社畜侍、ダンジョン配信者のヤンデレJKとブラック職場を滅ばす〜おっさんが昔助けた女の子は日本トップレベルの探索者になってたけど、法律という概念を無視する〜

芽春

第1話 最悪の職場

 今から二十数年前、世界各地にダンジョンが現れ世界は一変した。

 ダンジョン発生に伴う地殻変動。ダンジョン内からはい出てくる魔物達。


 そんな混乱を鎮める為に生まれた職業こそが、探索者だ。

 ダンジョンと同時に、不思議と人類に発現した「職業」と「スキル」の力。


 それらの力を振るってダンジョンを探索し、魔物を狩り、物資を得る。

 今や人気の職業の一つだ。


 だが、そういう人気の裏には当然影が有る。

 俺……千擁四郎せんだ しろうの職場はそんな影の深い所、地獄そのものだ。


 *


「千擁主任……!」

「……下がっていろ。後は俺がやる」


 足をやられて動けない部下を背にして、俺は前に進んだ。

 そして、大剣を構える豚鼻緑肌の武人、オークジェネラルに向き合う。


「無茶っすよ! 自分を庇って、今の貴方は利き腕が無いのに!」


 確かに、部下の言う通りだ。

 さっき俺は過労で鈍った身体を無理矢理動かしてコイツを庇った。

 その時、オークジェネラルの大剣は俺の右腕を捉えて切断し、今も右肩の断面からボタボタと血が滴っている。


 だがしかし、任務はオークジェネラルのちょうど背後に有る大扉、その向こうで篭城している探索者達の救出だ。

 ……無茶だろうがなんだうがコイツを倒さなければ仕事は終わらない。


「田中、佐藤。まずは俺が引き付けるから、それぞれ右足と左足を。難しそうなら何処かに傷をつけるだけでいい」


「「……はっ」」


 まだ身体を動かせる部下に命令し、それから俺は足を前に出す。

 幸いにも、右腕をもがれた痛みで、意識がハッキリしていた。

 先程までのような無様は晒さない。


「ブルルゥ!」


 オークジェネラルがいななき、大剣が上から振り下ろされた。


「『刃返し』」


 俺は「刃返し」いわゆるパリィ系のスキルを

 絶妙なタイミングで発動させる。

 俺が放った刃はオークジェネラルの振り下ろしを弾き返し、生まれた隙を田中佐藤の二人が突く。


「ブッ!」


 田中と佐藤は走りがけに刀を振り、オークジェネラルの足に刃を差し込む。

 浅い傷だが、充分だ。

 オークジェネラルの意識が一瞬だけ傷に向いたその刹那、俺は刀を腰に当て、居合の型に構え直す。


「『死の抱擁』ッ!」


 ――ザザンッ!


 横なぎの居合切りと返し切りによる、二連斬撃。

 今の俺が使える最強の技は、オークジェネラルの首を刈り取った。


 ボトリ、とオークジェネラルの頭が地面に落ちる。

 それを見てその場にいた全員が安堵のため息を吐いた。


「皆、気を抜くな。脅威は去ったが仕事は終わっていない」

「「「はい!」」」


 俺は部下たちへ指示を飛ばす。

 戻るまでが任務だからな。


「あの……助けてくれてありがとうございます!!!」


 部下の働きぶりを見ていたら、大扉から出てきた、救助対象の探索者が頭を下げて来た。


「やるべき事をやっただけだ」


「え……でも俺達が遭難したせいで腕が……」


「君たちが遭難したのは、中層にこんなオークジェネラルが出てくるという異常事態に巻き込まれただけだろう。だからあまり気に病むな。何が悪いかと言えば、運と俺の油断くらいだ」


 俺がそういうと探索者は下がって押し黙る。

 納得してくれたか。


「……」

(さっき、扉の隙間から戦いの様子が見えたけど……この人は何者なんだ? オークジェネラルの強さは中層どころか下層のボスクラス。探索者の中でもトップ層の1級達がどうにかする化け物だ。それを片腕やられた状態で秒殺? 有り得ないだろ……?)


 *


 俺は事務所に戻り、事の顛末を報告していた。


「……ん〜ん、私としてもねぇ。今回の、オークジェネラルの一件は本当に残念なんだよ」


 目の前に座る男、神陀多沼かんだ たぬまは下卑た笑みを浮かべ勝ち誇っていた。

 自分で仕組んだことだろうに、よくもまぁそんな芝居を打てるものだ。


 探索者達の遭難理由はオークジェネラルという

 異常事態が原因だったのにも関わらず。


 それを多沼は「単なる救出任務」だなんてうそぶいて、俺達を死地に送ったのだ。


「その腕では探索者として戦えないだろう。

 それに、こんな簡単な任務で大怪我を負うような者は私達四課の副長には置いておけないのだよ千擁四郎くん」


 奴は俺の肩から先が無くなった左腕を見て、ますます笑みを増す。


「えぇ……分かっております」


 俺は自分の感情を必死に抑えて頭を下げ、部屋を出た。


「千擁主任……! 課長とは一体どんな……!」


 部屋を出るなり、先ほど俺が庇った部下が泣きそうな顔で寄ってきた。


「予想より少し酷いな。俺は探索者ランク4級から6級に降格、それと転勤という名の……左遷だ」


「そんな……! すみません! 私がもう少し動けていればこんな事には……!」


 部下は腰を九十度に曲げて謝ってきた。

 ……むしろ謝りたいのはこっちの方だ。

 あんな状況で彼女に負担をかけすぎた、俺が指示を間違えたせいで。


「……経緯はどうあれ。俺がしくじった、それが事実だ」


「でもその経緯が問題なんじゃないっすか! 

一月の間休み無しで北海道から沖縄まで全国を飛び回って、最後には騙し討ちのような任務をさせられて! あんな状況じゃあ誰だって失敗するっすよ!」


 部下はすべての元凶である、四課の長、神陀に憎しみを燃やす。

 まあ部下の言う通りアイツはクズだ。

 自分の地位を守り、出世するためなら何でもやる。

 ……部下をで潰す事でさえも。


「片腕だろうと……俺は必ず戻ってくるからな」


 神陀の本性に気づいたのは三年前。

 もちろんこの職場から逃げるだけなら、転職でもなんでもすればいいが。


 俺は探索者の汚点とも言えてしまう様な、あの男をのさばらせておきたくなくて、必ずその罪を贖わせてやりたかった。


 それになにより、俺を慕う後輩達を見捨てて一人抜けるなんて真似はしたくない。

 いや、出来ない。


「人を集めてくれ、幸いにも今はなんの任務も無いからな」

「了解っす!」


 *


「まずは集まってもらって感謝する。

 集めた理由は他でも無い、俺のことだ。

 俺はとうとうこの職場から追い出される事になった。……ふっ、新設の人員が一人もいない支部に転勤だそうだ」


 部下達は皆俯いている。

 改めて、俺がもう少し上手くやれてたらなと罪悪感が湧いてきた。

 だが、だからといってここで言葉は止められない。


「俺は一時皆のリーダーでは居られなくなる。だがしかし、必ず戻ってきてアイツを打倒すると誓おう」


 俯いた皆が少しだけ顔を上げた。


「だからこれは今の俺ができる最後の命令だ。俺のいない間、誰も死ぬな!」


「「「「はいっ!」」」」


 こうして俺は、神陀多沼への復讐を胸に誓い、職場を去るのだった。

 ……まさかあんなに早くその願いが叶うとも知らずに。

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