やらかした方が悪い

白川津 中々

◾️

テレビを観ていたら不祥事を起こした芸人についての内容が放送されていた。




「あんな奴はクズですよ。生きてちゃいけないけないんです」




ハハハハハというSEとともに出演者の笑い顔が変わる変わる映る。俗悪だなぁと思いながらも気怠い休日の午後。やる事もなく、チャンネルを回すのも面倒であるからしてぼぉっと眺めていると、番組に動き。




「というわけで本日、やらかしたクズをお呼びいたしました」




軽快な音楽に迎えられ現れた不祥事芸人A。聞いたことのある名前に見たことのある顔であるがどういった芸をするのかまでは定かではない。しかし、問題を起こしてまだ一週間余り。メディア露出は時期尚早ではないかと世俗的な感想が浮かぶ。




「いやぁ、A君、よくも来てくれた」


「あれだけやらかしてねぇ。人様の前に顔向けできるその根性は凄いよ。あ、褒めてないからね」




いわゆる"イジり"に愛想笑いを披露するA。SNSで叩かれる未来しか見えない構図に飽きれ、さすがに他の番組にしようかとスマートフォンのリモコンアプリを起動。ザッピングで暇を潰すという非生産的な行為はもはや悪徳であったが、それ故に怠惰の快楽に溺れられていた。だが。




「それでは、A君は禊としてリンチにあってもらいます」




親指が止まる。

リンチ。

コンプライアンスが叫ばれるこの時代になんと過激なワードなのだろうか。




「皆さん準備はよろしいですね。ではまいります。リンチ、スタート」




司会者の掛け声と同時に、出演しているタレントや芸人がAへ向かって飛びかかる。なんとまぁ前時代的な演出だなぁなどと軽んじていたが、違う。皆、本気だ。本気でAをリンチしているのだ。液晶モニタからは殴打音とAの呻き声が長く続く。異常な光景に食い入っていると、「あ」と溢れた一つの声により静止。目に入るのは赤と黒に染まり固まっているAのアップ。どう見ても息の根がない。




「はい、というわけで、次のコーナー」




何事もなかったかのように続く番組。嘘だろうとSNSを見ても皆「ざまぁない」「やられて当然」といった投稿で埋め尽くされている。司法国家である日本でこんな真似が許されるのかと強い怒りに震えるがしかし、内に湧いている自身の感情に気がつくと、途端に勢いがなくなる。

リンチされているAを観て、苦しみもがくAの声を聴いて俺は、俺は確かに、愉しいと感じていたのだ。




番組は問題なく進行しながらAの死体が傍らに映り続け、俺の心拍は上がり、血流が加速していく。

出演者は皆笑顔だったが、俺はどんな顔をしているのか。直視する勇気はなかった。

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