「やっぱり歳下に手を出すようなロリコン男は最低だと思うんですよ」

「……そうだね」

「あと、自分勝手でエゴが強いナルシストも最低です。しかも、ニートで甲斐性無しとかもうクズ以下だと思うんです。ですよね書き死ぬさん」

「……小雪さんの言う通りだと思います」


 あれから僕は雪さんが泣き止むまでひたすらに彼女を抱きしめ続けた。しばらくしてようやく泣き止んだ彼女は、彼女が好きだった誰かの話を永遠と僕に続けていた。


「人と関わらない職業だからって小説家を目指すものどうかと思うんです。世の作家の卵を舐めてると思います。小説家が人と関わらない仕事な訳ないじゃないですか、編集さんとかファンの人とか絡む人なんてめちゃめちゃ多いですよ。考え方が全くもって浅慮で浅はかだと思います」

「……うん、ほんとそう思います。けどそろそろ小雪さん」

「……なんですか。私はまだまだ言いたい事があるんですけど」


 僕はそういう彼女に時計を指す。そろそろ部屋の時間が迫っていた。彼女は開けていた口を閉じると、歯を食いしばり、大きくため息を吐いた。

 おもむろにバスローブを脱ぎだす。僕は顔を背けた。


「……せめて着替えるなら一言欲しいかな」

「……今更書き死ぬさんに見られたところでなんとも思いませんよ。貴方もさっさと着替えてください。私が払うんですから」


 言われて僕も端に移動し、いそいそと着替え始める。……どうやら本当に吹っ切れたようだった。僕達はそのまま一緒に着替えると速やかに部屋を出て、一緒に近くの駅まで歩いた。……これが終われば僕達はもう二度と会う事はないだろう。


 駅着いた小雪さんは振り返る。


「……これから小雪さんはどうするの?」

「学校の準備です。告白の返事もしないと行けませんし、半年は行ってないで学力差も埋めなきゃ行けません。……私の青春はこれからですから」


 爽やかな笑顔だった。これまでの僕に向けていたのとは別の、ただのなんてことのない笑顔。今までで一番美しい顔だった。


「書き死ぬさんはどうするんですか?」

「……そうだね。新人賞も近し、本格的に執筆作業に戻るかな。少し長く遊びすぎたから」

「……嫌味ですか」

「違うって」


 ジト目で睨む彼女に僕は苦笑いで返した。「ならいいです」彼女はそう言うと僕に背を向けた。……これで彼女と二度と会う事はない。そう思った時にもう一度彼女は振り返った。


「最後に一つやり残したことがありました」

「何かな?」

「携帯貸してください」


 僕は疑問符を浮かべながらも彼女に素直に差し出す。……いつの間に知っていたのか彼女は手早くロックを外すと僕の携帯をいじって僕に返した。


「連絡先消しておきました」

「……あとでやっておいたのに」

「それともう一言だけ」

「?」

「こういう事、もう二度とやらない方がいいですよ。普通じゃないし、間違ってるので」


 そう言って彼女は本当に僕の元を去っていった。……僕の携帯からは配信アプリが消えていた。……全く本当に彼女は僕のことをよく分かっている。

 取り残された僕には謎の高揚感があった。これまでに感じた事のない、何か不思議な感情が僕の中にあった。


「……人を好きになったことなかったけ」


 僕はぽつりと呟いてから、帰路に着いた。小説家になろうと思った。逃げるためではなく、前を向くために。僕は少しだけ自分の生き方を変えられそうな気がしていた。


 

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