第24話.聖女はサバを読むの
ところで、気になっていたことがあった。四区という四分割の区分けだ。
アリス達は一区、レジナルドは二区、それはいい。ただ、アリスはワンダーランド・ファンタジーⅠの世界に入り込み、レジナルドはワンダーランド・ファンタジーのⅡの登場人物だということ。
細かい設定はかなり違うが、ワンダーランド・ファンタジーはⅣまで出ている。
これが一区から四区まで区分けされている理由ではないだろうか。つまり、ローラン達一区はワンダーランド・ファンタジーⅠの世界。そして二区はワンダーランド・ファンタジーⅡの世界。
ただ、アリスはこのゲームをⅡまでしかしていない。就職と同時にゲームも卒業、Ⅲ、Ⅳはしていないから内容はさっぱりだ。
ワンファンⅠでは、確かグレースが聖女になったような……、あまり存在感がなかったからあやふやだ。Ⅱはその分聖女の存在が大きくて、パーティの主要メンバーの彼女がラスボスになると物語の肝になっていた。それから魔王がどの物語もいた。
すでに物語はめちゃくちゃだし記憶もあやふやだからゲームをしたという経験は役にたっていない。ただⅢもⅣもⅠ・Ⅱと同様、聖女がいるのかもしれない。
既に、男性メンバーが二区への障壁を調べてきてくれたルートをたどりそちらへと向かう。障壁周辺と二区の方が魔物が強いという。
運動靴はまだ手に入らず、アリスはイヴァンに背負われたまま。やっぱり捻挫をしていてみんなのスピードについていけない。
まして裸足で石ころだらけの地面は到底歩けなかった。
薄い布靴の底も抜けてしまった。装備品は纏えるものが限定されているのもゲームと同じ。しかも靴や服も新しいものが手に入れば売ってしまうらしくて、二人の女性からは借りられなかった。
相変わらず、こちらに来た時のままのネグリジェなのもなんとかしたい。一度レジナルドのマントを被らせてもらったが、強風で吹き飛びそうになった。包まることはできるが、纏うことはできない。つまり装備はできない。
防塵、防水、防火、防魔効果があるらしいが、戦闘中心の男性であり
「二区へ行く前に、大きな街がある。そこで装備と道具を揃えよう」
ローランが張り切って言うと、ヴィオラとヒューが元気よく「おう」と拳を突き上げる。
「道具? そう言えば、何が入っているの?」
アリスを背負いながらも片腕にもうひとつ荷物を持つイヴァンに尋ねる。その円筒形のざ雑のうからは、ガチャガチャと音がする。ゲームだと回復薬が主だよね。後はお金とか。
ぐるぐるとの戦闘の時、抱きしめていたらやたらにごつごつしていた。
「回復薬だよ。お前が、回復魔法を覚えてねーから」
ヒューが口を尖らすと、ヴィオラがこらと頭を叩く。
「なんだよ、こんなの――」
「からかっていても、ダメ! 関心惹きたいのならむしろ優しく!」
からかいだったの!? これ悪態だよね!?
レジーがアリスに肩をすくめて仕方がない、という仕草をする。
「ヒューの鬼獣国は女性がいないから。どうしても、免疫がなくてね。ヒューはその典型的なふるまいをしてしまうんだよ」
「……女性がいないなら……どうやって結ばれるの?」
まさか、赤ん坊は木の股から産まれるとか? それは妖怪だ。
言うほどデリカシーがないわけじゃない。
黙り込むヒューに沈黙が降りて、レジナルドが話す。
「女性は獣化の能力がない。産まれた女児は、国外に出す。婚姻し希望した女は鬼獣国に残る。だから適齢期の女性がいない。男性の仕事は主に傭兵として国外に出稼ぎにでること、だったかな」
「そう、だよ」
「詳しいんですね」
「鬼獣国とリッチランド国は隣同士でね。男女の行き来は盛んだ。うちの国の女性がそちらに嫁ぐことも多かったし、兵を借りることも多かった。外に出た兵が、うちや他国のお嬢さんと結ばれることが一番多かったかな?」
「――障壁ができて、うちは女がくることも、男がでることもなくなった」
「でも、国交――友情はなくならなかった、だろう?」
レジーに言われて、ヒューは静かに頷く。この好きな子をいじめる小学生みたいな態度は、女性に鍛えられてないからだろうか。でも、この言葉――過去形だ。ヒューは鬼獣国が滅ぼされた、と言っていたということは――国はもうない。
気落ちしているヒューのこの態度は、ヴィオラに叱られたから? それとも国を憂いてのこと?
