拝啓、追放した君へ

葱猫舞々

拝啓、追放した君へ

拝啓、追放した君へ。


やぁ、この手紙を読んでいると言うことは宛名をみて、破り捨てる恨みは時間が解決したみたいだね。


まぁ、いきなり詰論に至るのもあれだし、少し昔話に付き合ってくれ。

別に読み飛ばしてもらってもかまわない。


君を追放した時、許してくれとは言わないよ。

あの時の僕も若かった、君を追放するときの言葉はトゲがありすぎたと後になって反省した。


当時の君は冴えない見た目とはうって変わり有能なスキルを持ってたね。

謙遜せずそのスキルを磨き上げ、ダンジョン攻略に貢献してくれて僕たちのギルドは急速にランクを上がっていった、多分あの頃が一番楽しかった時期だったんじゃないかって僕は思うよ。


ランクがAにさしかかってきた辺りからかな、多くの可愛い女性がパーティーに加わりそれらが囲いながらも騎士団や貴族、国王まで君だけを慕って、様々な異名を持つようになる君に当時の僕はどれだけ嫉妬しただろうかわからない。あの時は劣情で頭がどうにかなりそうだったよ。


パーティー内の女性陣も例外じゃなくてね、君に好意のある女性陣ばっかりだったからね。牽制しあってパーティー内の雰囲気は最悪だったよ。


それに結婚まで秒読みだったマルクスの彼女だったパン屋のロイアが婚約を破棄して君とついて行くと言いだしたとき、マルクスが斧を持って君の寝首を狩りに行こうとしたのを必死に止めたよ。そこは僕に感謝してほしいかな?


だが、君にはなにやら女性を虜にする何かがあったのだろうね。

日に日にパーティー内の雰囲気が悪化して、優秀な人材が逃げ出す事態になってきた。いつパーティーが崩壊しても遅くはなかったんだ。

そうなる前に君を追放するしかなかった。

ギルドランクが下がろうともパーティーが残ればまたランクアップの機会はあるはずだからね。


君に好意のある女性陣、特に君の幼なじみのルーシーから君への追放に関してかなりの反感をかったよ。

それでもパーティー皆が路頭に迷うよりましだった。彼女も優秀な魔導師だったからどうにか残ってもらいたかったけど、君と一緒に行くと言う選択をとったというのが残念でならなかった。僕はルーシーの事が好きだったからね。君にはついて行って欲しくなかったよ。これは年単位で引きづったよ……


君とルーシーが居なくなってからのパーティーはまさに初心者パーティーに毛の生えた程度の依頼しかこなせない弱小パーティーになってしまった。


後方支援の女性達は君がいなくなったことを機にどんどんいなくなっていったからねその女性の多さと異名を持つ英雄がいるパーティに所属している事に魅力を感じた男性陣も抜けていったんだ。


しかしこれは君を追放した代償として受け入れるしかなかった。

周りからも信頼のあった君を追放したということで侮蔑的な目で見られたことも罵倒されたことも少なくなかった。

でも僕たちはそれを選択したわけだ。着実に依頼をこなして信用を取り戻していった結果、どうにかAランクに舞い戻ったよ。


あぁ、ごめん、あまり興味のない話だったね。つい苦労話には興がのってしまったよ。


そろそろ本題を話そう。


君を追放して20年が経った。

正直そのころには僕たちパーティーも安定して後輩も育って1旅団として名も知られるようになったんだ。

そんな時にね、ルーシーとロイアが僕らを訪れたんだ。まだ幼い数名の子ども達を連れて……ね。


正直、僕は2人と幸せに暮らしているものと思っていたからね、何か追放された仕返しをされるものかと冷や冷やしたがそうではなかった。


彼女たちは泣きながら顛末を語ってくれたよ。

数多くの土地で様々な伝説級の魔獣と戦ったらしいじゃないか。

まさか伝承でしかお目にかからない次元竜クルーラーまで討伐するとは正直驚いた。流石は君だ。世界の歴史に名を残す英雄の誇るべき一説に刻まれるだろう。



だが元の世界に帰ったみたいじゃないか?



