第2話 ポンコツ魔法使いエナ

「なに落ち込んでいるのよ」


 森に向かうオオガミを見送って、しばらく経った後。

 オオガミは無事に間に合ったのだろうか? と心配している僕に話しかけてきたのはエナだった。

 

 パーティには僕とオオガミ以外に女の子が一人いる。

 腰まで伸びているストレートヘアーの金髪はサラサラして艶があった。そしてオシャレのために赤いカチューシャをつけている。

 まるで人形のような綺麗な白い肌と整った顔立ち。緑がかった大きい瞳。

 可愛らしい顔をしているのだが、気が強くてワガママなのが残念な少女である。


「別になんでもないよ。……ただ金欠に悩んでいただけさ」

「簡単よ。そんなの私に任せればすぐに解決できるわ!」

「……」


 ………解決できてないんですけど

 僕が回復担当、オオガミが接近戦担当なら、彼女は遠距離担当。

 エナは自分の血を使って詠唱し、巧みに魔法を使って戦う魔法使いである。

 だからなのか、ワイシャツとスカートの上に着ているローブが似合っている。

 魔法使いの攻撃は強力。そして派手である。なのでエナの攻撃は毎回僕を魅了する。

 でも訳あって……エナの魔法は滅多にしか見れないけど。


「ねぇサク。あんたの治療ヒールで空腹治せないの?」


 こいつは何を言っているのだろうか?


「できないよ。ヒールは傷を治す魔法だから」

「万能じゃないのね」

「無茶なこと言うなよ!!」


 ヒールを何だと思っているんだよ!? 


「エナ、さっき僕とオオガミの昼飯奪って食べてたじゃないか?」

「少ないわよ!! 魔法を発動させるにはかなりの体力を使うの!! だからすぐにお腹減るんだから」

「そのせいでオオガミ毒キノコ食べて、下痢なんですけど」

「知らないわよ。でもさすがオオガミだわ。毒キノコ食って下痢なんて子供じゃないんだから。あ! 頭は子供だったわね」


 ……最低だ

 下痢しているオオガミを心配することなく、あざ笑うエナ。食べたオオガミも悪いけど、なんだか可哀想になってきた。

 彼女は可愛いのだが、性格に難がある。

 出会った当初、美貌にときめいた自分がいたが、人の不幸が大好きなところ、貪欲なところなど知ってしまった今、恐ろしい女だと思っている。


「さっさと依頼を終わらせて、ご飯にするわよ!! もし依頼失敗して飯抜きとかになったら許さないからね!!」

「……分かったよ」

「さぁ、今日も肉を食べるわよ!!」


 ……マジかよ。

 あんなに肉食べたのに、まだ飽きないのかよ。

 所持金0ゴールド。僕らが金欠になったのはオオガミが聖剣 (ニセモノ)を買ったせいでもあるが、エナのせいでもあるのだ。

 それは昨夜の出来事。

 依頼を終えた俺らは、報酬が予想以上に多くもらえたので、酒場で宴をすることにした。

 それが事件の始まり。

 彼女は大食いだった。酒場にある肉全てを食いつくすほどの。

 次々に出てくるお肉を一瞬で消してしまうのだ。この人魔法使いだから魔法で消しているのかな? と思っていたけど、魔法は関係なく、普通に食べていただけだった。

 その結果、俺らは多額のお金を請求をされてしまい血の気が引いてしまった。

 冒険者なりたての僕たちは払えることができず、「すみません……必ず払いますから」と土下座した。

 だけど酒場のオーナーは激怒。「二度と来るな!!」と出禁にされてしまった。

 さっきは所持金0ゴールドって言ったが、まだ酒場の支払いが終わってない。

 ……借金だ。


「はぁ……お金……あんなにあったのにな」

「確かに。あのバカが聖剣ガラクタなんか買わなければ、もっとマシな飯が食えたのに」

「……」


 エナがあんなに肉を食わなければ、金欠に悩まされることはなかったのに

 じぃー……

 僕の視線に居心地の悪さを感じたのか、エナは冷や汗を流しながら睨む。


「何よ!! 私が悪いって言いたいわけ? あの時はしょうがなかったの!魔法使いすぎて限界だったんだから、いい? 私は空腹が続くと理性を失うの!! 何か食べ物を口にしないと暴走してしまうのよ!!」

「つまりあの日酒場の肉を全て食ったのは、暴れないためって言いたいの?」

「そうよ。納得でしょ」

「……そうっすね」


 どんな設定だよ。

 僕は視線を逸らしながら答える。

 なぜか威張りながらドヤ顔をしているエナを見て、自然とため息が出てくる。


「うおおおおおお!!」


 遠くから聞き慣れた声が聞こえる。

 声がしたほうを見るとオオガミがこっちに走ってきてる……それと後ろから誰かが追っている。

 オオガミは僕とエナのほうに近づいてきて、目を凝らすとオオガミの後ろを走っているのが誰なのか分かってくる。


「げっ!!」


 分かった瞬間。自然と声が漏れる。


「なんでゴブリンなんか連れてきているんだよぉぉぉぉぉ!! あのバカぁぁぁぁ!」


 僕とエナはゴブリンから逃げるように後ろを走る。

 オオガミは僕たちに追いついて「へへへっ」と笑っていた。


「糞してたらゴブリン見つけてよ。こいつなら食えると思って」

「食えるわけないだろ!! あんな腐った肉!!」

「いや、一匹だったから勝てると思ったけどよ。あの野郎仲間呼びやがって……卑怯と思わないか?」

「……」


 ゴブリンは臆病な生き物だから、敵を見つけたら襲う前に仲間を呼ぶ習性があるんだよ。って言ってもオオガミは分からないだろう。

 早く逃げよう。

 後ろをちらっと確認をするとゴブリンは10体。冒険者なりたての僕たちにとってかなり苦戦する数だ。

 ここは逃げたほうが賢明だ。


「二人とも私の後ろにいなさい」

「エナ!」


 僕とオオガミと一緒に走っていた彼女は走るのをやめて、後ろを振り返る。

 そして親指を噛み、親指から出た血で手のひらに『Ⅲ』と文字を書く。


「赤き子よ」


 そして言葉を呟き、文字を書いた手をゴブリンたちに向ける。

 

「我の血で目覚めよ」


 エナが唱えると、手に書いた文字に赤い光が輝き始める。

 次第に赤い光は大きくなってエナの右手が赤い光に包まれる。

 僕は綺麗だなと思いつつ、今回は成功するんじゃないかと期待する。

 倒せっ!! エナ。 ゴブリンの素材はよく売れるぞ。


「英雄リリーアの第3の魔法……インプレしゅぅ……ん」

「噛むなぁぁぁぁ!」



 大きくなっていた赤い光は消えてしまった。その代わりエナの顔が真っ赤になっていた……羞恥で。

 失敗だ。

 魔法は呪文を唱えて発動させるものなのだが、その呪文を一回でも間違えたりすると魔法は消えてしまい不発に終わる。

 彼女は呪文を唱えるのが苦手だ。それはもう呆れて笑うことしかできないぐらいレベルの。


「エナ、オオガミ、退散っ!!」


 僕が入っているパーティーは、バカでトラブルメーカーの騎士オオガミ、意地っ張りで滅多に魔法を発動しない魔法使いエナの三人で活動している。

 もちろん弱小パーティーだ。その上お金がない。

 こんな僕たちだけど今日も生きるためにお金を稼ぐ。



 ……てか金欠の原因、僕関係なくない?

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僕とバカ騎士とポンコツ魔法使い ヒロセ @hriose

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