第四十二話 帰って来たわ!
「
月姫が光の球体に包まれて行ってしまってから、もう
――
まるで、身体を震わせるみたいに、金と銀の粒がふわりふわりと藍色の夜空に滲み出た。見ているうちに、そこから一筋の光が真っ直ぐに帝の方へと伸びてきた。
……まさか⁉
月から伸びる光の筋は先端に、光る球体を作っていた。光る球体は金色の中に白銀の粒が光り、金と銀の光の粒を辺りに美しく撒き散らしながら、ゆっくりと帝の前に降りて来た。
その光る球体は、人が入るくらいの大きなものだった。
帝は目を凝らしてその光る球体を見つめた。
……月姫……!
光る球体に、帝は一歩ずつゆっくりと近づいた。
そして目前に迫る光る球体に、そっと触れた。
すると、光る球体は辺り一面に、光の粒を、波のように同心円状に散りばめ、球体の形は徐々に崩れていった。
「
光る球体が光の粒子となって拡散してしまうと、そこには月姫がいた。
「
目の前で起こったことが
「……月姫! 本当に、あなたなんだね? 私の願望が見せた幻かと思ったよ。ああ、もっとよく顔を見せて欲しい」
帝は月姫の手を引っ張り、そして両手で月姫の頬を包むようにして、その黒曜石の瞳を覗き込んだ。
「帝、あたし……帝といっしょにいたくて、どうしても。――帝がいない世界では生きているような気持ちがしなくて、それでここに帰ってきたんです」
「月姫……! 私もだ。あなたがいない世界では生きているとは思えなかった」
「帝……」
「決して離さないと誓ったのに、光る球体に包まれてあなたは天に昇って行ってしまった……どんなに悔しく悲しかったか……!」
「でも、あたし、戻って来たわ!」
「もう、二度と手放しはすまい」
「はい! ずっとおそばにいます!」
月姫は、帝の胸に顔をうずめながら、ああ、本当に帰って来たんだ、と実感して涙をこぼした。
「……
そして、異能力[
月姫は心の中でそう付け加える。
月白には「記憶も異能力も、封印される」と告げられていた。
「帝……」
――そう言えば。
第一階層に戻るとき、
月姫は、顔を上げて
もしかして、帝は、もともとは第一階層の人間なのかしら? それもかなり高位の。……記憶をなくしている?
「月姫、愛しい人。あなただけだ」
「
答えながら月姫は、帝がもともと第一階層の人間だったとしても、そうでなかったとしても、関係ないわ、と思う。帝は帝だ。
あたしが愛した
それだけ。
「月姫、今度こそ、結婚しよう。――すぐに。……いいよね?」
「はい! ……
「もちろんだよ、月姫。三日目の夜、
「
「当然だ」
月姫は
だけど、あたしが一番会いたかったのは、
月姫は帝を抱き締める手に力を込めた
……ああ、やっと帰って来られた。
この腕の中に。
この、優しい自然と生きる世界に。
歌を。
歌をうたおう、歓びの歌を。
忘れてしまう前にもう一度だけ。
この世界が、どうか愛に満ちた幸福なものでありますように――
了
愛を知らないお姫さまが愛を知るまで~月光る姫の物語 西しまこ @nishi-shima
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