喧噪も雑踏もない。ただの等身大の一日を。

暇つぶしで始めたメッセージのやりとり。
私は『ツキ』という名前のアカウントと幾度かの返信の後、通話を始めるのだが……。

インターネット上の、それも匿名アプリの繋がりならではの、個人を特定するには至らない程度の情報を引き出し、投げかける会話。簡素な相槌と砕けた口調の中からでは、電話越しの相手の性格や真意は見えてこない。だからこそ、心の声として語られる主人公の気だるげな言葉やそぞろな気持ちが浮き出てくるのです。

手ぶり身振り、表情や仕草からは言葉以上のものを受け取れるかもしれませんが、今私が求めているのはそういう会話じゃない。
ただ、漠然とした、寂しさのようなものを紛らわせたいだけ。
情報は最低限でいい。
こういった疲れた気持ちには、匿名の通話という方法は抜群の特効薬なのではないかと感じました。

聞く力も話す力も普段の半分以下。
返答のほどよい脱力感を楽しみながら、ゆったりと読んでみてください。

スッと肩の力が抜けるような気持ちのよい感覚が待っているはずです。

素晴らしい作品をありがとうございました。