9.
「──愛賀。風邪を引くぞ」
抑揚のない、されど気遣おうとする低い声と共に、首元にマフラーが巻かれた。
聞いたことのある急な声に驚き、振り向くと、そこには御月堂がいた。
決してここにいるはずのない人物に、本物なのかと疑い、夢じゃないのかと不安になり、彼が巻いてくれたマフラーを無意識に触っていた。
「慶様、どうして⋯⋯」
「車で移動中、お前達を見かけてな。それでお前達はこんな雪の中、何をしているんだ」
「あ、雪だるまの手になりそうなものを探していたんです」
「⋯⋯雪だるま?」
こんな雪の中、と言っていた人だ。わざわざ作りに行かなくても、というより、そういう言葉を初めて聞いたというように聞こえた。
その反応に既視感を覚えた。
そうそれは、ちょうど姫宮の隣で、飽きたらしく、せっかく見つけた枝を地面に抜き差ししている我が子と同じようだと。
そう思うと、笑わずにはいられない。
「急に笑ってなんだ」
「あ、いえ。大河と同じような反応をされるので、つい⋯⋯」
「大河とな⋯⋯」
神妙そうな顔をした。
何か気に障るような言い方をしただろうかと思った時、大河の目線に合わせるようにしゃがんだ。
途端、大河は姫宮の物陰に隠れた。
「大河。いい大人の私も雪だるまというものを知らなかった。その点は一緒だ。だが、子どもの大河が先に知れた。すごいな。私よりも一つ賢くなった」
驚いた。
御月堂なりに大河のことを褒めようとするとは思わなかった。
大河も御月堂にそう言われると思わなく、姫宮と同じように驚いているようで固まっていたが、やがて腰に手を当てた。
表情こそ出ないが、得意げな顔をしているのだ。
そのような態度に「そうかそうか」と返していた。
その時、姫宮は見た。
硬く、ぎこちない表情がふと和らいだことに。
それには大河も気づいたようだ。今度は姫宮の服の裾を掴んでは、凝視している様子だった。
当の本人は二人のその反応に気づいてない様子で、「それで、雪だるまというものの手になりそうなものは見つかったのか」と訊いたことで、ハッとした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます