十二章 愛する気持ち
第四十一話 第一階層と評議会の思惑
「ねえ、
「何を言っておるのだ、
これから生まれる魂のために、歓びの歌をうたう。生命に祝福を、そして皆から愛されるように願いを。すばらしい人生になるよう〔
第一階層では若すぎるほど若かった
実際、よく成長したものだ、と月日は思う。
月白は
転生して第七階層に行ったため姿は若返っているが、精神的にはかなり大人になった。そのため、表情が全然違った。また、以前はまるで小さな子どものような振る舞いや言動が目立ったが、今は、そのような傍若無人ともいえる言動はなりをひそめている。憂いを帯びた瞳で、密かにため息をつくさまは恐ろしいほど美しかった。
よかった。これで、魂に愛を届けられる。
月白も評議会のメンバーもそう安堵していた。
しかし、
これには、月白も評議会のメンバーも困惑していた。その理由が理解出来なかったのだ。
「しかし、お前が第一階層に戻って来ると約束したから、裁きの疫病を止めたのだよ」
「……分かっているわ。でも、あたし、なんだか生きている感じがしないのよ」
「生きているよ。歌もよくなった、
「あたし、
「それは第七階層での名だろう?」
「……月姫なのよ……」
そこには、第七階層第八エリアが映し出されていた。
「
月姫はそう言うと、はらはらと涙をこぼした。
「
「帰りたいわ。――
「第七階層は未発達な階層だよ」
「それでも。あたしのいる場所はあそこだって気がするの。未発達だけど、自然と調和していて美しいし……大切な人たちと、それから愛する人がいるの。その人と離れていると、生きている気がしないの」
月姫は涙を流し続けた。
「愛する人を見つけたんだね」
「そうよ」
「離れていると、そんなにつらいのかい?」
「……生きているって思えない……
「――第七階層に下りたら、老いも病もあるしもちろん死も存在する」
「そんなこと、分かっているわ。それでもあたしは
「……もし、第七階層に下ろす場合は、第一階層での記憶も消さねばならないし、それに異能力も使えなくなるよ」
「それでもいい。……異能力は必要ないし」
〔
月白は、何か思案する表情で、月姫をじっと見つめた。
「――という状況で、現在月姫――
円卓を囲んだ評議会の会議の場で、月白はそう発言した。
月白の発言に、評議会のメンバーは意見を出し合う。
「少々不安定でも、前よりずっといいではないか。第七階層から戻って来て以来、歌は実によくなった。揉めごともなくなったし」
「魂に歓びの歌をうたう者は必要だ。
「魂が歓びに満ちた生に生まれ落ちるには、愛ある歓びの歌が必要だしな」
「……どうも我々にはその、『愛』の概念を形成しにくい」
「しかし、うたい手には必要な概念だ」
「だから第七階層に落としたではないか、凛月を。お陰でよい歌声となったぞ」
「〔
「さよう。……第七階層のことなど、すぐに忘れるであろう?」
その発言に、月白は「いや、すぐには忘れられないと思います」と反論した。
「なぜ?」
「
「……なるほどな。人間の一生くらい、待ってやってもよいかもしれぬ」
「それに、気になることもあります」
月白は眉をひそめた。
「それは、
「そうです、
「それはそうだろう。当たり前だ。彼はもとともと、この第一階層の管理者で――古参の評議会のメンバーだったのだ」
「ああ、あの方か!」
「そうだ、あの方だ。――なぜか第一階層に転生することを拒否されてな、第七階層に生まれたのだよ」
「さようでございます。……
「……あれには驚いたな」
「ええ、驚きましたとも。――本来第七階層の者にはない力ですから」
「……なぜ、発動した?」
「分かりません。ですから、彼の監視のためにも、
「……そうだな。
「それに、どうやら第七階層第八エリアには、もともとそこにはない異能力の欠片のようなものが認められました。呪詛する力として、ですが。……まあ、さして強くはないのですけれど」
「……第七階層に行った第一階層の者の、子孫か?」
「恐らく。この件につきましても、
「そうだな。そうしよう」
「では、
月白はそう締めくくり、評議会のメンバーの顔を見渡した。
*
「月姫さま、赤子が生まれましたよ」
――そのときだった。
月は、少し揺れて金と銀の粒をこぼした。
あれ? と
月が――月から光が落ちてくる……!
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