○○から警告が来た

🔨大木 げん

○○から警告がきた

 愛妻おによめから警告が来た。


「一日に15分? 20分? 以下しか会話しない夫婦の離婚率って高いんだってよ」


 ドキン! と私の心臓は跳ねた。


 身に覚えがあり過ぎる。


 しかも、同じ事を10年程前にも言われた事がある。


 だがその時は「そっかぁ〜、うちはめっちゃ会話しているから関係ないね♪」と、私は答えた記憶がある。子供達が二人共保育園に通っている頃の事だ。


 それを受けて妻は「そうそう。〜さん家とか、もう全然夫婦で会話してないってよ。子供の事とか話さないのかなぁ?」等と言い、ますます私達の会話は弾んでいった。


 その頃の私は、家に帰ると携帯を充電器に挿して、その後は一切触らずにひたすら妻と子供達と100%の熱量で向き合ってきた。


 仕事から家庭そしてまた仕事と、自分の時間など全く無かった頃だが、その時々しか見られない子供達の様子に一喜一憂していたのでとても充実していた。


 翻って今はどうか?


 妻とは「めし」、「ふろ」、「ねる」位しか会話していないのではないか?


「めし」と言って、私が作った料理を家族に提供し、皿洗いはやりたくないとブーたれながら食洗機に突っ込む。鍋は洗うがせめてもの抵抗と、水筒は水をはり洗剤をぶち込んだ状態で「浸け置きです、後はやってね」のアピールをして、「ふろ」と言って、逃げるようにそそくさと風呂に入って別々の部屋で「ねる」。


 食事中はテレビが主役でそこまで会話は弾まない。その後の自由時間はひたすらスマホでカクヨムをやっている。確かに夫婦の会話が少ない。おまけに妻によると、会話する時も上の空である事が多いという。仕方がない、書く人の頭の中は物語の構想で満杯なのだから。


 考える容量が少ない私には、上の空の自覚がある。


 更に昨年から妻が職場を変えて私が休みの日に仕事になったので、休日だから会話が増えるという事もあり得ない。そもそも生活リズムがどちらかといえば私は朝型、妻は夜型ですれ違い気味なのだ。


 そもそも論でいえば、スマホをいじってばかりいるのは妻も同じなのだ。パズルゲームやYチューブばかり見ている。


 消費ばかりしている妻と違い、拙い物語とはいえ精一杯生産しているのだ、という自負が私にはある。


 しかし、警告が来てしまった。


 おいおい、一方的にこちらが悪いのか!? 5∶5とは言わないが、せめて8∶2最低でも9∶1位にしない?


 しかし、警告が来てしまった。


 警告が来てしまったからには、三日以内に是正しなければ、バンされてしまうのはカクヨムでも家庭でも同じである。


 カクヨムではバンされても復活できるが、家庭では放逐されてお終いだ。それは避けたい。 


 急に会話を増やせと言われても、いったい何を話せばいいのやら……小説の事を話せば相当な会話になるはずだが、カクヨムに生息しているような、我々活字中毒者からすると信じられない事に、哀しいかな妻は活字が嫌いなのだ。


 よって小説については話す事が何も無い。子供についても、高校生や中学生ともなれば、毎日親同士で話す事など我が家ではさほど無い。


 さて困った。と、思っていたのだが、翌日の夜になると、妻がYチューブで見付けてきた外国のエクササイズ動画、日本人からすると聞き間違い動画『ちんち○ポロンポロン』を見せられて、二人して爆笑して話が盛り上がってしまった。


『下ネタは世界を救う』とはこの事だろう。私の家庭も救われた。その後は、特に妻の機嫌が悪いということもない。幸いにして先日、家族全員で17回目の私と妻の結婚記念日を祝う事ができた。

 

 或いはあれは警告では無かったのかもしれないが、将来縁切りされてからでは遅いので、せめて上の空は止めようと意識的に過ごしている。 




 

 減ってしまった会話をもう一度増やすという事は実に難しい事だな、と今現在も痛感しているところです。


 どなたかと毎日を共に過ごされている皆様、「相方の世間話を聞いているよりもカクヨムしていた方が楽しいんだよな〜」という不都合な真実は心の奥に封印して、少なくとも相手の顔を見て赤ベコの様にウンウン頷いている方が平和は保たれるようです。


 私はすぐにその事を忘れてしまいがちなので、ここに書き記して次の警告が来ないように気をつけようと思います。

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