終わりを嘆くのではなく完走を「ササ持ってこい」と祝おう

「ちゃうのやで。今日は、主人と豆腐屋を始めた記念すべき日。初めが良かったら終わりも良し、言うやろう。これで、彼もまた喜んでくれるわ」

 豆腐屋の老女将の百合子は冒頭で、こんなことを、孫娘の由香に語る。
 本作には哀愁が詰まってはいるが、涙で締めくくるべき物語ではなく、拍手――それこそ「商売繁盛、ササ持ってこい」と喝采を送るべき物語なのだ。



 本作は老舗の豆腐屋の閉店を巡る、『なにわの商人』を巡る人情譚だ。
 主人公の由香は高校三年生となり、進路に悩むころ。
 夫が亡き後も豆腐づくりに人生をかけてきた祖母の百合子を間近で見てきたことで、由香は豆腐づくりに憧憬を寄せる。

 ――いや、豆腐づくりそのものではなく、由香のしらぬ、古い世代の想いや物語に思いを馳せ、ひとつの『想いと継承の証し』として、豆腐づくりを大切に思うのかもしれない。

 物語は賑やかに、そして厳かに閉店日を迎える。
 その日にもたらされる、思いがけぬささやかな『奇跡』に、由香は精神的な『継承』をはたしたといえよう。


 移り変わる時代の中で、変わらぬものはない。それは百合子が冒頭で語る、

「物事には始まりと終わりがあんねん。生あるものは必ず死に、栄えるものはいつか滅びんねん」

 まさにこの言葉のとおりである。


 同時に人の心というものは残り続け、苦難とささやかな喜びに紡がれた日々の中で連綿と受け継がれてゆく。

 本作は静かに問う。由香は豆腐づくりを継ぐのか。それは時代に逆行する困難の道なのか。

 ――けれど僕はそれに答えを出すための物語ではないと考えた。

 『時代の移り変わり』を苦くも受け入れ、新しい未来を祝い、『十日えびすの長い競争』のごとき人生走り抜けた百合子に、「ササ持ってこい」と心の中で喝采を送る。
 ――こんな気分で、本作を語りたい気持ちになったのだ。

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