9.魔物の覚醒
獣という言葉に相応しいほどの足の速さを見せた『
そんな『
「ランデルっ‼ どうすんだこれっ‼ もう十階層だぞっ‼」
「分かってるっ‼ この執着はいったい何なんだっ‼」
「はぁ……はぁっ」
トーマスとランデル、そしてミゼルは何度も何度も、その剣と魔法を叩きつけた。
そのおかげもあり、『
明らかな異常個体による異常行動。
『鉄に絆』にとって正真正銘、初めてのイレギュラー。
ランデルは焦燥感に額を脂汗でにじませる。
ここまで来るまでに何人かの冒険者を見たが、そのすべてをスルーしている状況だがこれ以上階層を上がろうものならいつ被害が出てもおかしくない。
何としてでも止めなくてはいけない。
そんなランデル達がようやく、『
「よ、ようやく止まりやがった。あの魔物っ」
「……誰かいるのか……まずいっ‼ トーマス、止まるなっ‼」
「––––っあ゛ああ、わかったよ‼ チクショウっ‼」
『
傷だらけと言えども中層の魔物。
その身から放たれる威圧感は上層の魔物とは比べ物にならないはずだ。そんな魔物に睨まれれば、新人冒険者であろう彼女らが逃げることもできずに恐怖に飲まれるのはしょうがないことだ。
珍しく声を荒げたランデルとトーマスは『
「「――きゃっ!?」」
「反撃が来ない……? あれは何をしているの? 岩?」
ランデルがトーマスと少女二人とともに戻ってくると、そこまでしても動かない『
『
ここ『
そして、そんな岩に『
瞳をひどく充血させ、涎を撒き散らし、牙を岩に突き立てる。
しかし、その強靭な牙はその岩を砕くことはおろか、ひびを入れることすらできていないようだった。
本来なら岩ごとき、余裕に嚙み砕くというのに。
「……あの、あれは岩じゃ」
「知っているのか?」
「あれは……恐らく新種の魔物じゃないかと」
「新種……だと? ……いや、そういうことか」
ランデルとトーマスの腕から解放されて、腰を抜かした金髪の少女と長い黒髪をした少女の言葉にランデルは再びその岩を睨みつけた。
新種……そう聞いて、ランデルは少しだけ若い頃の記憶を思い出す。懐かしい、ランデル達がまだ彼女たちぐらいの新人だったころのことだ。
ランデル達もはじめはそうだった。
「石化病……」
「あぁ、そういえばそんなのあったな」
「トーマスが『化石を見つけたっ‼』って騒いでギルドに持っていったら、石化したゴブリンの手だったっていうあれね」
「うっせぇ、お前だって『これいくらで売れるかしら?』とか言ってただろうがっ‼」
「あら、そうだっ――!?」
――グオオオオオオオォォォォォォオオオオオオオ‼‼
それは命を乞う獣の嘆きの声のようだった。
ランデル達の視線は未知の光景にくぎ付けになる。
岩が脈を打つ。
巨大にして、濃密な、ランデル達ですら感じたことないほどの魔力の波動が『
「「「「「――っ!?」」」」」
岩肌を埋め尽くすように現れた赤く光る線――魔力回路が『
魔力回路はその身体を侵食するようにして、やがて『
––––そして次の瞬間、ランデル達はとてつもない衝撃波と盛大に破壊された魔力結晶の嵐に見舞われた。
「「きゃーーーーっ‼‼」」
「くっそたれっ」
「「――っ」」
突然のことで、庇うことが出来なかったせいで二人の少女は壁に叩きつけられてしまう。ぎりぎりのところで踏みとどまったトーマスとランデル、ミゼルは目の前に立ちはだかる圧倒的な魔力に少女たちの方に目を向けることが出来なかった。
ダイヤモンドダストのような美しい世界。
そこに聳え立った巨大な魔物はその世界に影を映す。
「……どうなってんだよっ」
トーマスの呟きが空を切る。
そこにいたのは『
身体を一回り大きくなり、天を貫かんとする角は鋭い魔力を宿し、その瞳は蛇のようだった。そして、ランデル等を押しつぶそうとする圧を発しているその尻尾。
馬のような尻尾が膨れ上がり、天井を向いている。
その多量の毛に覆われているものは見えなくてもランデル達にはわかる。あの異様な魔力の発信源である岩はその尻尾の中に隠されていた。
「……っ」
ランデルは中層を狩場にする者として直感で理解した。
――僕達では、太刀打ちできないかもしれない。
あとがき
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魔物解体師は龍の雫で覚醒する〜魔法の使えない魔物解体師でしたが、龍を解体したら最強魔法が使えるようになりました。ダンジョンの魔物を全て解体する夢を叶えたいと思いますっ!〜 アヒルの子 @yakiimon
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