「いつか、魔王を倒したら……再興して、また国交を取り戻そう」
レジナルドに言われてヒューは頷いた。国が落ちて気落ちしていたのか、ちょっと慰めたくなるけど、立派な大人だしな。ほだされると悪態をつくから、やめとこう。
私の事を好きかどうかもわからないし。
「皆さん、おいくつですか?」
アリスは、イヴァンの背から尋ねた。イヴァンがアリスを背負い直す。なんとなく人の背中で暢気に会話をしている自分が悪い気がしてきた。
ローランドが微笑んでいた。このひと、存在感が薄くてレジーにリーダーとしてのお株を取られている気がする。
「どうしたんですか?」
「いや、アリスが俺達に興味を持ってくれて嬉しくて」
「――すみません」
この世界の事ばかりを聞くけど、彼らへの深入りは避けていた。それを言われたのだろう。でも、公式の紹介で彼らの年齢は一応知っている、それと同じか確かめたかった。
「私は十八歳よ、ローランドは二十五歳ね」
「俺は二十八歳だよ」
公式と同じグレースは十八歳。レジナルドも二十八歳、年上と知ってホッとした。ローランドはさておき、レジナルドは精神年齢が大人でこれも安心。王様だしね、これで自分より歳下だと凹む。
「俺は――十八」
ヒューは十八歳か。ヒューは王子様にしては精神年齢が幼い気がするけど。レジナルドと比べたらいけない、伸びしろはまだまだ。
というか、思わず質問してしまったが自分の年齢は言いたくない。二十五歳とか、思いきりおばさんじゃないか。
「俺、お前のわかるぞ。――十六歳だろう」
「は!?」
と、ヒューにいきなり言われて素っ頓狂な声をあげてしまった。素っ頓狂って今どき言うの?
「俺より、絶対年下だ。その顔と、その育ちきってない胸と尻、まだ成獣になってないだろ! てか、獣人は平均寿命が二百歳だから、お前の国みたいに八十歳で死ぬ種族とは違うけどな!」
「え、あの!?」
突っ込まれて、何から怒ればいいのかわからない。とりあえず、胸と尻を馬鹿にされたんだよね!?
「胸とお、お尻とか……言うな!」
「はあ? 大事な事だろ!? 尻は子どもを産むのに一番大事だ!!」
二度も言うな! 確かにお尻の大きさというか、日本人の母親の痩せは世界の出生児の平均体重をはるかに下回り発展途上国並み。
低出生体重で生まれることは将来の疾患予備軍となるので、日本人の妊婦、というより若い子が痩せていることは、世界的に問題になっているけれど。
「ヒュー、失礼だ」
レジナルドに腕を掴まれてヒューが黙る。アリスも息をつく。成熟しまくってます、もう二十五歳だから。胸も大きくなりません……。
「アリス、いつもながら失礼。ヒューとは国交もあって、時々兄のように接していたから、俺の教育が至らなかったよ」
いいえ、いいんです。レジーさん。もうあなたの微笑みで私は癒されましたから。
「種の存続は……一番大事だろ」
ヒューの呟きが沈黙の中に響いて消えた。確かに、獣にとっては生殖行為は大事な事。それをデリカシーとかで隠すのは人間だけでおかしいのかもしれない。いや、知性が発達しているのだからこの辺は人間社会基準に合わせるべきだ。
その騒ぎで、落ちた沈黙に首を傾げる。イヴァンもヴィオラも黙ったままだ。アリスのことも聞かれない。皆、十六歳で納得した? それならそれでいいんだけど。
「えーと、この話題ごめんなさい。年齢聞くのは失礼だったよね」
「ううん。聞きたくなって当然よ。ただ、種族によって平均寿命も数え方も違うから。私たちは平均寿命が六十歳ぐらいだし、ヒューは先ほど彼が言った通り。だからあまり意味がないわね。どこかの聖女が、あなた達の世界では八十が平均寿命と言っていたわよね」
「お前はそろそろ成獣になるだろ。子どもも産める」
「ヒューやめた方がいいわ」
アリスに指をさすヒューにグレースが嗜める。苦笑するレジー、ヴィオラが突っ込まないと、次はグレースしかないのだろうか。さすがに王女様のグレースから上品に言われるとヒューも口をつぐまざるをえないようだ。
(平均寿命、六十歳か)
アリスの世界でも過去はそういう時代もあった。まだ文明の発達具合はわからないけど、魔物が闊歩していたりして、医療もままならなければ、六十代が平均寿命もあり。もっとも怪我は、魔法や道具で治しちゃうのであれば、病院も必要なさそうだ。
(だいたい、怪我を道具や魔法で治すのってどうやるの?)
医療者としては、それも謎。
平均寿命が六十代ぐらいだった昔は、十四、十五歳で成人とみなされた。だったら彼らが大人びているのもわかる。
反対に寿命が長いヒューのような種族ならば、彼がまだ精神年齢が幼いのもわかる気がする。
そして落ちる沈黙。黙る二人にアリスも首を傾げる。イヴァンは予想できたけど、ヴィオラは何でだろう。
「――私は、言わなきゃだめ?」
ヴィオラが静かに問うと、少しの間のあと、グレースが首を振る。慌ててアリスも首を振る。
「もちろん、必要ないわ。だって、闘うのに年齢なんて必要ないでしょ?」
「ごめんなさい、変な質問。関係ないよね!」
公式では、ヴィオラは十六歳。ゲームでは、特に年齢を気にしている様子もなかったけど。
アリスは再度強調した。
次の更新予定
あらイケメン騎士様、縛ってくださいませ? RPGに転移聖女は闇落ちルートに抗いますの。 高瀬さくら @cache-cache
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。あらイケメン騎士様、縛ってくださいませ? RPGに転移聖女は闇落ちルートに抗いますの。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます