第3話 年増ド天然エルフの初恋

後ろでリリスとルルが悲鳴を上げている。


俺は二人を守ろうと必死で腕を突き出すようにアリアさんを殴る。


ひらりと後方に飛びそれを躱すと続けざまに詠唱を始める。


「マジックボルト。」


超速の光が俺の眉間を貫くと大きく吹き飛ばされる。


「なにをしておるっ!!!」


バフォットじいさんは二人を庇うように一瞬でゴーレムを作りあげると俺も元に駆け付けてくれた。


「その少年はこの世界に災いを呼ぶ。ここで始末する外ない。」


「お前は事を急ぎ過ぎる!落ち着くのじゃ。」


「どけ。」


アリアさんが腕を払うようなしぐさをするとバフォットじいさんは俺と同じように壁にたたきつけられた。


なんとか障壁を張って耐えたようだが一目見て二人の間に大きな実力差があるのがわかる。


「老いたな。」


「やめてくれ。俺に用があるんだろ?三人は関係ないはずだ。」


「心臓と脳を潰したのにもう再生したのか。やはり危険だ。この世界にいてはいけない。」


真紅の瞳は相変わらず冷たく俺を捉えている。


強く射貫く視線に俺は震えずに睨み返す。


三人を守らなければ。


とりあえず格闘アニメの見様見真似で動いてみるがその通りに体が動いてくれるおかげで様になっている。


だがゴーレムを相手にしたようにはいかず、半端な攻撃はかすりもしない。


「おりゃ!」


確実に腹部を捉えたと思った一撃も障壁に防がれる。


「まじかよ。」


油断が命取りになった俺は再度眉間を光に貫かれ壁にたたきつけられる。


「次は脳と心臓を同時に潰す。」


その呟きにこれまでかと思ったそのとき。


「リクさん!負けないでください!!」


リリスの絶叫はたぶん命令なんかじゃなかったと思う。


それでも俺の体はそれを遂行するためにどんどんと熱くなっていく。


「すげえ。なんだかさっきより体が軽い。」


軽い。軽すぎる。もはや感覚すら消えそうだ。


俺は飛び跳ねるように起き上がるとそのままアリアさんに向かっていく。


この最強モードがいつまで続くかなんてわからない。


俺の後先を考えない連撃に最初は対応できていたアリアさんもどんどんと追い詰められていく。


だがその表情はいたって冷静だった。


「ぐふっ。」


背中に衝撃を受ける弾き飛ばされる。


振り返るとそこにはアリアさんがいた。


「二人?」


「同時に潰すと言ったはずだ。」


「どうしてそこまで。」


「イレギュラーは排除しなければいけない。それは全ての物事に例外がないルールだからだ。」


初めてその瞳に悲しみがこもったような気がした。


「とりあえず話を聞いてもらうわけにはいかないってわけだな。」


それからは一方的だった。


捕らえたと思えば影のように消え、もう片方が攻撃魔法を繰り出す。


どちらかは本物のはずなのに一向に当たりを引けないでいる。


そうして俺はボロボロのまま挟まれるような形で追いつめられていた。


前か後ろ。正解は一つ。全く同じ容姿。見分ける方法は皆無だ。


俺は覚悟を決め後ろのアリアさんに殴りかかる。


その瞬間アリアさんが微笑んだような気がした。


「前だよっ!」


ルルの叫びに俺の体は意思とは無関係に回転すると前にいるアリアさんに殴りかかった。


バリン。


分厚いガラスを割るような嫌な音を鳴り響かせながら障壁は割れアリアさんは大きく吹き飛ぶ。


どうやら攻撃の直前で入れ替わっていたらしい。


俺にも認識できないほどの速さで攻撃対象が入れ替わってしまったために避けることが出来なかったようだ。


「ほっと。」


壁にたたきつけられる直前にバフォットじいさんがアリアさんを受け止める。


「もういいじゃろう。」


もうアリアさんに戦う体力も魔力も残っていないようだ。


「あの少年は確実に台風の目になるぞ。」


「そうならんようにするのが大人の仕事ぞい。」


「ふんっ。」


