第7話 天国と地獄

 side神陀多沼


 千擁と雲上がダンジョン配信をする一日前。

 雲上が重大発表をして世間を騒がせた直後のことである。


 千擁を嵌めて右腕を奪ったパワハラ上司こと、神陀多沼は動画を見て焦っていた。


「チッ……ようやく追い込んだと思ったんだが。

相変わらずしぶとい悪運野郎だ」


 特級の、それも配信業を営んでいる雲上の影響力は計り知れない。

 このまま何もしなければ間違いなく千擁四郎は復活し、オマケに自分の悪事がいつ全世界にバラされるのか怯え続ける事になる。


「……もしもし? 俺だ」


 神陀は対抗策を練り、ある人物達に電話をかけた。


「そっちからかけてくるなんて珍しいじゃねえか」


 電話の相手は神田が以前から提携……

いや、癒着している探索者グループ

「ブラックストーム」のリーダー、土志炭だ。


 彼らは探索者活動の傍ら動画投稿も行っているのだが、そのスタイルはいわゆる迷惑系である。


 迷惑行為からヤラセまで幅広く行っていて、

しかも証拠が残りにくいやり方を熟知しているのみならず、彼ら全員が一級探索者という高い位な為に処分や逮捕された事は一度も無い。


「ああ、一つ頼み事をしたい。ある人間の始末だ」


「へえまさか……」


「千擁四郎。あいつを消して欲しい」


「おいおい笑、無茶言うぜ? あいつ雲上とダンジョン配信するんだろ? そんな注目されてる人間を殺せって?」


「……断れると思っているのか? 普段お前らの行動が大事になり過ぎないよう後始末してやってるのは誰だったかな?」


 神陀は千擁を含む部下を使い、

 ブラックストームがやり過ぎた案件の後始末を毎回請け負っていた。

 これこそが彼らの癒着だ。


「おお怖い怖いw」


「はっ。白々しい声を出すな、お前ら前に言ってたじゃないか。雲上をグループに誘ったら断られてムカつくと。丁度よく復讐する機会だろ?」


「くくっ……確かにあのお馬鹿ちゃんを分からせるには絶好のチャンスだ。わかった、その仕事やるよ」


「やり方はお前らに任せる、頼んだ」


「はいはい。おいお前らー! 珍しく案件入ったぞー!」


 土志炭の声が遠ざかり、電話は切れた。


「これでよし、俺の地位は守られる。それに……」


 神陀は憎しみに顔を歪ませ、呟いた。


「あんな、馬鹿な偽善者が。世間に認められてたまるか」


 *


 side千擁四郎


 ボスを討伐した直後、突如現れた

三人組の男達。


 こいつらはなんなんだ……?


「……何者だ?」


 俺は戦いの構えを崩さないまま、目の前の三人組に問いかけた。

 先頭はチャラついた金髪の青年で、

その後ろには小刻みに震える小柄と、堂々とした態度のスキンヘッド。


 あまり治安の良い集まりには見えないな。


「何者ねぇ。俺の方がアンタにそう聞きたいけどな? 花氏の超必殺技を避けやがって。お陰で企画がパァだ」


「……あなた達は『ブラックストーム』」


「知ってるのか雲上?」


「はい、2年くらい前から有名になり始めた三人組若手探索者グループです。実力は確かなんですけど素行の悪さで有名ですね。……昔、グループに入らないかって誘われたんですよ。もちろん断りましたけど」


「まぁ……同業者を不意打ちするような奴らだし素行は悪いだろうな」


「好き放題言ってくれるじゃん。それにちょっと情報がたりねぇなあ。俺たちは配信者としても活動してるんだぜ? 今日だってそうだったのによお……」


 機嫌悪げに髪をかき上げ、リーダー風の男は言う。


「配信者……いつもこんな事配信してるのか? 捕まるぞ」


「違う違うw今はカメラまわしてねぇよ、いいか? 俺たちの今日の企画はこうだったんだよ。

まずボス魔物が変異しています、そんで調子に乗ったおっさんは哀れにも討ち死に、雲上ちゃんは大ピンチ」


「そ、そこに颯爽と駆けつける『ブラックストーム』」


「そうして俺たちは特級を救った英雄に……そのはずだったのだがな」


「アンタがふざけたラッキーパンチで勝っちまったせいで全部ボツだよ。なぁ?」


「ほ、ホントに酷いよ。

せ、せっかく高いクスリまで用意して舞台を整えたっていうのに」


 微妙に呂律が回っていない魔法使いらしき男の一言が俺は気になった。


「お前ら……まさかあの異常な状態のボスは?」


「ご名答! 発案はこの俺、土志炭!」

「え、演出は、花氏!」

「撮影兼監督は、起古河」


「……」


 まるで締めの挨拶かのように自らの悪行を白状する連中に呆れて言葉も出ない。

 ダンジョン内のボスをわざと強化するなんて下手をすれば死人すら出る、危険な犯罪行為だ。


 ……捨ててはおけない。


「……少し、喋り過ぎたな。お前らの悪事はここで終わりだ。俺と雲上が証人になる」


「終わりなのはおっさんの方だよ! どっちみちアンタには死んでもらわなくちゃいけないんでね。雲上ちゃんはその後じっくり料理すればいい。二度と俺達に逆らう気が起きないくらいになぁ?」


「外道が」


「あ、私は離れときますね!」


「ああ、直ぐに終わらせる」


 雲上が下がると同時に、俺は刀を構えた。


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