シンヤはヴィクターの消滅を目にしながらも、達成感はまるで湧かず、ただ胸の奥が重く冷たく締め付けられる感覚だけが残った。

彼の心に静かに広がるのは、勝利ではなく、焦りと虚無感。そして、その時耳に飛び込んできたのは、ユージーンの苦しげな呻き声。

「……はぁ、はぁ……っ……」

「くそ…やっぱり深いな…」

シンヤは自らの手が震えるのを無理やり抑え、ユージーンの脇腹に滲み出る血を止めるため、即座に手を当てた。血が勢いよく溢れ出し、タオルに染み込んでいくのを感じる。

ジュワ…

ユージーンの顔は青白くなり、汗が額に滲んでいる。彼は苦しそうにかみ締めた唇を解き、

「シンヤ…もう無理だ…俺は…」

と弱々しく呻く。

「黙ってろ。余計なこと言うと、血が止まらねぇぞ」

シンヤの言葉は鋭く、怒りすら帯びていたが、その瞳には焦りが混じっている。彼はすぐに医療用キットを取り出し、傷口に縫合針を構えた。しかし、その手は汗で滑りかけ、糸が絡まりそうになる。

ーープチッ…チク、チク、チク……

ユージーンの体は震え、針が肉に食い込む度に、彼の喉から苦しげな声が漏れる。シンヤは歯を食いしばり、痛みに耐えるユージーンの顔から目を逸らすことなく、冷静さを失わないよう自分に言い聞かせながら処置を続けた。

「くっ…あぁ…やめろ、シンヤ…もう無理だ…頼む、ちょっと休ませてくれ…」

ユージーンの呼吸は荒く、まるで肺が火に焼かれているかのような音がする。顔はさらに蒼白になり、瞳は虚ろになり始めていた。

「黙れ！まだ終わってねぇ！」

シンヤは彼の声を振り払うように叫び、止まらない手で縫合を続ける。針が肉を引き裂く感触が彼の指先に伝わるたび、ユージーンの呻き声が痛みと共に空気を震わせた。

「くそ…もう少しで終わるんだ。死にたくなけりゃ、しゃべるんじゃねぇ！俺のせいでお前まで死ぬなんて…ありえねぇからな！」

シンヤは怒りと焦りが混じった声で叱咤しながらも、縫い上げるたびに血が吹き出すのを見て、唇をかみしめた。ユージーンの身体が激しく震えるのを、痛々しく感じながら、それでもシンヤは処置をやめることができない。

最後の一針を打ち終えた瞬間、シンヤは血まみれの手を一度握り締めてから、ゆっくりと開いた。目の前に横たわるユージーンの姿に、安堵する暇すらない。彼の呼吸はまだ浅く、今にも途絶えそうな状態だ。

「ヴェルサンディが言ってたことが本当なら、お前は死なない。だが、もしもそれが嘘だったら…ここで俺はお前を終わらせるか、ちゃんと癒すしかねぇんだ…」

シンヤは息を詰め、怒りを抑え込むように、まるで自分自身に言い聞かせるように言葉を吐き捨てる。ユージーンの瞳は半ば閉じられ、彼の体は冷え始めているが、その口元には、かすかな笑みが浮かんでいた。

「シンヤ…君って奴は…ほんと、手荒すぎるよ…ここまでやるのは君くらいだ…地獄みたいだな…はは…」

ユージーンは苦しげに笑い、言葉が途切れる度に咳き込み、血を少し吐き出す。

「ゲホッ！ゲホッ…」

「いいからッ…もう喋んな！」

シンヤはその笑いに反応せず、ユージーンの体をそっと抱き寄せた。何も言わず、ただその胸に押し寄せる虚無感と、残酷な現実を飲み込むように。

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