母の躾 ~女性を大事に~

崔 梨遙(再)

1話完結:2600字

 中学3年生の頃、休日、本を読んでいたら母に呼ばれた。母は何故か正座をしていた。そして、僕に言った。


「あんたも正座しなさい」


 なんだか真面目な話っぽいので、僕は素直に正座した。


「あんたも、もうすぐ高校生や。高校に入ったら、女性とお付き合いする可能性も高くなる。その前に、言っておきたいことがあるねん」


 “なんか、さ〇まさしの関〇宣言みたいやな”と思った。


「1番大切なことは1つ、女性に恥をかかさないこと!」


 “はあ? どういうこと?”


「例えば、好きな人や恋人がいない時に、誰か女性から“付き合ってください”って言われたらどうする?」

「好きでもない女性やろ? 断った方がええんとちゃうの?」

「なんで? 好きな人も恋人もいない時やで。その時は付き合いなさい」

「なんでやねん? 好きでも無い女性と付き合ったら、その女性に失礼やろ?」

「ふったら、その娘を傷つけるやんか、あんたにふられたということで恥をかくんやで。好きな女性も恋人もいなかったら、断る理由が無いやんか」

「わかったわ、もしも、そんな日が来たら、好きじゃなくても付き合うわ」

「そうそう、それから、デート代は男性が払うこと」

「それは、そのつもりやで(すみません、昭和の男なので汗)」

「女性をよく見ること」

「ジロジロ見てたら、嫌がられるやろ?」

「そういうことじゃないねん、ネックレスとか。イヤリングとか、指輪とか、服装とか、サッとチェックする観察力を身に付けろって言うてるねん」

「アクセサリー?」

「そのネックレスキレイやね、とか、今日のファッション、いいね、とか、女性が見て欲しいところはちゃんと見ないとアカンねん。ほんで、口に出して褒めるねん」

「“今日のネックレス、いいね”とか?」

「そうそう」

「気づけるかな? 今、女性をまともに見られへんくらい照れるのに」

「アカン、女性のことは見なさい。表情とか雰囲気も察知しなさい」

「表情? 雰囲気?」

「“今日は機嫌がいいね、何か良いことあった?”とか、“今日は元気無いね、どうしたの?”とか、いろいろあるやろ?」

「そんなの感じ取れるかなぁ」

「感じ取れるようにならんとアカンの。そのためには、女性の普通の状態を知っておくことが重要やで」

「普通の状態?」

「普通の状態を知っていれば、“機嫌の善し悪し”がわかるんや。普通よりも機嫌が良いか? 悪いか? 悩んでいるのか?」


 “そんなの童貞中学3年生には絶対に無理やろ!”


「わかった、わかった、もう話は終わりか?」

「まだや! あんたもいつか夜の営みをするやろ」

「したいなぁ」

「まだ早いわ!」

「ほんで、続きは?」

「女性から求められた時だけ、その想いに応えなさい」

「はあ?」

「女性が乗り気じゃ無いのに迫るとか、絶対にアカン」

「でも、恋人とか夫婦になったら、そういう時もあるんとちゃうの?」

「アカン、女性が求めたときに応えたらええねん。ただし、女性が求めてるかどうかを見極めることが出来ないとアカンで」

「はあ?」

「女性が“嫌”って言った時に、本当に嫌なのか? 本当はOKなのか? それを見極められるようにならないとアカンねん」


 “そんなの、童貞中学3年生に話しても、わかるわけ無いやんけ”


「逆に、女性から求められたら応えなアカンで」

「嫁とか彼女?」

「うん、勿論、浮気はアカン。嫁や恋人がいる時は、他の女性からの誘いは全て断りなさい。浮気は絶対にアカン。1番アカンことや。でも、嫁や付き合ってる女性が求めたら応えなアカン。たとえ、疲れていたとしても。そうやないと、女性に恥をかかせることになるから」

「嫁や恋人がおらん時は?」

「好きじゃない女性の場合? 応えなさい。でないと、恥をかかせてしまう」

「でも、そんなことしてて、急に好きな女性が出来たらどうすんの?」

「その時は、誠意を持って別れてもらいなさい。“他に好きな女性ができたから”と正直に言うしかない。ただし、別れ話でも女性を傷つけないように」


 “そんなん無理に決まってるやんけ、ふったら絶対に傷つくわ!”


「傷つけずに別れるなんて無理やろ?」

「最終手段はある」

「何?」

「嫌われなさい」

「え!」

「あんたが嫌われたら、女性の方から別れ話を始めるわ」

「なるほど、相手から別れ話をさせるのか」

「そして、たとえあんたがふったとしても、周囲には“ふられた”と言いなさい」

「なるほど」

「あんたが悪く言われてもええねん、男やから。でも、女性のプライドは守らなアカンねん。女性は傷つけたらアカンよ」

「でも、相手が迷ってたら? 例えば、僕を選ぶか他の誰かを選ぶか? とかで迷ってたらどうするの?」

「少しだけ背中を押してあげなさい。強引なことはしたらアカンで」

「ふーん、背中を押すって?」

「自信や! 自分に自信があれば相手に伝わる!」

「自分という人間に対する自信?」

「それが1番! “自分が好きな女性を幸せにするんだ! 自分なら彼女を幸せにできる!”っていう自信。でも、社会人になったら収入とかも判断材料になるから、給料のいい会社に就職しといた方がええで」

「急に現実的な話になってきたなぁ」

「とにかく、男が自信を持っていないと女性は不安になるってことや。“この人についていって大丈夫かな?”って心配になってしまうやろ?」

「まあ、言ってることはわかるんやけど」

「とにかく、常に“どうすれば女性に恥をかかせないか?”とか“どうすれば女性を傷つけないか?”ということを考えて、行動しなさい。それから、避妊はしなさい。子供が出来て中絶することになったら、それこそ女性が傷つくんやから。Hする時は、自分が気持ち良くなることよりも、相手の女性を喜ばせることを優先しなさい。まだ話したりないけど、続きはまた今度にするわ」



 母の指導はそれで終わった。足が痺れた。“そんなことを、バレンタインでチョコの1個ももらえない中学3年生の童貞少年に言っても仕方ないやろ?”と思った。実際、僕が女性と深い関係になるのは、その4年後からだった。随分と早い教育だったと思う。だが、僕は母の言葉を何故か忘れていない。結果、いろいろな女性と結ばれることになった。恋人や好きな人がいる時以外は、断らなかったからだ。女性に恥をかかせないために。それはそれで、苦労が多かったけれど。でも、もしかしたら、続編があるかもしれない。その時は、よろしくお願いします。







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母の躾 ~女性を大事に~ 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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