第四十話 残された人々のかなしみ
十五夜の月は美しく輝いていたが、それは昼間のような明るさではなく、夜の月のきらめきであり、藍色の夜空に静かに白銀の光を滲ませるにとどまっていた。
左大臣邸に集まった人々はようやく呪縛が解け、少しずつ動くことができるようになっていた。
「月姫……!」
一人、凍り付くことなく光る球体に向かっていた
呪縛から解かれた
しばらくするとすすり泣きが聞こえて来た。
すると、
「月姫……」
帝の呟く声が細く聞こえた。
冷たい月の白い光と、そこここに落ちている暗闇と、人々のすすり泣きが屋敷中で聞こえて、悲しみがまるで光の粒のように切なく満ち満ちているようだった。
すすり泣く声はいつ止むとも知れなかった。
月姫が光る球体に包まれて天に昇っていた、という噂は瞬く間に広がった。
やはり、神さまの使いだったのだ、と皆は噂し合い、いろいろな揉めごとが解決されたから帰っていったんだ、という話にも発展していた。
月姫と近くで接していた者たちは、物事がうまく手につかないこともあった。
ただ、そのような中でも時は過ぎ、
最初は月姫がいなくなった悲しみにくれていた
その様を見ていた
ただ一人、
政務は行う。
その際は、きちんと切り替えて悲しみの欠片も出さないで動く。
しかし、一人になると、どうしても月姫のことを考えないではいられなかった。
夜空の月を見るたびに、月姫のことを思った。
……どうしてもっと強い力が出なかったのだろう?
あの、不思議な風の力は、その後発動しなかった。あのときだけ、出来たことだった。
あのような力が出た、はっきりとした理由は分からなかった。しかし帝はこう解釈していた。月姫を守ろうとして奇跡的に出た力なのだと。……もっと強く願えばよかったのだ……。
――月姫が去って、
美しい、女の子だった。
「月姫さま、赤子が生まれましたよ」
月は、少し揺れて金と銀の粒をこぼしたように見えた。
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