最終話 皇帝と英雄騎士
「これでよしっと」
執務室にて、ティアが書物を閉じる。
書物の名前は『
ティア自らが
ちょうど最後まで書き終えたのか、筆を置いた。
「思えば、色んな事がありましたね」
ティアは、今までを振り返るように書物をめくった。
★
『全ては皇帝陛下の遊びでした』
皇国再興記の記述である。
アステリア皇国の次代皇帝を巡る戦い。
それにはティアをはじめ、ヴィンゼルやレグナスなどの皇子、その他多くの者が関わっていた。
だが、その全てを、現皇帝は裏から楽しんでいたのだ。
まるで盤上で行われている
『皇帝陛下は偉大な力を持っていたのです』
皇帝も、ただ裏に回っていたわけではない。
レグナスやヴィンゼルが駒にしか感じない程、強大な力を持っていたのだ。
その最たる例が、邪霊の存在である。
『恐るべき力でした』
皇帝が従えていたのは、“古来の邪霊”。
その力は、まさに破壊の
レグナスに宿っていたのは、先代の邪霊。
先代の四大精霊が、邪霊化してしまったものだ。
だが、皇帝が使役していたのは、そんな話どころではない。
遥か昔、
精霊は現代に至るにつれ、段々と力を弱めている。
そのはずが、古来の精霊が邪霊化したとなれば、強さは分かるだろう。
『それでも、私たちはやり遂げなければならなかったのです』
しかし、その対局に現れたのがティアだ。
盤外から眺めていただけの皇帝に、真っ正面から立ち向かったのだ。
彼女の理想に共感した、様々な駒を以て。
『ヴィンゼル
現皇帝と、ティア。
両軍は真っ向からぶつかり合った。
ティア側から先陣を切ったのは、ヴィンゼル。
彼の武器は、先の戦いでも評価された、見事な戦法の数々だ。
“歩く戦術兵器”と呼ばれた強さは、皇帝側の出鼻をくじいた。
『シャロルの存在は、裏社会を変えたのです』
次に大きな戦いを制したのは、シャロル。
元々は裏社会で活躍していた、現ティアの密偵だ。
そもそも裏社会の人間は、社会への不穏さから生まれる。
その多くは、やりたくてやっているわけではなかった。
金、絶望、先の見えない未来。
そんな不安が裏社会を形成する。
だが、そこにティアという光が差した。
彼女に付いて行けば、明るい未来が待っているかもしれない。
そう希望を見出した裏社会の者たちは、こぞってシャロルの下に付いた。
皇帝側との戦を、「最後の裏仕事」として、戦い抜いたのだ。
その経験に基づく力は、大いに役立った。
『そして、アル様です』
そうして、迎えた最終決戦。
相手は皇帝。
迎え撃つはアル。
ティアが優勢気味とはいえ、ここで負ければ全て無に帰る。
皇帝はそれほどの力を持つからだ。
つまり、二人の勝敗が全てを決める。
『当時のことは鮮明に覚えています』
その戦いは、皇国再興記に詳細に描かれている。
────
半年前。
「皇帝! あなたは間違っています!」
ここは最終決戦の地。
声を上げたのは、アルだ。
「ほう。何が間違っていると?」
皇帝は低くゆっくりとした声で答える。
その声色には余裕が浮かんでいる様に。
「あなたは国民を
「それの何がいけない?」
「あなたは皇帝という皆を導く立場のはずだ!」
アルは、ティアの姿を見てきた。
国民に寄り添い、平和な国にしたいと尽力するティアを。
皇位継承権第一位となったティアは、破竹の勢いで国民を味方につけていた。
そんな状況が変わったのは、少し前。
皇帝が姿を見せたかと思えば、言い放ったのだ。
ただ「楽しませてもらった」と。
それから皇都に帰った皇帝は、以前の
レグナスなんてかわいいほどに。
その事態に奮起し、国民もろともティアが謀反を起こしたのだ。
「そのはずが、国民を苦しめてどうするのですか!」
「……私は飽きてしまったのだよ」
すると、皇帝は遠い目で答える。
「この国、ひいてはこの世界に」
「どういう、意味ですか……?」
「古来の邪霊。彼と対話を繰り広げる内に、人間なんぞちっぽけなものだと思える」
現実に空虚さを感じている様に。
「だからこそ、今の状況を作り出したのだ」
「まさか、最初からこの戦いをするためだけに……?」
「その通り。この戦いだけは私の心を躍らせる」
「……っ!」
そして、ほんの少しの興味を求めて、謀反を起こさせた。
あえてティアの理想に反することで。
「まだお遊戯気分なんですね、皇帝」
「そうかもしれぬな」
「それで皆の想いを踏みにじるのは、許せない!」
こうして、皇帝とアルの戦いが始まった。
戦いは
行われるのは、精霊使役者同士のぶつかり合い。
それも、四大精霊と、古来の邪霊だ。
まさに神話の戦いが繰り広げられていた。
「大口の割にその程度か、小僧!」
「うぐっ!」
しかし終盤まで、押すのは常に皇帝。
それほどに古代の邪霊の力は偉大だった。
それでも、アルは諦めない。
「僕はこの国を守りたいんだ!」
「……ッ!」
強い想いと共に、アルが徐々に盛り返す。
