仮面の夫婦
櫻井彰斗(菱沼あゆ・あゆみん)
お見合いしてみました
見合い写真はプリクラ並みに詐欺だと言うからな。
などと考えながら、みのりは見合いに行くためにひとりバスに乗っていた。
待ち合わせているのはザッハトルテと紅茶の美味しい喫茶店だ。
写真に写っていた男性は、こんな顔、本当にその辺にあるのかというくらい
すらりと手脚の長い、美しい容姿をしていた。
敢えてケチをつけるのなら、表情が仏頂面にも程があるというところくらいか。
……ものすごく見合いをしたくなさそうに見えるんだが、とその写真を見た瞬間、思ったものだ。
だが、だからこそ、まあ、見合いに行ってみてもいいかと思ったのもある。
こちらもそんなに、さあ、ガンガン見合いして、結婚しましょうという感じでもないからだ。
昔からうちに遊びに来ている幼なじみの面々や、高校大学の友人が次々結婚しはじめたので、親が焦り出して、急に見合いの話を持ってきただけだからだ。
まあ、見合いと言っても、誰が立ち会うわけでもなく、ちょっとしたご紹介程度のもののようなのだが。
「見合い写真なんて撮ってないよ」
とみのりが言うと、
「いや、スナップ写真の方が自然でいいからそれでいいって言われたから」
と言いながら、母は、
それはちょっとっ、というくらい、ぼんやり顔の写真を先方に渡そうと茶封筒に詰めはじめたので、慌てて止めたのだが。
「いやいや、あんまりいい写真を渡しといて。
実物見て、なにこれとかなったら余計印象悪いじゃない」
と母は言う。
いやいやいや。
我が娘を、なにこれとなること前提っておかしくないですかね……。
そんなこと思いながら、バスを降り、てくてく歩いて、みのりは待ち合わせしている喫茶店の前まで来た。
結構広いそのガラス張りの店にその人はいた。
目立つのですぐに気づいたのだ。
彼は長い脚を組み、優雅に本など読んでいる。
これから見合いをするというドキドキ感など何処にもないように見えた。
しかも、細面の写真で見た以上のイケメンだ。
うーむ。
こいつは断られるな、と思いながら、みのりは、こちらに気づいた彼、に向かい、小さくぴょぴょこと手を振ってみた。
だが、すぐに、
……いきなり手を振るとか
で、三ヶ月後。
みのりは信太郎と結婚していた。
偽装結婚だ。
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