4-1 会合

季節は過ぎ、本格的な冬に近づいている。

この期間までにいくつかの仕事をこなし、会合に備えてきた。


そして12月3日当日。


遠坂組の門の前に降りる......フードを深くかぶり、日が当たらないように下を向く。


「誰だ」「敵か?」


門番をしていた男たちが銃をこちらに向ける。


「遠坂組長と会合の約束を」

「あ?聞いてねぇぞ」

「それにお前らヤクザじゃねぇだろ」


「......」

『やめておけ』

「かしこまりました」


見えないように出していたナイフをしまうように言う。


同時に周りで張っていた昴、エルザ、コウ、マリアの気配も遠ざかる。


『悪いが、テツを呼んでくれるか』

「テツさんを何で知ってr「おい!おめぇらやめろ!!」


門の中から太い声が聞こえる。


「「テツさん!」」

「ずいぶん早いお着きで」


テツが私に両足を開き、ひざに手を置いてお辞儀する。


「テツさん、こいつら一体...」

「おめぇら今朝人が来るって行っただろ~が!」


ボゴンッ


下っ端を殴るすさまじい音が聞こえる。


「申し訳ありません」

『...相変わらずだな』

「へいっ。貴女も」


ニカッと笑う笑顔がまぶしい。

強面でスキンヘッド、頭から目を通って頬にかけてある傷は四年前の勲章とでも言っておこうか。


「どうぞこちらへ」

案内された先には大広間があった。


「組長を呼びますのでお待ちくだせい」

「ありがとうございます」

『......』


庭先に繋がる襖は全て解放されていて風通しが良い。ふと、庭の右の方に目をやると小さい温室のようなところに、秋の花が咲いていた。


まだあったのか...


庭先を見ていると、


「誰だ」


遠坂桃李、そして藍澤夏稀がこちらに向かってくる。


日が差し込み私の顔がはっきり見える。


「.........お前、、、、」

「ッ!!?!」


私の顔を見るな否や、二人とも驚いた顔をする。


四年前の抗争で命を救ったことをはっきり覚えているのか、それともずっと探し続けていた相手とこんなにも簡単に会えると思わなかったのか。


藍澤も私の赤い眼から以前会ったことのある記憶を呼び起こしたのか、驚いて声が出ていない。


「お前...」

『久しぶりだな』

「......ずっと探していた」

『知ってるよ』

「殺し屋だったのか」

『...私が怖いか?』

「いや。むしろ安心した」

『そうか』


何を安心したのか柔らかい笑みをこちらに向ける。笑った顔はどちらかと言えば父親にそっくりだな。


『大きくなったな』

「お前も17だろ』

『なぜそう思う?』

「......お前、白鳥だろ?」

「えっ?」

「雪、気付いてなかったのか」

『......』

「白鳥、さん?」

『あぁ。藍澤雪』

「ッ......」


少し口角を開け雪を見たことで、桃李が何かを感じ取ったのか不審な顔をする。


「...なんで学校に来ない」

『今は必要ない』

「そうか...」

「桃李、どうして白鳥さんだと?」

「勘だ」

「......」

「マリアとコウも殺し屋なのか」

『なぜだ』

「お前のことを敬ってる」

『さぁな』


話していると遠坂組組長の正蔵、組長補佐のテツが大広間に入って来た。


「元気だったか」

『数年で変わらないだろ』

「ははっ!そうだな。おい桃李、挨拶しろ」

「おやじ、どうしt「挨拶しろ」

「.........遠坂組若頭、遠坂桃李」

「若頭補佐、藍澤夏稀です...」

「愛想なくて悪いな」

『良い』

「お前らもういいぞ」


桃李と藍澤はしばらくこちらを見るが、組長の手前口を開かずに部屋を出る。

そのあと、周りを見回っていた昴が庭から入ってきた。


「ライ様、組長」

「昴か。元気だったか」

「はい、組長も変わらずで」

「いい加減十全に顔だけでも見せてやれ」

「分かってます。時がくればちゃんと見せますよ」

「そうか」

「ほんなら、僕はこれで」

『昴、コウとマリアに足を広げるよう伝えろ』

「かしこまりました」


会合が始まり、最近の組や殺し屋の動向、日本だけでなく海外情勢の話をする。海外の殺し屋組織も日に日に拡大し、各国の裏社会で戦争が起きようとしている動きが見られている。


激化すれば世界を大きく揺るがす戦争にもなりかねない。


日本の裏社会のトップはこの遠坂組。

そして、世界的にトップクラスの殺し屋組織は【X】を含めて3つ。


ヤクザと違い殺し屋同士が手を組みことはまずない。


だが...規模が大きい組織にはおそらくあいつが絡んでいる。日本にも表で開催されるパーティーから、裏の競売へと勧誘し、黒く浸食してきているはずだ。


日本では薔薇の一族が勢力を上げているが、それにもあいつが関わっているとしたら、日本も安全ではない。


あいつは私をおもちゃにしている。

そのために私の仲間や親しいやつを殺すことに何の躊躇もない。


「薔薇の一族の情報を手に入れてるか」

『あぁ。お前、裏切られてるぞ』


正蔵とテツが驚き目を見開く。

四年前の抗争以降、正蔵も組を固くしてきた。それゆえに裏切り者がいるのは信じがたいのだろう。


『私が追ってるあいつも噛んでる』

「まさか」

『全て繋がってるはずだ』

「「......」」


四年前の抗争が、もう一度起きる。

それは大きな業火となり、舞い戻ってくるはずだ。


そして...そのときまた誰かが...。






「裏切ってるやつは絞れてるのか」

『篝るい』

「.........そうか」

「驚かないんですね」

「あいつの親父が腐ってるからな。桃李がここに連れてきて住ませてるが、逃げられなかったか」

『組員とはいえ、生半可なやり方は通用しない』


その言葉に正蔵は少し考える。


「ライ、手を下すのがお前でないとダメな理由はよく分かる。だが、俺の組のやつが裏切り者で、それを俺たちで落とし前つけねぇのはヤクザとして情けねぇ。俺はこの組に誇りをもってる、お前も良く知ってるだろう」


正蔵の言ってることはよくわかる。日本のヤクザは落とし前をつけたがるからな。


『篝るいは裏に深く関わり過ぎた。あいつと会ってるはずだ』

「叔父か」

『...あいつの居場所を突き止めるために泳がせておく』

「分かった。だが、組にはもうおけない、脅威になる」

『あぁ。こちらで対処する』

「助かる」

『薔薇の一族の勢力は何人かの幹部で分かれてるはずだ』

「全員が一気に来ることはまずないでしょうね」

「どう来るかは分からねぇが、負けることはない」


そのあとも薔薇の一族についての対応を話し合い、日が落ちる前に会合を終える。


『少し、衰えたんじゃないか』

「四年も経てばな、俺ももう六十になる。そろそろあいつに組を譲るときだろ」

『隠居生活に良い場所を知ってる』

「ほぉ、それは行ってみたいもんだ」

『一度行ったことがあるだろう』

「......お前と初めて会った場所か」

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闇色の軌跡 Ⅰ さらみ @nyan_hamu7006

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