大阪の下町にある『なにわの豆腐屋一番星』は、レトロな風情と損得抜きの商売で住民から親しまれる名店だ。しかし今、店主の老いを理由に惜しまれつつも70余年の歴史に幕を下ろそうとしていて……店主の孫である由香は決意したのだ。祖母と住民たちが作り上げてきたこのあたたかな場を守るため、豆腐作りを習い、自分がこの店を継ぐ!
本作の肝は「継承」です。主人公の由香さんは、お金だけでは計れない情というものをやりとりする祖母や住人の姿を見てきました。だから彼女はアイドルやスポーツ選手ではなく、祖母へ憧れを抱いたのですよね。
ここがただ売り買いするだけの場ではないからこそ守りたい、人として受け継ぎたい、自分もまた情を育みたい。その思いが由香さんのセリフに熱を点し、読者の胸を打つと同時に示すのです。どんな物語にも終わりの先があって、それを引き継ぐ主人公がいるんだって。
情で繋がれる物語、その終わりの先に思いを馳せていただきたく。
(「なにはなくとも世は情け!」4選/文=高橋剛)