かたる、語る、カタルシス

雛形 絢尊

第1話

三日三晩、昼夜構わずに

私は絵を描き続けました。

それは至って普通の風景の絵です。

信じられないかも知れませんが、

私は絵に関しては秀でた力を持つようになりました。

それは何故かというと

確証というわけではありませんが、

第三の目というものが開眼したような。

そういったオカルトチックな部分では

ありますが、私は目覚めたのです。

兎に角、私は来る日も来る日も白いキャンバスに自分の全てを曝け出そうと筆を走らせました。

そうしていくうちにある一つの絵が生み出されたのです。私はその絵を描いてから筆を走らせることをやめてしまいました。

私が描いたものではありますが、私ではない誰かが描いたようなそんな絵です。

私の絵には特徴があります。それを兼ね揃えていない唯一の作品です。私はいつも書いた後にその作品に名前をつけるのですが私はこう名づけました。

『雪が降る』と。





よくよく考えてみると矛盾が生じます。

私は見るものに影響され、ものを書く場合が多いです。

例えば大きな入道雲が空に浮かんでいたとすると、それを書いたりします。

しかしながらいつもの

私ではありませんでした。

雪など降っていない五月のことです。

ますます私は自分自身が

分からなくなりました。

なぜ私は"雪"なんて名付けたのでしょう。

描かれたものは庭に植えられた木なのに。






そういったことで私は頭を抱えました。

度々私は強い頭痛や眩暈に悩ませられるようになりました。何故でしょう。私は頭の中にずっと稲妻が走り続けるようなとても嫌な感覚です。

ずっと高音が鳴っているようで、その高い音でしょうか、耳に響くような音。

あれはとても嫌です。

私は吐き気を催すようにもなりました。






ますます頭の機転が効かなくなったのはその頃のことです。とある出来事を思い出すきっかけがありました。

私はココアを飲もうと、粉末を匙で二杯コップに入れました。それが原因です。

私は少し前、ある変死体を見たのです。

私が絵のアイディアを探そうと少し田舎の方へ行った時の話です。







私はしばらく辺りを散策し、ある家を横目で見ました。奥にある物置小屋の扉の隙間に何かがいると。誰かが椅子に座っているように見えたからです。

その姿は少しも動かずで心配になり、

私は少しだけその家の近くへ近づいたのです。

私は大きな声を出してしまいました。

背もたれ付きの椅子に四肢をロープで繋がれた男性が首を上に向け、泡を吹いて亡くなっていたのです。

いや、それはよく見ると泡などではなく、

片栗粉だと知ったのはその日のニュースです。

私はその景色が目に焼き付いてしまってその場から逃げ去ってしまったのです。

私は見てしまった見てしまったと後悔をしています。逃げてしまったということよりも何よりも見てしまったと。





私はその出来事から冬が怖くなりました。

雪です。雪なんて恐ろしいです。あの遺体の残酷さと雪をどうしても私は結びつけてしまうのです。

私は考えてしまうとより深く考えてしまうので、考えることをやめようとしました。それはそれはとても難しいことではありました。

どうしても白い粉末を見てしまうとそちらに頭がいってしまうのです。私は心療内科へ足繁く通うようになりましたが一向に治らないままです。

私はその日、家の近くの商店でありったけの片栗粉を買いました。

私は自宅の浴槽に裸の状態で座り込み、次々と鋏で片栗粉の袋をこじ開け浴槽に入れていきました。

それはついに私の胸の高さほどまでの量でした。

私は恐怖でしたが、浴槽に水を入れ始めました。

私は浴室の窓から見える木を見ながら目を閉じました。












そんなことを考えてしまったのです。




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かたる、語る、カタルシス 雛形 絢尊 @kensonhina

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