第11話 休日出勤 ※またタイトル変わりました

「……こんな時間に帰るのに慣れてはいるけど」


 現在の時刻は深夜3時。

 ようやく家に帰ってきた俺は深く息を吐いて、風呂にも入らず布団に横たわる。


 あの後、ブラックストームの一件はなんとか解決した。

 どうやら異変を察した視聴者が通報してくれていたようで、俺達のいるボス部屋までダンジョン庁の迎えが来てくれたのだ。


 それでブラックストームの連中は連行されていき、俺達も事情聴取を受けることになる。


 ……ここまでは良かった。


 どういう訳か。

 俺はダンジョン庁の施設で身体測定を受けさせられたり、今回とは関係ない昔の仕事について聞かれたりして気づけばこんな時間で有る。


「なんだったんだろうな本当に……」


 俺はそのまま静かに目を閉じて意識を落としていく……


 *


「う……ううう……俺は……俺のせいで……」


 テン、テンテロテロテロテン!

 テン、テンテロテロテロテン!


「はい! もしもしぃ!?」


 眠っていた俺の意識は、スマホから鳴り響く

通話アプリの着信音によって叩き起こされた。

 布団から飛び起きて、思わずキレ気味の声で電話に出てしまう。


「ひゃっ!? も、申し訳ないっす、こんな早朝に! やっぱり後でかけ直し……」


「あ、悪い……寝起きで声が……ンッン! よし。それで、どうしたんだ中柱? わざわざ電話をくれるなんて」


 電話を掛けてきたのは、親四(職場の略称)での部下である中柱白華なかばしら しろかだった。

 オークジェネラルに襲われた時、俺が庇ったあの部下こそが彼女だ。


「どうしたもこうしたもないっすよ! 配信マジ凄かったすね! SNSの話題が千擁主任のことで持ち切りっすよ!」


「ん……? ああ。やっぱり昨日の配信でコメントくれてたの君だよな。そこまで話題になったのか?」


 それは意外だった。

 カメラは破壊されてしまったから、ブラックストームとの一件は撮られてないはずだ。


「そこまでって……ああもう! トゥイッターでも何でもいいんでとりあえず何か見てくださいっす!」


 中柱にうながされるまま、

 トゥイッターを起動。

 ……そこに表示されたのは、通知を示すベルマークアイコンに張り付いた99+の表示。

 タップして見れば夥しい量の「○○さんがあなたをフォローしました!」


「あれ……このアカウントは高校生以来動かしてないはず」


 俺も学生時代は暇も承認欲求も人並みに有ったから、呟いたり「いいね」したりしていた。

 しかし、ここ数年はたまにトレンドを覗く程度で……いったい何が起きた?


 原因を探ろうとトレンド欄を見れば

「千擁四郎」俺のフルネームが1位に輝いていた。


「……まだ悪夢から覚めてなかったのか?」


「現実っすよ」


 その後も調べれば調べるほど、馬鹿みたいな情報ばかり出てくる。

 なぜか俺とブラックストームの一部始終は配信にのせられており、元配信は再生数200万、動画サイトに挙げられた切り抜き動画は500万再生。


「俺はこんなに注目を浴びていい人間か?」


「主任は相変わらず自己肯定感低いっすねー。

 それなのにめちゃくちゃ強いからこんな事態になってるんすけど」


「うう……ちょっと頭痛がしてきた。シャワー浴びてくる」


「いってらっしゃいっすー」


 俺はただの探索者として生きてきただけなのにどうしてこんな……?


 *


「……冷や水浴びたら頭も冷えるものだな」


 昨晩風呂をサボってしまったせいか、朝のシャワーは予想以上に心地よかった。

 お陰で落ち着いて、自分の思考を纏められそうだ。


 そうだな……名が知られて何も感じないわけじゃない。

 だが、俺のやることは変わらない、今まで通り魔物共から人々を守る。

 そして部下達も死なせない。

 ただ、それだけだ。


「……ん。中柱から連絡か」


 通話アプリを立ち上げると、中柱から今日の仕事場のダンジョンについて連絡が来ていた。


 何故そんな連絡が来たのかというと、仕事の舞台になるダンジョンはどこなのか連絡する様に俺が頼んでいたからだ。


 俺が左遷されて来たこの支部は総勢一名なのを除けば普通の労働環境だが、新四は土日祝定時問わず仕事が回ってくる狂った環境だ。


 なので余裕の有る時は俺がこっそり手伝いに向かう事にしていた。

 今日は土曜だが……そろそろ行くとするか?


「おはようございます先輩……ってウヒャア!?  水も滴る良い男!?」


 思案していると、突然雲上が俺の部屋に入ってきた。


「……鍵はかけてあったはずだぞ」


 どうせ一人だからと下着一枚だった俺は毛布で体を隠す。

 いや、本当にどうやって入って来たんだこの娘は。


「鍵はまあそのちょちょいと……」


「ちょちょい……? まあ、とりあえず着替えたいから一回出てってくれると嬉しいんだが」


「はい! 失礼します!」


 *


「鍵の一件はもう少し時間のある時に問い詰めるとして。それで、こんな朝の7時からどうした?」


 俺はいつもの仕事着に着替え直して、雲上を改めて招き入れた。


「もちろん配信ですよは・い・し・ん! 昨日のアレで注目度は天元突破。この勢いを絶やさない為にも、新たなコンテンツを供給しましょう!」


「んん……それまた今度とかじゃダメか?」


「ダメです! 私を筆頭に全世界の人達が先輩の活動を楽しみにしているんですから!」


「全世界と来たか。まあでも世間の反応を見る限り冗談では無いんだろうな」


 困ったな。

 部下を手伝いたいが、雲上のお願いを断って全世界に背を向けるのもな。


 昨日の経験で、配信をしていても特に仕事に支障は出ないのは分かった。

 ……そうだ。良いことを思いついたぞ。

 この状況、上手く利用すれば俺達の職場を変えられるかもしれない。


「分かった。配信はやろうか。ただ、一つ頼んでいいか?」


「はい、なんでもおっしゃってください」


「あんまりなんでもとか言わない方がいいぞ。

んで、お願いがあるんだ。配信をやる場所は俺に指定させてほしい」


「その程度、もちろん良いですよ」


 よし、雲上の了承はとれたな。

 俺は仕事の準備をしつつ、中柱に連絡を送った。

「いつも通り手伝う、待機しといてくれ」と。


 *


 またタイトル変えました……何度もすみません


 旧︰社畜侍、ヤンデレJKダンジョン配信者にブラック職場を滅ぼされる〜昔助けた女の子が立派になって会いに来てくれたのは嬉しいんだけどもう少し自重してほしい〜


 新:社畜侍、ダンジョン配信者のヤンデレJKとブラック職場を滅ばす〜昔助けた女の子は日本トップレベルの探索者になってたけど、法律という概念を無視する〜

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

社畜侍、ダンジョン配信者のヤンデレJKとブラック職場を滅ばす〜おっさんが昔助けた女の子は日本トップレベルの探索者になってたけど、法律という概念を無視する〜 芽春 @1201tamago

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画