僕とバカ騎士とポンコツ魔法使い
ヒロセ
第1話 バカ騎士オオガミ
緑に囲まれた野原で涼しい風に当たっている僕は路頭に迷っていた。
残高0ゴールド。
お金がない。金欠だ。
何度巾着の中を見ても、丸い硬貨は一枚もなかった。
「……ヤバいな」
思わず声が漏れてしまった。
まだ家賃も払ってないし、武器のローンだってまだ残っている。それに飯も食べないといけない。
日が経つたびにお金は増えるどころか減っていくばかり。そしてついに所持金は底をついてしまった。
本当はお金はあったはずだったんだ………冒険者になった時にもらった10万ゴールドが。だけどそのお金は一瞬で溶けてしまった。
こんなにも僕を金欠で悩まされているのは、2週前の出来事が原因だろうか? それとも昨日の出来事が原因だろうか?
「……そんなことを考えても意味ないよな」
僕は重いため息を吐く。
過去のことで悩んでもダメだ。先のことを考えよう。
お金を稼ぐには働くしかない。
僕は冒険者だ。
依頼主からの報酬やモンスターの鱗や皮、肉などを商人に売ることで収入を得る。
ということはお金を稼ぐには依頼を受けて、モンスターを倒す必要がある。
だけど一つ……問題がある。
依頼を達成できなければ報酬をもらうことができない。それどころか失敗料としてお金を払わなければいけない。
冒険者は金稼ぎにもってこいの職業だ。うまく依頼をこなせば巨万の富を手に入れることだって夢じゃない。
だけど必ずしも儲けているわけじゃないのだ。僕たちみたいに失敗料を払い続けると赤字になってしまう……
「お……い。サク……」
空っぽな巾着を見ながら、これからどうやって生活しようかと考えていると、背後から弱々しい声で僕の名前を呼んでいるのが聞こえる。
あ、オオガミだ。
振り向くとパーティーメンバーがいた。
身長はだいたい180センチと高く、体つきもいい。鍛えられた身体には白銀の鎧を纏っている。
鋭い目と細い眉が印象的な顔、それに加えて赤髪はオールバックなのでオオガミからには威圧感があった。
強面の彼なのだがいつも「へへへ」と笑っていて陽気な性格……なのだが今は違うみたいだ。
「大丈夫!? オオガミ」
顔を真っ青にしながら腹を押さえている。あきらかに体調不良だと分かった。
「回復を……頼む……腹が痛てぇ」
「腹? まさかモンスターにやられたの!?」
「……キノコに」
は?
「腹へったから……道に落ちていたキノコを食ったら……毒キノコだったみたいだ」
「……」
冒険者になって依頼を受ける前にやることがある。
それは仲間を集めてパーティーを作ること。
依頼を達成するには役割を分担して、人と協力する必要がある。
中には一人で依頼をこなす一匹狼の冒険者がいるという噂があるが、本当にいるかどうか定かじゃない。
彼は同じパーティーに所属するオオガミ。
盾でモンスターの攻撃を防ぎ、大きな剣で反撃をする騎士である。
「くっ……」
「くっ……じゃないよ。なんで落ちてた物を毎回食うのさ?」
オオガミは力持ちでモンスターと戦闘になった時、頼りになる存在なのだが、ただ……
バカなんだよな。
このようにキノコや薬草をすぐ食べようとしたり、モンスターを倒すための作戦を説明するのだが、理解できずに結局敵に突っ込んだり……
彼の弱点を挙げるとしたら、すごいバカ。あと女性に騙されやすいところだ。
そのせいで2週間前、武器商人の女性に騙されて聖剣 (ニセモノ)を買ってしまったのだ。
値段は5万ゴールド。僕らにとって大金である。
この世界に一本しかない聖剣が5万ゴールドで売っていたら普通疑うのだが、オオガミは満面の笑みで買ったらしい。
「本当にバカだ……」
呆れてため息と共に本音が出てしまった。
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
オオガミは腹から大きな音を鳴らして、崩れ落ちた。
明らかに緊急事態だっていうことが分かる。
「うおおお!! やばい……は、はやく……
「……ヒールじゃ下痢は治らないよ」
「なに!?」
「毒だから解毒薬か
「じゃエンポールを頼む……」
「……使えないんだよ」
「おいおいサク。治療師だろ? 毒ぐらい治せないのかよ? 情けねぇな」
お前の方がよっぽど情けないよ。
僕は漏れそうなのを我慢しながら地面に倒れているオオガミを睨んだ。
「しょうがないよ。まだ冒険者になったばっかりなんだから。これから覚えるようになるんだよ」
「じゃ、解毒薬でもいいからくれ」
「持ってきてないよ。今日の依頼は電光虫を捕まえるだけで、毒属性のモンスターを討伐するわけじゃないし」
「なんだよ。気が利かないな……いいか冒険者っていうのはトラブルが付き物なんだ。どんなことでも対応できるように準備しねえと。これ基本な」
お前がそのトラブルを作っているんだよ。
オオガミに言われても説得力がない。
僕は「そうだね」と軽く流す。
「ったくよ。やっぱり俺様がいないとダメだな。ハハハハハッ」
殴りたい。こいつの腹を殴りたい。
普通に戦ったら間違いなくオオガミに負けるのだが、腹をくだしている今、もしかしたらこいつに勝てるんじゃないか?
しかし、どうやら腹を殴る必要はないみたいだ
「うおおおおおお!! ……またきやがった」
グルグルグル!と嫌な音が野原に響く。
オオガミは震えながらゆっくりと立つ。
「俺は……騎士。だから無様な姿を見せるわけにはいかない……」
もう十分無様な気がするが。
思ったのだが、口に出さないでおこう。
「サク……俺は……いい作戦を今……思いついた」
「なに?」
「あいにく、ここは野原だ……周りには森がある。そこでしようと思う」
分かったから、早く行けよ。
決断したオオガミは走ってもないのに息切れをしていて、辛そうだった。まぁ、自業自得だけど。
「しかし一つ問題がある。尻を拭く物がない」
知らねぇよ!!
「……そこら辺に生えている草で拭けばいいんじゃない?」
「それだ!!」
適当に言ったが、どうやらオオガミには名案だったらしく、僕の肩を叩いて褒める。
もう呆れて笑うしかなかった。
「じゃ……俺は……作戦を実行するために森に向かう」
「そ、そう。気をつけてね」
出ないように姿勢よく歩くオオガミの後ろ姿を見て、僕は再び思う。
「やっぱりバカだな」
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