第8話 怖いよこの人

 VS

 1級探索者グループ

 ブラックストーム


「へっ、悪あがきしやがって。おい花氏!  や……」


「『裏・死の抱擁』」


 幾ら相手が外道とはいえ、人間だ。

 奴らを殺さないよう、俺は死の抱擁を峰打ちの構えで繰り出す。


「へ? なっ……!?」


 花氏が魔法を唱える寸前、彼を俺の二撃が襲った。彼はそのまま地面に倒れ伏す。


「「!?」」


 残った二人は「何が起きた」とでも

言いたげだ。

 目だけを開いて身体は固まっていた。

 ……チャンスだな、一気に片付ける。


「『辻風』」


「ギャア!? 足が!?」


 威力を抑えた風の刃を飛ばすと、スキンヘッド……起古河が叫ぶ。

 彼の足は切断こそされてないが深く切れた。

 しばらくは立ち上がれまい。


「『霊足』」


 すかさず俺は新たなスキルを発動。

 霊足の効果で高速移動し、

 地面に顔を着けた起古河の元に迫る。


「うっグ……」


 腐っても一級冒険者だな、起古河は立ち上がろうとしていて。


「寝ろ」


「はべあっ!!」


 起古河の後頭部を踏みしめ、トドメを刺す。

 彼は強かに額を地面に打ちつけ、気絶した。


「残るは一人……」


「――ヒッ!?」


 土志炭はようやく目の前に広がる現実を理解したようだ。

 青く怯えた顔、引けきった腰で、やっと背中の剣を抜いて構えた。


「行くぞ」


「う……ス、『スラッシュアッパー』!!」


 俺はあえて「霊足」を解除し、ゆっくりと土志炭に接近する。

 予想通り、彼は反撃狙いの大振りな一撃を繰り出した。


「『刃返し』」


 スキルによる切り上げを見切り、刃返しで叩き落とす。

 剣と刀が派手に火花を散らし、土志炭の剣は地面に突き刺さる。


「んなっ……剣が抜けねぇ!」


「両刃剣はこういう事故がある。だから俺は刀の方が好みだ」


 俺は左手を刀から離し、土志炭の胸倉を掴む。


「がっ……離せ……」


「ああ、言われなくても直ぐに離してやる」


「ぶっ……!」


 刀の柄で顔面を殴りつけると鼻骨が折れた手応えがした。

 鼻血を吹く土志炭、続いて容赦なく腹に膝蹴り。

 それから宣言通り手を離してやった。


「ごっ……おぇ……」


 土志炭はえずいて膝を着く。

 意識は有るがもう戦意は無いだろう。

 今度こそ戦いは終わったな、俺は刀を鞘に納める。


「おい」


「えっ」


「お前らまだ何か隠してるだろ」


 こいつらの語りには釈然としない部分があった。

 雲上の配信に便乗して売名するのはまだ分かる。


 だが、俺の殺害に拘る理由が分からない。

 それに、配信に便乗したいだけなら雲上一人の時を狙えばいいしな。


「お、俺らは依頼されたんだ……か、神陀っていう奴に」


「神陀……下の名前は多沼か?」


「そうだよ! 俺達はそいつにアンタを殺すよう依頼されただけで……」


「そうか」


「グエッ!」


 聞きたいことは聞けたな。

 土志炭の首に手刀を入れて彼の意識を奪った。


「千擁先輩!」


「うぶっ!」


 これからどうしようかと思った矢先、全身に柔らかい感触が! 

 これは……雲上が抱き着いてきたのか!


「一級探索者を一方的に……さすがです!」


「とりあえず離れてくれって!」


 俺は雲上を引きはがす。

 この距離感は心臓に悪い……


「確かに一方的な展開だった。

 だが、今のは相手が俺を見くびってたから良い流れで進められただけだ」


「そんな事無いですって! いくら油断してたからって一級冒険者三人相手取るなんてそうそうできませんよ!」


「……まあ、褒めてくれてありがとう。

それより、すまなかった。

君がアイツらに巻き込まれたのは俺のせいだ。

何の関係もない君を、俺の因縁に巻き込んでしまって」


「いえいえ! 私は千擁先輩となら地獄にでもついていく覚悟ですから。むしろどんどん巻き込んじゃってくださいよ!」


 こんな俺を慕ってくれるのは嬉しいが、ちょっと心配だな。

 ここまで献身的だと悪い奴に騙されそうで……。


 いや、雲上の事はいったん置いておこう。


 この後どうするか……

 さすがに気絶した男三人を引きずって脱出するのは難しい。

 まずはダンジョン運営に通報か? なんて説明すれば……


 *


 side雲上愛羽


 時はブラックストームが襲ってきた直後に遡る。


(なるほど、誰かと思えば)


 雲上も当然ブラックストームの気配には気づいていた。

 千擁の前では、か弱い女の子という風に振舞いたかったし、千擁も気づいているだろうと信じていたので黙っていたが。


(やっぱり千擁先輩も気づいてたんですね。

 それにしても、私が火球を避けるより前に対応するなんて……間違いない。この人は私より強い)


 雲上はここまでのダンジョン探索を通して、

 千擁の実力が特級探索者並みだと確信を持つ。


(さて配信は……)


〈何が起きた!?〉

〈画面真っ暗でわからん〉


 カメラは魔法でどろどろに溶かされてしまったが、配信そのものは生きていて、視聴者も残っていた。


彼等ブラックストームの目的は知らないけど、きっとこの後戦いにはなるよね。

……フフッ。最高の舞台が向こうからやって来るなんて)


 これから一級冒険者の血祭ショーが開かれる。

 雲上にとってそれを配信しないという手は無かった。

 なぜなら、彼女の現在の目標は千擁が正しく評価されることだからだ。


(配信設定変更……カメラを切り替え……)


 雲上はひそかにスマホを起動。

 配信カメラを彼女の靴に仕込まれた、

 小型盗撮……いや、防犯用カメラに変更。


(ホントは後に一人でじっくりローアングル千擁先輩を楽しむつもりでしたけど、仕方ないですよね)


 …………ともかく雲上は配信を復帰させ、千擁の戦いぶりをネットに流した。


〈お、復帰した〉

〈あれはブラックストームの連中!?〉

〈炎上商法野郎共がなぜここに〉

〈良く分からんけど千擁が戦い始めたぞ!!〉


 そしてとうとう決着が着くまでを見届ける。


「お前らまだ何か隠してるだろ」


「お、俺らは依頼されたんだ……か」


(おっと、配信に載せるのはここまでですね)


 雲上は黒幕の名が出そうになった瞬間、配信を終了。

 何故そんな事をしたかと言うと。


(……千擁先輩を潰そうとしたクズは許しておけません。晒すのも悪くないけど、私がこの手で潰す)


 雲上の思惑はともかく、千擁の大立ち回りは瞬く間に拡散されていき、恐ろしい程の反響を呼ぶことになって……

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