私の偽りの恋人になってよ!

「ねえ、私と付き合ってほしいんだけど」


 ある日の放課後。

 教室には、奏弥そうや涼花すずかしかいなかった。


「お、俺と? え……で、でも」

「でも勘違いしないでよね。好きだから付き合うわけじゃないんだからね!」


 涼花から厳しめの口調で言われる。

 彼女は美少女然としており、可愛らしい外見をしているが、しっかりとした性格をしているのだ。


「へ? ど、どういうこと?」

「私の偽りの彼氏になってほしいの。ただ、それだけ」


 ようやく念願の恋人だと思って期待を膨らましていたが、一瞬で裏切られ、奏弥はきょとんとした顔を浮かべていた。


「私、今日までに誰かを彼氏にしないといけないの」

「なぜ?」

「私の両親がどうしてもお見合いをさせたがってるの。高校を卒業したら結婚させるつもりで」


 涼花は早口で事の経緯を話していた。


「そ、そういう事か。でも、家庭の事情なら、その方がいいんじゃないかな?」

「それが嫌なの。ずっと家庭の言いなりになって生きるのが。だからね、ここで自分の人生を変えたいの」

「でも、そんなに頑張って変えたいって。何か目標でもあるの?」

「私、歌手になりたいの」

「家族は? それについては?」

「それは反対してるわ。将来の職業としては不安定だから」

「それはそうだよね」


 自分の子供が不安定な仕事をしていたら、なおさら心配にもなる。

 まだ親の立場になった事のない奏弥でも、何となく彼女の家族の気持ちを察する事が出来ていた。


「そういう事だから、お願い。偽りの彼氏になって。後でお礼はするわ」

「お礼というのは、どんな内容?」

「それは後で決めるわ。早く来て!」

「え、あ、ああ⁉」


 奏弥は転びそうになるも、涼花に右腕を引っ張られながらも学校を後にするのだった。

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