我が家の祠について

春海水亭

ありがとうございました。


 ◆


 ウチ、祠があったんですよね。


 まあ、祠の定義ってよくわからないので専門家に言わせれば、こんなもの祠じゃないって言われるのかもしれませんけど……ほら、埋めた死体の上にアイス棒とか立てたら、それは立派なお墓じゃないですか、そういうレベルでの祠があるんです。


 ところで子供の頃、お人形遊びしたことあります?ドールハウスってあるじゃないですか、リカちゃんハウスとか、シルバニアファミリーのなんとかのおうち、みたいな奴。あれ結構高くて、私は親に買ってもらえなかったんですけど、私は絶対買ってあげよう……って思って、なんなら私も遊ぼうと思ってて。


 それで娘の五歳の誕生日に買ってあげたんですね。

 娘と一緒にデパートに行って、これが良いっていうのを選びました。壁が開く奴。

 あはは……その時ばかりは親の気持ちがわかりましたね、いや全然買える値段なんですけど、ちょっと待ってくれ……みたいな、買うは買うけど、メルカリで出品してないかチェックして良い?みたいなことを正直思いましたね。


 それでピッカピカの新品のお家と可愛い女の子の人形をセットで買って、まあ家具とか女の子のお友達の人形とかは百均行きましたけど、まあ……娘も喜んでて良かったなぁって思いました。

 で、しばらくは娘も楽しそうに遊んでたんですけど……ある朝、置きたら消えてたんですよねドールハウス。


 おもちゃ箱の中には無いし、家のどこかに出しっぱなしにしたわけでもない。盗まれたかな……って一瞬思ったんですけど、まあドールハウスよりも盗むべきものってウチにたくさんあるじゃないですか、印鑑とか通帳とか財布とか。で、不意に娘が隠したんじゃないかなーと思って聞いてみたんです。


 そしたら、ちょっと涙目になりながら「庭に……」って言うんで、まあ娘と一緒に庭に行ったら、あったんですよね、ガムテープでぐるぐる巻きにされたドールハウスが。

「なんで?」って娘に聞きましたよ。

 庭に捨ててるのもおかしいし、ガムテープでぐるぐる巻きになってるのもおかしいし。


「いるから」って。

「何が?」

「わからないけど、何かいるから」

 まあ、最初は虫でも中に入っちゃって怖いからドールハウスを閉めて……ほら、さっきも言いましたけど、壁が開くようになってるんで。で、入った何かが出てこられないようにガムテで巻いたのかなって思いました。


「でも、そんなことしたら二度と遊べなくなっちゃうよ」

 諭そうとしても、もう娘は泣きじゃくってて、まあ何がいたのかわからなかったけど、怖かったね……って、最悪捨てることになるかもしれないな……って思いながら、ガムテープを解いていきました。


 そしたら、ドールハウスの中には小さいお地蔵様が入ってました。

 うわ、って思わずドールハウスを落としちゃいました。隣で娘が泣いてるからなんとか落ち着いてるふりが出来ましたけど、一人だったら悲鳴を上げてたと思います。人形サイズの石のお地蔵様が微笑んでて、うわーって思いました。


 お地蔵様って勝手に家の中に入ってくるものじゃないし、どこかで拾ってくるものでもないじゃないですか、娘は勿論のこと、旦那も知らないって言うし、私だってわざわざお地蔵様を拾ってドールハウスの中に入れるような真似はしません。


 なんかもうワケがわからなくなって、粗大ごみに出しました。

 次の日、今度こそ私は悲鳴を上げました。庭にドールハウスが……そしてお地蔵様も中に入ってましたから。


 あー……もう引っ越したいなって思ったんですけど、そういうわけにもいかないし、まだローンも二十年以上残ってるし。ただ、とりあえず逃げたいと思ってホテルに泊まったんですけど……翌朝、やっぱり部屋の中にありました。


 戻って来るし、ついてくるんですよね。

 お焚き上げっていうか燃やしてもらっても、ドールハウスごとついてくるし……ああ私の火傷ですか、そのせいですよ。


 誰かにあげようにもこんなものを貰ってくれる人間なんていないし……それで、霊能者に相談したら、祀っておく限りは何もしないから、ドールハウスを祠の代わりにして庭に祀っておけと。


 そして三点、大切なことを教えて頂きました。

まず、貰ってもらうというのは正しい……誰かが引き受けてくれれば、このお地蔵様のような悪いものは引き受けてくれた誰かに取り憑くだろう。

ただし、取引は直接人の手を介さなければならない。

宅配便などを用いれば戻って来る。


 次に祠の代わりにするのはこのドールハウスで無くても良い……まあ、今更このドールハウスで子どもが遊ぶことも無いだろうが、他にお地蔵様に見えるコレが祠と認識するようなものならば、別のものの中に入れても構わないということ。


 最後に表面上だけでも敬意を払わなければならない。

誰でもいいから持っていってくださいとか、お金を払うから持っていってくださいとか、そういう手段で他人に引き渡すことは出来ない。悪いものは気を悪くするだろう。


 だから、わざわざこのお地蔵様を高そうなアンティークのドールハウスに移したんです。アナタみたいな方に盗んでいただくために。


それでは、我が家の祠を盗んで頂き誠にありがとうございました。


【終わり】

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