第8話 運命

次の授業は異世界の歴史だ。


まるで幼女のような見た目の、長い白髪を三つ編みに結んだ小さなエルフが現れた。小さな丸メガネを掛けている。


彼女はよそよそと台を用意すると、それに登り、背伸びするように教壇に立った。


ゴトン


「よいしょっと。さて、歴史について話し始めます。」


あれが…教師?まるで子供じゃねぇか。シンヤは膝をついてため息を吐いた。


「はぁ…」


「おいそこの人間!今お主は私を失礼な目で見たな!!私はこう見えて209歳だぞ!」


「なっ、なんだと…」


エルフって一体何歳から大人なんだよ…


「コホン!で、では授業を始めるぞ!」


小さなエルフが両手を広げると、大きな地図と年表が投影され、ノルン三姉妹や時空の国の話が展開されていく。


「時空の国は神々によって創られました。ノルン三姉妹、ウルズ、ヴェルザンディ、スクルドは運命を司る存在であり、彼女たちがこの世界の調和を保っています。」


俺は眉をひそめながら話を聞いていた。「運命」だの「神」だの、そんなものが実際に存在するとはまだ信じ難い。


だが、今いるこの場所が、俺の常識を超えた異世界であることも否定できない。


「小さき教師よ、質問、宜しいか」


ふと、エイリアンのジャックが手を挙げる。

彼も俺と同じで異世界の住人では無いから、疑問が湧くのは当然だ。


「ふむ。漆黒のエイリアンよ。なんでも聞くとよいのです」


「我にノルン三姉妹について、もっと教えてくれ」


小さなエルフは胸を張って嬉しそうに応じる。


「ノルン三姉妹は、それぞれ過去、現在、未来を象徴しています。ウルズは過去、ヴェルザンディは現在、スクルドは未来を見守り、運命の糸を織り続けています。」


学生達は興味津々で聞き入っていた。


しかし、俺の心はどこか落ち着かない。運命が決まっているなら、自分が戦ってきた理由はなんだったんだ?地球を守るために自分の意志で選んだはずの行動が、ただ誰かの「運命の糸」だったのか。


「おい、運命ってなんなんだよ」


「それは私にもよく分かりません。ノルン三姉妹方に聞いてみたらどうでしょう」


「…知らねぇのかよ」


「むむっ。さっきからそこの人間失礼ですね。私は歴史の授業を担当しているだけなのですからね!」


「そうだぞ人間!失礼だ!」


「ロリを虐めるな!」


という野次が飛ぶ。


「ええー、コホン!では気を取り直して授業を続けましょう」


授業が進む中、教師は異世界の主要な種族について語り始めた。エルフ、ドラゴン族、ヴァンパイア…彼らの長い歴史や魔法の力がどれほど強大かを説明していく。


俺はその話を聞きながら、異世界の力がどれほど現実離れしているのかを改めて感じた。


しかし、同時に心の奥で沸き起こる焦りがあった。この世界には、俺が今まで戦ってきた地球の常識では到底理解できないほどの力がある。


もし、自分がその力を手に入れることができれば、地球の未来を変えることが出来るかもしれない。


「次回も異世界の歴史について続けますが、特に重要なのは、自分自身がどのようにこの世界と向き合うかです。」


俺が、どの様にこの世界と向き合うか…

まだ何も知らない。この世界の事も、そして、自分自身に眠る可能性の事も。


授業が終わり、学生たちは次々と教室を出て行く。俺も立ち上がりながら、まだ心の中に残る疑問を感じていた。


「運命」に従うのではなく、自分の意志で何を選び、どう戦うか。それがこの異世界での課題になるかもしれない。


授業が終わると、俺はふと立ち止まって考えた。異世界の歴史やノルン三姉妹、運命についての話はあまりに現実離れしていたが、だからといって無視できるものでもない。


この場所では「運命」というものが現実に影響を与えているのかもしれない。


ユージーンが俺の隣に立ち、軽く笑いながら言った。

「運命なんて、自分で変えられるって信じてるよ。シンヤもそうだろ?」


俺は彼の言葉に少しだけ頷きながらも、胸の奥にある焦りを感じていた。この世界で俺が戦う理由、それが見つかるまでは、俺の拳で何ができるか確かめるしかない。


「俺の運命は俺の拳で切り開くさ。」


「そうだね!次の授業はダンジョン攻略だってさ、さぁ行こう。シンヤ!」


「おう、行くか!」


ユージーンに向けて力強く答えると、彼は満足そうに笑った。俺たちは共に次の挑戦に向かって歩き出す。まだこの世界のことは分からないことだらけだが、確実に前へ進んでいるのは感じている。


「楽しみだな!どんなダンジョンかワクワクするよ!」


「ハハッ。そうだな。お前のポジティブな所、俺は嫌いじゃないぜ」


彼の軽やかな足取りを見ていると、俺も少しだけ肩の力が抜ける。そうだ、何が待っていようと、俺は前に進む。それが、この異世界での俺の生き方だ。

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