幼馴染が正式に恋人になった日

「ねえ、今日って暇?」

「暇だけど」


 休日の夕暮れ時、隣の家に住んでいる、黒髪セミロングな幼馴染の石原美歩いしはら/みほが、進一の自宅玄関までやって来ていた。


「これ余分に作ったんだけど。一緒に食べない?」

「何を作ったの?」

「クッキーなんだけど」


 幼馴染は箱の蓋を開け、中身を見せてくれる。

 クッキーが綺麗に引き詰められてあったのだ。


「いいよ、入って」


 宮田進一みやた/しんいちは、自宅リビングまで幼馴染を入れてあげる。

 今日は両親もおらず、幼馴染と二人きりの状況。

 二人はリビングのソファに隣同士で座る。

 美歩はクッキーをソファ前のテーブルで広げていたのだ。


「私が食べさせてあげよっか」


 美歩は意味深な表情で進一の事を見つめてくる。


「いいよ、一人で食べるから」


 進一は断る。

 けれども、幼馴染は強引にもクッキーを手に、進一の口元まで近づいてきたのだ。


 このシチュエーション、何か恥ずかしいんだけど……。


「普通に食べさせるのもアレだし、口移しにするね」


 美歩は緊張した顔つきをしている。口元にはクッキーを挟み、頬を真っ赤にしたまま、進一の顔へと距離を縮めてくるのだ。


 幼馴染は無言で睨んできた。

 今の美歩は本気な目をしている。

 ここで断るのも空気が悪くなりそうで、進一はそのまま受け入れる事にしたのだ。


 二人の唇は一瞬だけ重なる。


「ねえ、どうだった?」


 幼馴染は進一から少し距離を取り、まじまじと食べているところを見ていた。


「私だって頑張ったんだから、進一も自分の口で言ってよ」


 美歩は恥じらいを持ち、目線を逸らしたままで言う。

 進一はそんな彼女の姿を見て、美味しかったと告げるのだった。


「ありがと♡」


 彼女から不意を突かれ、頬にキスをされたのであった。

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