第23話

 館の使用人らの間で、少々異例の経緯で勤めている子守について、どう接するべきかと戸惑いもあったようだ。

 新入りではあるが、主が直々に雇い入れ、子供達の側に常にあることを求められている者だ。

 下手に足を引っ張れば、再び子供達の面倒を見る仕事が増えかねず、扱き使うに使えず足踏みしている内に、そろそろ私の立ち位置も定着してきたようだった。


 単純なことで、なるべく関わらずにいることにしたのだ。

 時期が来れば去る者であるし、彼らの仕事を脅かすこともないのだから、わざわざ陥れるほどの旨味はない。


「さすがに下々の出だけあって、獣の扱いに長けている」


「無愛想で、子供達を荷物のように掴む姿は、牛馬のようね」


 だのといった使用人達の、ひん曲がった口と心根は相変わらずだが、悪意からではなく話の種として自然にのぼっていた。

 巷の評判通りに、保護官とは頭が固く面白みのない仕事人間だと揶揄もされるが、それは少なくとも、子供達に危害を加えたり屋敷内のものをくすねたりといった輩ではないらしいと信頼を得たということであった。


 ある意味、仕事仲間の一人として認められたということでもある。

 些か残念そうにではあったが、要は興味を失ったのだ。


 私が、どのように子供達と過ごしているかを、当然、彼らが目にすることは多いわけだが、邪魔立てされる心配は無くなったというわけだ。


 ならば、と。

 もう少しでも、奥様と子供達が過ごす時を取り持とうと、私は密かに機を待つ。




 子供達の相手をし、寝付く前には旦那様が、寝付いた後には奥様が現れる。


 そんな日々が、暫く続いた。

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孤独の距離、寂しさの檻 桐麻 @kirima

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