アリアさんは払いのけるように立ち上がると俺のほうを向く。


「私を今殺さなければいずれまたお前を殺しに来る。」


「俺だけ?」


「ああ。貴様だけだ。」


「…ならいいかな。」


俺の笑顔にアリアさんがほんの少し頬を緩めてくれたような気がしたのは俺がノベルゲームをやりすぎたせいだろうか。


「今日のところは退く。最後にテイムに付いて知りたいんだったな。」


「そうじゃ。」


「少し待て。」


そう言うともう一度俺を見つめる。


「確かにこの少年はその二人の少女にテイムされている。魂の結びつきでわかる。」


「そんなぁ。」


リリスがしょんぼりしている横でルルは申し訳なさそうに曖昧な笑顔を浮かべている。


「テイムの条件は…。」


しかしよく見ると本当に綺麗な人だな。体付きもさすが大人の女性だ。二人も凄いけどこの人はそれ以上だ。


「相性。魂。好意。…これは愛。」


「なにかわかったかのう。」


「この少年は二人の少女に同時に好意を持っている。自分から従いたい、助けになりたいと願っている。その心が二人に同時にテイムされるというイレギュラーを作り出したようだ。」


その言葉を聞いてリリスは顔を真っ赤にしルルは先ほどよりもさらに曖昧な笑顔を、そしてバフォットじいさんはそれどころではないと言う顔をしている。


「要するにリクは惚れた女子には無尽蔵にテイムされるということかのう?」


「そうだ。」


バフォットじいさんの顔が青ざめていく。


「リクよ。お主。どんな女子がタイプなんじゃ?」


「いや、そんないきなり言われても。」


「大切な話なんじゃわい。真剣に聞いてくれ。どんな女子がタイプなんじゃ?」


考えてもタイプなんてまったく出てこない。


今までやっていたゲームを思い浮かべても好きになったヒロインたちは容姿から性格まで多種多様だ。


逆にどんな人気キャラでも直観的に好みと思わなければ好きになることはない。


「直観。としか言いようがないんだ。」


「例えばアリアはどうじゃ?」


「耄碌したか。経った今殺し合いをしたばかりの女。特にこんな年増を少年が好きになるわけないだろう。」


「タイプです。」


正直こういう出会いってありがちだと思う。


それにああ言っていたけどアリアさんは俺を殺しに来ることはもうないだろうという直観もあった。


「は?」


たった一文字の言葉だがだからこそアリアさんの動揺がはっきりと伝わる。


「ふざけるな。私は100年間一度も誰かに愛されたことなどない。天涯孤独の女だ。それはよくわかっている。そんなお世辞などまったく嬉しくない。それにタイプなんてわかりにくい言葉でこの私をからかうつもりか?まったく最近の…」


「落ち着けアリア。お前さんらしくないぞい。」


「…ふぅ。私は落ち着いている。」


「めちゃくちゃタイプです。それに」


「ああもう。少し黙れ!」


アリアさんの指先から見えない閃光が発生し俺の体に静電気のような小さな衝撃を走らせる。


テイムの魔法だ。


そして俺は誰かに塞がれたかのように口を紡ぐ。


俺はアリアさんの黙れという命令を聞いてしまったらしい。


その姿を真っ赤な顔で見つめるアリアさんと盛大にため息をつくバフォットじいさん。


「これほどの力を持った少年が惚れたというだけで女子のいうことを何でも聞いてしまうとはのう。これはとんでもないことになったぞい。」


バフォットじいさんが頭を抱えている中、俺を見つめるアリアさんの顔はどんどん赤くなっていき。


ぷしゅ~。


煙を出して倒れた。

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世界最強の召喚獣として召喚された俺はどうやらあらゆる美少女にテイムされちゃうらしい 丸一 @oramamaruiti

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