る。腕を空へ向かって伸ばした。


義手が鏡のように輝き始めたとき、本命の巨大な光が降り注ぐ。


その機械仕掛けの手が強烈な光を受け止めた。


「列を乱すな!」


男が叫んだとき、光の柱の轟音と爆風が、周囲の人々をなぎ倒し、やぐらを破壊した。だが、その光は義手の男の腕で止められ、それ以上周囲を破壊することはなかった。


「使用許可を申請します」


義手の男は、がれきの中で座り込む壮年の男を見据えた。


「許可する」


義手の内部が動き出し、降り注ぐ光は細まり消えた。壮年の男は立ち上がり、声を張り上げる。


「定められた全ての武器、術陣の使用を許可する!」


空に複雑な模様を持つ巨大な術陣が現れ、それは地を覆うほどに広がる。術陣の中心に光が収束し、巨大な力を放出する。


「ここに返納祭の始まりを宣言する!」


光の柱が稲妻のように大地を砕き、吹き上げる風が人々を吹き飛ばした。


「いやああああ!死ぬぅぅ!」


琥珀色の髪の少女が空へ打ち上げられ、叫びながらも地面を見下ろす。


「ノアーム!助けてぇ!」


彼女の隣を飛んでいた赤いくせ毛の男は、寝転がるような姿勢で落ち着いた声を出す。


「いつも通りだ。大丈夫だ」


「こんなの聞いてませんでした!」


少女は泣き叫び、赤毛の男は余裕の表情で続ける。


「まぁ、想定外がいつものことなら、こんなこともいつも通りさ」


その時、粘土のような怪物が現れ、少女に襲いかかる。彼女は咄嗟に道具を鎚に変え、怪物を殴り飛ばす。しかし、さらに別の怪物が彼女に牙を剥いた。


「おぎゃあああ!」


その瞬間、義手の男が現れ、拳で怪物を殴り飛ばす。


「遅れたな」


「遅いよ、ノアーム!」


少女は男にしがみつき、命拾いしたことを安堵する。義手の男はため息をつく。


「始まったばかりだぞ」


彼は二人を守りながら、後方から迫る敵に注意を促す。


「来るぞ」


後方から巨大な怪物たちが迫るが、赤毛の男が次々に蹴り飛ばし、怪物たちは動きを止める。


「さっきのは何だ?」


赤毛の男が義手の男へ問いかけるが、琥珀色の少女が答える。


「あれは共和派の傀儡粘土だよ」


「お前にゃ聞いてねぇよ」


「は?」


強風が噴煙を吹き飛ばし、空には3つの針のような点が現れる。それは徐々に大きくなり、3人の上空に影を落とす。


「何あれ?」


少女が不安そうに問いかけると、赤毛の男が弱々しい声で答える。


「ノアーム、俺の骨を拾ってくれ」


その冗談に、義手の男はふっと笑みをこぼした。


空から槍のように鋭く、3体の巨大な鳥が舞い降りてきた。それは竜のように威容を放つ巨鳥たちで、翼は剣のように鋭く、爪は馬数匹を掴んで潰せるほどの大きさ。彼らが着地する直前、翼が広げられ、起こされた風が大地を深く刻み、農地を荒れ地に変え、逃げる流浪の民たちの背中を切り裂いた。


その風は琥珀色の少女と赤毛の男をも襲ったが、義手の男はその風、腕を盾のようにして防いだ。しかし、二人は吹き飛ばされ、小石が水面を跳ねるように大地を転がった。


巨鳥たちは威圧的にさえずり、その支配力を示した。


赤毛の男は吹き飛ばされた勢いを削ぎながら地面に足を突き刺し、風に流される琥珀の少女の腕を掴み、着地を助けた。すぐに二人は伏せる。


「くそ、もう3本しか残ってねえ! 最初と今ので2本か!」


赤毛の男は叫んだ。


「まだ生きてる!」


琥珀の少女は、仰向けになったまま、自分の体を確認して安心した。


赤毛の男は術陣の刻まれた手の甲を見せた。その黒い長方形の模様は、あと3本。


「そいえば、5本あったはずなんだけどな」


少女は首をかしげた。


「2本はもう使った。あと3回…」その言葉を飲み込む少女の顔は青ざめ、彼女は自らを抱きしめて震えた。


「知り合いから怪我すらしないって聞いたのに」


少女は嘆く。


「適当なこと言ったその知り合い、一緒にぶっ飛ばすぞ」


赤毛の男が顔をしかめる。


その瞬間、巨大な鳥の影が二人を覆い、巨鳥がわざと外して地面を踏みつけ、粉々に大地を砕いた。


「生きて帰ってな!」


赤毛の男は叫び、琥珀の少女を抱えて飛び上がったが、彼らの動きは目立ちすぎてしまった。巨鳥の鋭い目に赤毛が映り、その翼が振り下ろされた。

その刃のような風が迫る中、義手の男が現れ、風の刃を義手で吸収した。


「1本節約………!」


赤毛の男は息を吐いた。


義手の男は、巨鳥たちの足に刻まれた青い線を指す。


「あれはイシュの青血の印だ。あいつらにはちょっかい出せない」


3人は地面に伏せ、次の一手を考えた。


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