だが、トリックはアルだけではなかった。
「アル様!」
「アル!」
「騎士くん!」
ティア陣営を始め、多くの者たちがアルを呼ぶ。
「「「アル様ーーーー!!」」」
スラム街の者も、裏社会の者も。
レグナスとの決戦では、アルを知らなかった者も。
全国民がアルを応援した。
すると、アルはもちろん、精霊たちの力が強まったのだ。
四大精霊もそれを実感する。
『そうだったね』
『ええ、長らく忘れていたわ』
『元より、人々の信仰は──』
『我ら精霊に力をもたらす』
信仰が強いほど、精霊は力を増す。
長年人との関わりを絶っていたために忘れていた原理を、ここにきて感じる。
今思えば、レグナスの邪霊でもこの効力が発揮されていたのだろう。
人々も四大精霊も、考えを改めた。
“人と精霊は共存するべき”だと。
そして、そのきっかけを作ったのが──アルだ。
「終わりです、皇帝陛下」
「……っ!」
「僕たちは人と精霊で立派な国を作る」
最後はアルが押し勝った。
「二度と邪霊が生まれないように!」
人と精霊が共振した、その最後の必殺技を以て。
「【
「ぐわああああああああああああっ!」
古代の邪霊もろとも、皇帝が消滅。
その時を以て、ティア陣営の勝利となった。
────
『最終決戦を以て、アル様はこう呼ばれます──英雄騎士と』
その記述が、現在の『皇国再興記』の最終ページである。
★
「そろそろでしょうか」
皇国再興記を閉じ、ティアが外を眺める。
席を立ち、着用するのは豪華すぎない
これはティアが、皇位継承権第九位の頃から着ているもの。
「アル様が戻られるのは」
そこから降りて来るのは──アルだ。
「ただいま帰りました」
「ふふっ、まさに英雄の
「いやいや、そんなことは!」
アルは、日々国中を回っている。
皇帝が起こした不始末を片付けるため。
ティアの支持をより強固にするため。
「僕が行っても、仕方ない場所はまだまだありますから」
中でも、力を入れているのは貧困な街。
彼らが何に困り、何をしてほしいか、積極的に伺っているようだ。
これもティアの理想のためである。
「ですが、やはりアル様が行かれる場所は活気にあふれると聞きますよ」
「ははっ、それだと嬉しいよ」
「……アル様」
「ん?」
そうして、久しぶりに帰ったアルに、ティアは口にした。
「最近……いえ、あの日から思わなかった日はありません」
「?」
「アル様に会えて良かったと」
「ティ、ティア……!」
珍しく、顔を赤らめながら。
「ですから……」
「う、うん」
「これからも一生一緒にいてくれますか!」
「……!」
ティアの精一杯の言葉だ。
対して、アルも答える。
「はい、もちろん!」
「……っ!」
「ずっと
「……はい?」
だが、ティアの思った回答ではなかったらしい。
「そ、そっちですか……」
「え、近衛騎士の話では!?」
「それはそうですけど……そうじゃないっていうか……」
「え、ええ?」
すると、隠れていた者たちが出てくる。
「それはないぞ、アル」
「エ、エイルさん!?」
「さすがにひどいなあ、騎士くん」
「ヴィンゼルも!?」
「はあ、見損なったよ」
「シャロルまで!」
他の三人は分かっているのだろう。
ティアが“想いを伝えた”ことを。
それでも、ティアはふふっと笑った。
「まあ、アル様らしいと言えばらしいですが」
「は、はあ……」
「では、これからもよろしくお願いします」
「はい! それはもちろん!」
ティアとアル。
そして仲間達。
彼らが作る未来は、これからも皇国再興記に残されていくだろう。
それはそれは明るい未来が──。
完
───────────────────────
ご愛読ありがとうございました。
これにて、本作は完結となります。
最後までお読みくださった方、本当にありがとうございました!
良ければ、最後に本作を★の数でご評価下さい!
これ以降、更新予定はありませんが、作者の作品は他にもたくさんあります。
気に入ってもらえましたら、ぜひ『作者フォロー』をして、他の作品も読んで下さると嬉しいです!
現在開催中の『カクヨムコン10』にも、下記↓の作品で参加しております。
毎日更新中ですので、良ければ応援お願いします!
『聖騎士学園の転生半魔神~本編開始前に死ぬ最強キャラに転生したから、全力で生き延びていずれ闇墜ちする推しヒロインを幸せにしてみせる~』
https://kakuyomu.jp/works/16818093088429607126
それでは、ありがとうございました!
【完結】山奥で育った転生野性児、都で英雄になる~転生してから15年、今さら暮らしていた場所が難易度SSSランクの超危険地帯だと知りました~ むらくも航 @gekiotiwking
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます