第20話 皇位継承権“第一位”

 「【創世精霊光ジェネシス・ノヴァ】」


 アルが最後の魔法を発動させる。


 四大精霊の力を結集させて。

 自らの寿命をも変換させて。

 全ては、邪霊がアステリアを消し去る魔法に対抗するために。


 四色の神秘的な光は、巨大な光の柱となって上空に昇る。


「うおおおおおおお!」

「はあああああああ!」


 アルの神々しい光の魔法と、邪霊の禍々まがまがしい炎の魔法。

 精霊の神と神による巨大な魔法が、皇都の上空でぶつかる。

 神話にすら思えるほどの現象だ。


 あまりに規模の大きい現象は、アステリアの各地から観測できる。


「皇都で一体何が起きてるんだ!?」

「やべえぞ逃げろ!」

「あれが落ちたらひとたまりもねえ!」


「「「きゃああああああっ!!」」」


 巨大な魔法に、人々は皇都から散るように逃げる。

 だが、ティアを熱狂的に支持する者には予想がつく。


「まさか、アル様なのか!?」

「戦っていらっしゃるのだ!」

「アステリアをお守りになるために!」

 

 そうして、応援する者の声は合致していく。


「「「がんばれ、アル様ーーー!!」」」


 声は届かずとも、その気持ちは届くだろう。

 ──しかし、当のアルは苦戦していた。


「ぐうああっ……!」

『『『『アル……!』』』』


 苦しげな声を上げるアルに、四大精霊は呼びかける。


『アル、これ以上は!』

『引き返せないわよ!』


 四体はアルと同期している。

 アルの体の状態は自然と伝わってくるのだ。

 その結果、寿命を縮めているのを感じていた。


おとこだがまじで死ぬぜ』

『どうなってのも知らんぞい』


 アルが魔法から逃げれば、おそらく生き延びられる。

 それも加味して、四大精霊は声をかけているのだ。

 だが、アルは決して引かない。


「ここには、みんながいるんだ……」


 前世から、あまり人と関わることはなかった。

 だから最初は、軽い気持ちで都に付いて来た。

 けど、ここで過ごした期間はアルを変えたのだ。


「僕はみんなを守りたい……!」

『『『『……!』』』』


 短い期間だが、守りたいと思える人ができた。

 守りたい人が守りたいと思うアステリアを、アルは放っておけない。

 だからこそ、四体にも声をかける。


「絶対に手は抜かないで!」

『『『『う、うん!』』』』


 ならば、心苦しいが四体も全力を与え続ける。

 しかし、肝心の魔法は若干押されてきていた。


「フハハハハハハハ!」


 邪霊は、乗っ取ったレグナスの命など関係ない。

 全ての寿命を魔法に変換する勢いだ。

 その無敵ぶりには、さすがにアルの魔法の威力も劣っていた。


「ぐううううっ……!」

『『『『……っ』』』』


 邪霊の魔法がアステリアに近づいてくる。

 ここまでか、と四体も顔を見合わせた。

 無理やりにでもアルを連れて行くつもりだ。


 そうして、四大精霊が力を弱めようとした時──


「騎士くん!」

「……!」

 

 東側から声が聞こえてくる。

 イースト街から駆けつけたヴィンゼルだ。

 また、北側からも。


「アル!」

「アル殿!」

「みんな……!」


 シャロルと、エイルだ。

 それに準じて、ヴィンゼル部隊、皇都騎士団など、続々と集まってくる。

 彼らが来たのは、各地が勝利を収めた証拠だ。


 そうして、彼は一斉に声を上げた。


「「「がんばれーーー!!」」」

「……ッ!!」


 温かい声援だ。

 彼らは逃げ出すことなく、アルに託したのだ。

 必ず勝ってくれるはずだと。


 そして、ずっと見守っていたティアは両手を合わせている。


「ア、アル様……」


 正直に言えば、ティアはポジティブな気持ちだけではない。

 今この瞬間も、アルが苦しんでいるからだ。


 もういい。

 もうやめて。

 自然とそんな言葉が浮かんでしまう。


「……っ」


 でも、アルはそんな言葉を望んでいない。

 ずっと隣にいたティアは分かっている。

 だからこそ、あえて言葉にした。


「勝って……」


 アルを今一番元気づけられる言葉を。


「勝って! アル・・ーーー!」

「……!」


 その声は、アルに強くひびく。


「もちろん」


 途端に、アルの力がふくれ上がった。


「うおおおおおおおおおおおお!」

「な、なんだと……!?」


 敗北寸前だったアルが、息を吹き返したのだ。

 四大精霊も、思いがけないアルのパワーを感じる。


((((だから人間は面白い……!))))


 どこからか大いなる力が湧いたのだ。

 これならばと、アルを信頼して再び全力を注ぐ。

 その力は、邪霊の魔法を圧倒する。


「いっけえええええええええええ!」


 そして、邪霊もろとも遥か上空へ魔法を押し出す。


「ぐわああああああっ!」


 【創世精霊光ジェネシス・ノヴァ】に触れた瞬間、邪霊は消滅しかける。

 だが、走馬灯のように時が流れる中、最後にふと感じた。


(これが手を取り合った人の力か)


 ちらりと見るのは、次代を託した四大精霊。


四大精霊お前たちは良い主を見つけたようだな。)


 そして、ふっと浄化したように最後は笑った。


(少しうらやましく思えるな)


「──完敗だ」





<アル視点>


 後日、皇都の中心。


「本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます」


 だんじょうにて、ティアが演説を行っている。

 内容は、皇位継承権を巡る戦いについて。


「先日の騒動については、ご存知の方も多いでしょう」


 先の全面対決は、ティア陣営の完全勝利で幕を閉じた。


 レグナスは、三つの街で同時多発的に奇襲をしかけた。

 でも、それらはティア陣営が全て鎮圧。

 レグナス本人は、僕の最後の魔法で消滅した。


 これら一連の流れは、騒動後すぐに報じられている。

 被害地区の復興、レグナス勢力の後処理も、ティアが行っている状態だ。

 

 そして、それらを受けて、ティアは再度ここで宣言する。


「わたしは皇帝になります」

「「「……ッ!!」」」


 レグナスが死んだことで、皇位継承権を持つ者はティア一人。

 晴れて、皇位継承権“第一位”となったんだ。


 すると、周囲からは歓声・・が上がった。


「「「うおおおおおおお!」」」

「……っ!」


 前の宣言では、偽りの拍手のみだった。

 それが今では、貴族たち自らが声を上げるほどに。


 もちろん冷ややかな視線はまだある。

 だけど、風向きは確実に変わっていた。

 これも全て、ティアが努力してきた成果だろう。


 でも、ティアはそう思っていないらしい。


「それでは、先の戦いにおける“英雄”にご登壇いただきます」


 ティアがちらりとこちらに目を向ける。

 僕は招かれるまま、檀上に上がった。


「我が近衛このえ騎士──アルです」

「「「うわああああああああっ!」」」

「……っ!」


 僕が登壇すると、歓声は一段と大きくなる。

 報じられた内容には、僕はこう位置づけられていた。

 ──“都の英雄”と。


 すると、隣で微笑むティアがそっと声をかけてくる。


「この光景も、アル様が国を守って下さったからこそあるのです」

「……そっか」


 ティアが向けた手を追うように、僕は全体を見渡す。

 今日は貴族だけではなく、多くの人々が訪れている。

 そんなみんなが、声を高々に上げている。


 ──“ありがとう”と。


「……っ」


 前世では、こう言われたことはなかった。

 ましてや、こんな大勢の人に感謝されることなんて。

 無我夢中にやったことだけど、今なら胸を張って言える。 


「みんなを、アステリアを守れて良かった」

「はい!」


 僕の言葉に、ティアはとびきりの笑顔を見せる。


 思えば、この時からだったかもしれない。

 僕たち二人が“お似合い”だと言われ始めたのは──。





<三人称視点>


 一方その頃、とある場所にて。


「皇位継承戦はティアが勝利したか」


 部屋に響いたのは、低く太い声。

 一人の大男によるつぶやきだ。


「では我自らが、最後の試練を与えるとしよう」


 大男の胸には、王冠のバッジがついていた。

 それは──アステリア皇国“現皇帝”の印である。


「のう? 邪霊よ」

『ああ、そうだな』


 皇帝は不敵に笑った──。

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