8.

「⋯⋯大河。ママと手を繋ぎたくないなら、せめて近くに歩いてもいい? そうしたら、また大河が転ぶことになっても、すぐに助けられるから」


独り言にも近い言葉だった。

こう言っても仕方ない。

諦めかけていた、その時。高く足を上げ、その一歩を踏みしめようとした足を止め、立ち止まった。


そばにいることは許す、ということなのか。


「大河、いいの?」


そう訊ねてみるが、頷きもしなかった。

恐る恐る大河のそばに寄ると、また歩き始めた。

しかし、先ほどとは違い、歩幅を小さくし、そして時折、姫宮の様子を伺っているようで、こちらに視線を向けていた。

一緒に歩いてもいいんだと、その時になって分かり、大河と距離を近づきすぎず、離れすぎずに取った。


「枝だから、木の近くにいいのがあればいいんだけど⋯⋯」


公園の周りにある木々にやっとの思いで来たが、雪に埋もれているせいなのか、なかなか良いのが見つからなかった。

ちょっとだけ掘ってみようと試みていると、大河も真似して掘り始めた。


「手袋していてもずっと触っていたら冷たくなっていくから、無理しないようにね」


雪だるまの時ですでに冷たくなっていると思われる。

そう言う姫宮も指先が冷たくなっていたからだ。

そう声を掛けた後、少し掘っている時、ひらひらさせているのが目に映り、顔を上げた。

大河の手に、細く、先に小さな赤い実のようなものがついた枝を持っていたのだ。


「可愛い枝だね。いいのが見つけられて良かったね」


微笑すると、顔にこそ出ないものの、嬉しげに枝をブンブン振っていた。

可愛らしいと小さく笑いつつ、「さっき作った雪だるまのところへ戻ろうか」とゆっくりとした足取りで一歩踏み出した時だった。

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