第4話 蜘蛛の糸
side:千擁四郎
俺が呆気にとられているのも気にせず、天使のような容姿の少女、雲上愛羽は空から地面に降り立った。
……俺とて探索者の端くれである。
飛ぶ魔物くらいなら幾らでも見たし、切ってきた。
だが、飛ぶ人間は始めて見た。
いや、正確には魔法で一時的に空中を舞うような奴は見た事ある。
しかしここまで自由に、それこそ天使のように空を飛び回るのはきっと彼女くらいだろう。
スキルか高度な魔法か……?
「お久しぶりです千擁先輩!!」
「っ!?」
彼女は地面に降りるなり、俺がギリギリ反応できる位の速さで抱きついてきた。
油断した。つい、いつもの癖で相手を分析してしまっていたから。
花のような香りと柔らかい感覚を全身で感じる……
いや、惑わされるな、千擁四郎。
「待て……!」
俺は雲上を片腕で強引に引き剥がす。
「あっ……ごめんなさい私ったら。やっと会えたのが嬉しくてつい」
「ほっほほ……後は若い人達でご自由に」
そう言って顔を赤らめる雲上。
それと何かを勘違いして去っていくお爺さん。
……正体不明の好意とはここまで怖いものなのか。できれば第三者のお爺さんには居て欲しかった……。
「あ、ああ、そうだな。前会ったのはいつだったか……」
話を合わせつつ、情報を引き出そうとする。
俺が本当に彼女との接点を忘れてるだけという可能性もあるからな。
「直接会ったのは10年と305日前ですね。
私、あの日の約束を胸に頑張り続けて『特級』って言われるくらいになったんですよ?」
10年と……? その頃の俺は高校一年くらいか。
確かに当時からある事務所の
あの時期はダンジョンが雨後の筍の如く増えてたから忙しくて忙しくて……
そんな時に約束した女の子……
*
(いかないで……!)
(……ごめん、俺はもう行かなくちゃいけない。
ここでお別れだ)
記憶が蘇ってくる。
俺は酷いダンジョン災害の生き残りだったその子を保護施設に引き渡した。
直接確かめはしなかったけど……たぶんその子の家族はもう居なかったから。
(やだ!)
だけど、その子は俺から離れたがらなくて、大粒の涙を流していた。
(嫌だって言われても……じゃあ分かった。
俺は君みたいな子を助ける仕事をしてるんだ。
だから、もし、君も誰かを守れるような人になれたらその時にまた会おうね)
(……約束?)
(ああ、約束だ)
彼女の小さな小指に絡めて、指切りげんまんをして。
*
「あっ……!?」
そうだ……あの女の子だ。
この独特の暗さが有る目、間違いない。
「先輩?」
「……久しぶりだな、雲上って呼べば良いか?」
10年前に俺が守った女の子。
それがこの子だ。
お互いに名前すら名乗らなかった間柄だと言うのに、この子はずっとあんな約束を覚えてくれていたのか。
……なんか、今までの自分が報われた気がして泣けてくる。
「ええ、本当にお久しぶりです。先輩を探すのは苦労しましたから」
まあ俺は特級の彼女と違って一般木っ端探索者だからな……むしろ良く見つけたな。
「全国を直接回るのはもちろん、配信業をして人を集めて目撃証言を集い……果ては特級探索者の地位を利用してダンジョン庁への脅しまで……探索者になってからの3年間、そこまでしてやっっっと見つけられたんですよ。まさか先輩程の人がここまで埋もれてるなんて思いもしませんでした」
「うんうん……うん?」
なんか不穏な言葉が聞こえた気がする。
突っ込むべきか……?
「さ、行きましょうか!」
俺が思案していると、
なんの前触れもなく雲上が自分の腕を俺の右腕にガシッと組み付かせた。
「え? どこに」
「そりゃダンジョンですよ、もちろん」
「もちろんと言われても。大体、なんの為に行く必要が有る?」
「……? ああ、それは千擁先輩の名を世間に知らしめる為ですよ。あなた程の人が4級探索者程度で終わっていいはずがありません! ダンジョン行って配信して先輩の実力を見せつければ激バズり間違いなしです」
「……すまないが、俺は別にバズりたくない。
だから俺がダンジョンに行く理由は無い」
「へー……じゃあその右腕を見ても同じ事が言えますか?」
「右腕……なっ!? 元通り生えてる!?」
雲上に言われて初めて気づいた。
彼女が掴んで離さない俺の右腕は、先日オークジェネラルに奪われたはずだ。
だが、どういう訳か何事もなかったかのように元に戻っていた。
「私の評判ご存知ですか?
日本最高の治癒魔法使いとまで言われてるんですから」
まさか治される側が気づかない程に高度だなんて……試しに右手を握ったり閉じたりしてみると問題なく動く。
これが雲上愛羽を特級たらしめている所以なんだな。
「さ、それじゃあ今度こそ行きますよ! 腕の治療費は配信での出演料で払って貰いますからね!」
「いや、だとしても俺にはやるべき仕事が……」
「そんなの特級冒険者権限でどうとでもしてやりますから!」
「待っ――力強っ!」
なおも渋る俺を強引に引きずっていく雲上。
恩が有る分、俺は本気で抵抗も出来ずに連れていかれてしまい……
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