ほこら

ぽぽ

第1話

 ほこら。

 そう呼ばれているらしい。

 なぜそう呼ばれているのか分からないが、とにかくそう呼ばれている。

 なぜそれが作られたのか。それに何の意味があるのか。私にはわからない。

 ほこらを壊すと、何かがあるらしい。曰く、「災害に見舞われる」や、「飢饉が訪れる」などがあるらしい。「村が滅びる」と言っていたこともあった。なぜそう言われているのかよく分からなかったが、私はそういうものだと認識していた。

 今日も、私はほこらにいた。ほこらにいるのは私だけでなく、もう一人いた。少年だった。体育座りでほこらを見上げていた。

「何やってる⁉」

 男性が通りかかって、そう言った。私たちに向けてだろう。

「何って……見てるだけだよ」

 男性に向けてそう言った。

「ここにいると、何か……そう、何かを感じる。何かは分からないんですけど、多分、良いものだと思う」

 そう弁明をした。しかし男性は聞いてくれなかった。

「今すぐ帰りなさい。ここに近寄るんじゃないよ」

 そう言って、連れていかれた。

「明日も来るよ」

 少年がそう言った気がした。


「なんで、壊しちゃいけないんだろう?」

 少年は今日もほこらに来て、そう言った。

 それはよく言われていることだろう、と思った。災害、飢饉、破滅。そういうものが押し寄せてくると、よく村人が言っていた。

「悪いことが起こるって言われてる……けど、そうは思えないんだ。だって、このほこらからは、良いものを感じる」

 感じる。少年は昨日もそう言っていた。しかし他の村人には何かを感じている様子はなかった。何か、この人にだけある特別な何かだろうか?

「閉じ込められてる……そう感じるんだ。このほこらが、良いものを閉じ込めてる。悪いものじゃないんだ。けど、他の人は悪いものだって言ってる」

 悪いものじゃない……そうなのだろうか?私ですらよく分からない。

「多分、大人たちがそう言ってるだけだ。この村にあるもう一つの宗教の信仰を強めるために、このほこらをけなしてる。多分、そういうことだ」

 少年は、石を強く握りしめた。

「だから、僕が解き放たないと。きっと、良い神様だよね」

 そう言って、ほこらへ向かって石を振り下ろした。

 直後に、声が響いた。

「お前……あのほこらを壊したのか⁉」

 昨日の男性だ。今日も通りがかったらしい。

「あそこに何がいるのか分かってんのか⁉」

 男性は声を荒げて言った。少年はすぐに言い返した。

「分かってるよ!良い神様でしょ?」

「違う!」

 首を振りながら男性は言った。

「神なんかじゃない。あれは、人の言葉をすぐに信じてしまうんだ。純粋だから。良いものだって感じたのもそれのせいだろう」

 純粋。そうなのだろうか。たしかにそうなのかもしれない。

「だから、あそこに封印してた。お前は厄災だ。そう言われたらあれは信じちまうから。だから、本当に厄災扱いして、誰にも封印を解かせないように、何なら近寄らせないようにしてた。お前にも、もう少ししたら教えるつもりだった」

 ああ、そうなのか。と、私は納得した。私は人間たちにそういうことをしたつもりはないのにそう呼ばれていたのは、そういう理由だったのか。

「で、でも僕……そういうつもりじゃなくて……このほこらをけなしてるのは、もう一つの宗教を信じさせるためだと思って、そんな理由だなんて、知らなくて……」

「あれはほこらにいるやつを消すために作られた宗教だ。いや、そんなことはどうでもいい。早くにげ」

 男性が言い終わる前に、私は彼を殺した。男性は糸が切れたように倒れた。

 私は厄災。そう言われてきたから、きっとそうなのだ。だったら、厄災の言葉通り、災害を、飢饉を、破滅を。この村に降らせなければならない。

 人がいないと厄災は成り立たない。だから、村人にはずっとこの村にいてもらおう。私が厄災であるために。

 少年がこちらをみた。私の姿が見えるらしい。顔を歪めていた。

「化け物……」

 少年はそう言った。化け物。私はそうなのだろうか。少年が言うのならそうなのだろう。良い神様、という言葉は嘘のようだ。

 私は、厄災で、化け物。そう言われたのだから、きっとそうなのだろう。

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