第6話 実力で黙らせる
「皆さん見ましたー!? 今の一撃!」
〈見たけど信じられん〉
〈あれぇ……? 俺の知ってる侍と違うぞ?〉
〈切り抜き師急げ〉
〈なんで斬撃が飛ぶんだよ。
なんでそれがキラービー全員真っ二つに出来るくらいの高威力なんだよ〉
「おい、どうした雲上?」
「コメント欄が盛り上がってるんですよ先輩! ていうか今のなんですか? 私も初めて見たんですけど」
「ああ、侍スキルの辻風だ。
侍の中では珍しい遠距離技で、消耗も少ないから重宝してる」
〈調べたけど出てこない。こいつしか使い手居ないんじゃね?〉
〈侍ってそんなに開拓進んでないのか?〉
〈日本固有ジョブだしあんま強くないし……〉
〈これが「あんま強くない」レベルだとは思えないんだけど〉
雲上の言う通り、コメント欄を見直すとたしかに先程とは様子が違う。
そんな簡単に手のひらを返して良いのか?
「……そろそろいいか? いつまでもコメント欄に構ってたら日が暮れるぞ」
「ええ、その調子でもっともーっと活躍を見せてもらいますよ!」
雲上の声援を受けつつ、俺達は順調にダンジョンを攻略していき……
*
「今日は調子が良いみたいだな。特に危なげなくここまで来れた」
上層は難なく突破し、俺達は新宿駅ダンジョン中層のボス部屋の扉前に到達した。
上層ではまだ他の探索者もいたのだが、層を下るに連れて減っていき、どうやら俺達がボス部屋到達一番乗りらしい。辺りは不自然な程静かだ。
ちなみにボス部屋とは、ダンジョンの層が変わるタイミングで存在する、必ず強力な魔物が待ち構えている空間の事を指す。
そしてこのボス部屋を攻略すれば下層に到達出来るので、配信を終われる。
「ええ! カッコよかったですね……敵を紙屑の如く切り捨てていくその様。ずっと後ろで見てましたけど少しもヒヤヒヤしませんでしたし!」
「そういえば、なんだかんだ君の力を借りずにここまで来れたな」
いつもの仕事だと、中層級の魔物を相手にする時は部下の力を借りていたのだが……
これも多少休めたからか?
「……けど、これから相手にするのは中層のボスだ」
「あっ、念の為に私も前に出た方が良いですか?」
「いや、一厘(0.1%)くらいの確率で攻撃を庇いきれないかもしれない。だから出来ればボス部屋の前で待っててくれると有難いんだが」
「ふっ、アハハ! 特級探索者相手に守り切れるかの心配ですか!」
「……あんまり笑わないでくれよ、これでも真剣なんだ」
たしかに、特級探索者の彼女を後ろに置いて守るのは少し変かもしれないな。
けど、俺の目が届く場所にいるなら。
俺は誰だろうと守りたいし、死なせたくない……。
「いえ、先輩が私のイメージ通りの人で安心しただけです。心配しなくても中層のボスくらい、いざとなったら私一人で殺れますから!」
……なんかこの子ちょくちょく物騒なんだよな。
〈イチャイチャしてねぇではよ行けや〉
〈※このコメントはガイドライン違反により削除されました〉
コメントも俺達を急かしていることだし、そろそろ行こう。
「そうか、じゃあ今まで通りって事で」
「はい、私は先輩の後ろで見守りますから!」
俺はボス部屋のドアに手をかけた。
普段はボスに挑むような仕事はないから、こうするのは数年ぶりだな。
記憶の中よりも、ドアを押す感覚は軽かった。
そうして部屋に入り、中央くらいまで行くと部屋の主が振り返る。
「あれは……」
ボス部屋の奥、下層に通じる大きな両開き扉の前にそいつは居座っていた。
ライカン、日本語で人狼とも呼ばれる
魔物である。
獣の腕力に人の如き知能と技術を併せ持った強敵……なのだが。
「WRRRRR……!!!」
……どうも様子がおかしい。
目は真っ赤に血走り、口からはよだれがダラダラと垂れ。
そしてなにより、奴の筋肉は不自然に膨張し血管がビキビキと浮き上がっている。
「え、なにあれ」
雲上の呟きが背後から聞こえた。
彼女にも予想外の事態なのか……
〈俺が戦った時はもっと落ち着いてたぞ?〉
〈変異個体か?〉
〈流石に逃げた方が良くね〉
「まぁ先輩なら大丈夫ですよ! ね?」
「ああ。それに……」
「WRAA!!」
超高速で飛びかかってきた人狼の爪を、刀で受け止める。
「相手さんも獲物を逃がす気は無いらしい」
新宿駅ダンジョン中層ボス
今更撤退を選べる状況では無い。
俺は人狼を蹴り飛ばし、距離を一度離す。
「……WRRRRRRRRRRA!!!」
本来の人狼なら、今ので俺との実力差を察し
て慎重な立ち回りに切り替えてきただろう。
だが、そんな冷静さは欠片も見えず。
人狼は再び飛びかかってくる。
「……ここだ」
「GRWA!?」
空中から爪を振り下ろす刹那に生まれる一瞬の隙。
俺はそこに全力の突きを放つ。
人狼は空中で貫かれ、動きを止めた。
「……!」
しかしそれでも戦意を失わない人狼。
空中で俺の刀を掴み、自分の体から抜こうとしている。
なので、俺は奴が刀を抜き切る前に、刀を奴のへそから右腹にかけて切り開く。
「GYAO!?」
「ふっ!」
血を吹き出しながら地面に落ちる人狼を容赦なく蹴り飛ばす。
「GRRRRR……!」
人狼は吹っ飛び地面を転がっていくが、爪を地面に突き立てて回転を止める。
奴は再び体勢を建て直した。
だが……
「『辻風』」
俺は人狼がもう一度襲いかかってくる前に風の斬撃を飛ばし、追撃を放つ。
「…………!」
風の斬撃は人狼の首を切り落とした。
奴は断末魔すら挙げられず、地面に倒れ伏す。
腹を切り開かれても戦いを続けようとしていたようだが。
流石に死ねば戦えまい。
俺はひとまず戦いの終わりを見届けると、刀を振り刀身の血を払った。
〈うおおおおおおおおお!〉
〈なんだ今の超反応カウンター!?〉
〈間合い離してからの斬撃飛ばしつっよ〉
「さっすが千擁先輩! 変異魔物程度じゃ相手にも……」
「――下がれ!」
こちらに近づいてきた雲上の肩を掴み、俺の背後に投げ飛ばす。
「キャッ」
「『刃返し』!」
間髪入れずに俺はスキルを発動させ、背後から迫っていた、俺達を焼き尽くそうとしていた巨大火球を切り捨てる。
〈!?〉
〈何―――
俺が切り捨てた火球は左右二つに別れた後、配信機材を溶かしたらしい。
ドローンが動作を停止し、コメントを表示していた空中のウィンドウも消えてしまう。
「あーあ……まったく、あいつの言う通りただの底辺四級じゃないらしいな」
「うむ、俺達の台本が台無しだ」
「ひ、酷いなぁ。お、俺の自慢の魔法を無効化しないでよ」
「……何者だ?」
後方から姿を現した、
三人のくせ者に問いかける。
この部屋に入ってから、
ずっと背後に殺気を感じていた……
俺がボスを倒して油断していた所を不意打ちする気だったのだろうが。
こいつらは何が目的だ?
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