あぁ、色々と聞いてるよ。

国の王女や貴族に迫られ断れず抱き、孕ませた挙げ句、夜逃げ同然で国から逃げた事。

エルフの国で若いエルフを口説き連れ去ったそうじゃないか、彼女を見つけた時、連れていたのはハーフエルフ。多分君の子供だろう?エルフの国には人間と交わったエルフは二度と国に戻れない法があることを知っていたかい?彼女は二度と故郷に戻れない。


それにね、君は人が良すぎる。稼いだとしても貧しい人に報酬の大半を与えその日暮らしのギルド生活をしていたと聞いているよ。その貧しい人……を装った盗賊はその金で武具を買って盗賊団になって商人や旅人を襲うようになったんだ。僕たち冒険者や国家騎士団まで動員して皆殺しにしたよ。沢山の血が流れた。


多分僕が言わなくても君は気づいていたんだろ?


元の世界に帰るってことはこの世界で後ろめたいことが沢山あったからなんだろ?最後の最後までこの事を隠していたんだ。全部の責任をリセットしてあースッキリしたってなりたかったんだろ。


あぁ、そうそう聞いてるよ。


君は全部のスキルを破棄する代わりに17歳に巻き戻ったんだよね。

その元の世界にも異性の幼なじみがいて君はその娘ともう1度人生をやりなおす気でいるみたいだね。聞いた聞いた。


君の周りには女性がよく集まっていたからね。

元の世界でも幼なじみ以外にも多く女性がまた君を囲ってくる状況になるのはすぐ想像できるよ。同じ男として羨ましい限りではあるよ。


国同士の争いも権力に目がくらんだ貴族達が断れない君をあの手この手で篭絡使用としたってこともすぐに分かる。君は利用されたんだって事も分かる。


貧しい人間に裕福な自分の蓄えを渡せる人間は早々いない。確かにその優しさをつかれ悪用されたはあるが、それでも誰でもできる事ではない。君は元が優しいからね。自分が損してでも相手に寄り添うその姿勢は見習いたい。


でもね。


君を信頼し長い時間をともにした子供持ちの女性達を残し、責任を放棄して元の世界に戻る行動をとった君に僕は非常に憤りを覚えている。

責任の取り方がなっていない。クズの所業だ。


人の人生を無茶苦茶にした挙げ句、勝手に世界をリセットした気になっている君に僕は怒りを覚えている。


君はこの世界には神という者から転移させられたと聞いた。

なぜ君が神に選ばれたか、それは彼曰く『面白そうだから』と言っていた。

であるならば僕が神に対し『さらに面白くする』と持ちかけた場合、僕らの世界からも似たようなことができると思わなかい?


この手紙が君の元に届いているということはそう言うこと。

勝手に自分だけ特別になった気でいられると困るよ。


僕は神へスキルよりもこの手紙を確実に君に届ける事を望んだんだ。

だってそうだろ?君の世界にスキルなんて必要ないじゃないか?

そうしたら神は言ってくれたよ『これはボーナスだ』ってね。

元の世界に帰れるスキルだ。とてもありがたい。


最初は君を抹殺する予定だったんだけどね。

このスキルがあるならば連れ戻してしっかりと責任を果たしてほしい。

今17歳なんだろ?十分に若い、死にはしないよ。死ぬ気で責務を果たせ。


今度は僕が勇者だ。

差し詰め君はパーティーを世界を……ルーシーを不幸にした魔王。


君の世界では僕らが君を追放したことを追放系と言うらしいね。

なら逆をしてあげるよ。

君に責任を放棄させない。必ず見つけて連れ戻してやる。連れ戻し系だ。


僕はお前を絶対許さない。

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